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第四幕 実行
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この辺りは結構瀟洒な住宅が並んでいる。
家関係のお友達らしい。
メアリアンは女中の典型的な紺のドレスにエプロンという格好をして買い物かごのようなものを下げている。そして、私は薄灰色のドレスにベージュの袖口がゆったりとした上着、腰にショールをベルト代わりに巻いていた。
そして、その場に佇んでマンドリンの友達だというアンドレアという女性がやってくるのを待つ。
アンドレアは、毎週、年老いた大叔母の家に見舞いと差し入れに行きこの時間帯に帰ってくるという話だ。
一番行動パターンの読みやすい相手なので、最初のターゲットに選ばれた。
どうやらマンドリンを迫害しているのは上流階級のお友達ばかりで、メアリアンのような中流階級は話しすらできないらしい。そのためマンドリンの冤罪を説明できないらしい。
伯父にも説明しようとしたが、頭から思い込んでいてメアリアンが口をきく前に叩き出したとか。
メアリアンもよく見捨てないものだと感心してしまう。
「とにかく、あのアンドレアが証言すればあのマンドリンのお父様も納得してくれるんじゃないかな」
「うちの身内が本当にごめんなさい」
いくら追い詰められているにしろ、自分の娘に親身になってくれる人間にその対応はあんまりだと思う。
まさかメアリアンのような、中流階級と付き合っていたからマンドリンが道を踏み外したとか考えたんじゃないよね。
なんだか当たっているような気がするが、もしうまく解決したら、伯父にはこのことをじっくりと話し合う必要がある気がした。
中流階級といっても学校に通ってそれなりの良識を叩き込まれているのだ偏見はいけない。
上流階級は家庭教師を雇う。そして付き合いは週に何回かあるお茶会に呼ばれたり、呼んだりで作る。
もっとも私は転生者枠として、いろいろと学校というか塾というかそういう場所に通うことも多かった。
やっぱり上流階級も学校が必要じゃないかと思う。
偏った付き合いは偏見の温床だ。
「あれよ」
メアリアンが指さしたところにいるのは薄い茶色の髪をハーフアップにして、リボンで飾り、ライムグリーンのドレスを着た少女。
マンドリンや私と同じ年のはずだけど、どこか幼い印象を覚える。
それが丸い垂れ目のせいなのか、それとも苦労していない雰囲気のせいなのかはわからないが。
私はメアリアンを引き連れてあえて堂々とアンドレアの前を横切る。
「マンドリン」
とっさにその童顔を嫌悪で顔をしかめる。しかし私は相手に一瞥も与えず、その場を歩いていく。
そして私が相手の視界から消えたころを見計らって、反対側からマンドリンが姿を現すという手はずになっている。
路地の適当な物陰に入り、私は上着を脱いだ。
特注のリバーシブルになっている。反対側は深緑色だ。メアリアンが持っていた籠に私の帽子付き鬘が入っている。それを手早くかぶり、腰に巻いていたストールをほどいて、肩にかける。
それだけで、私の姿は驚くほど変わった。
メアリアンはそのままだが、女中の典型的な格好なので、この辺りではまともに顔を見ている人間はいないだろう。
「様子を見に行くわよ」
メアリアンは頷いた。
行ってみれば、しくしくと泣きまねをするマンドリンと、目を白黒しているアンドレアの姿がある。
むろん、マンドリンのドレスも、私の来ていたものとは似ても似つかない黄色のものにふんわりとしたピンクのショールをかけている。
「ねえ、教えてほしいのよ、アンドレア、私が一体何をしたの、どんなことをすればこれほどの仕打ちを受けるの?」
涙をハンカチで受け止めるふりをする。実はハンカチはあらかじめ少し湿らしてある。
「あ、う、ええ」
何を話していいのかわからないのだろう。アンドレアはマンドリンと、私が去っていった方向を何度も見返していた。
「お願いよ、アンドレア、教えて」
マンドリンの言葉にアンドレアは絞り出すように、はいと答えた。
家関係のお友達らしい。
メアリアンは女中の典型的な紺のドレスにエプロンという格好をして買い物かごのようなものを下げている。そして、私は薄灰色のドレスにベージュの袖口がゆったりとした上着、腰にショールをベルト代わりに巻いていた。
そして、その場に佇んでマンドリンの友達だというアンドレアという女性がやってくるのを待つ。
アンドレアは、毎週、年老いた大叔母の家に見舞いと差し入れに行きこの時間帯に帰ってくるという話だ。
一番行動パターンの読みやすい相手なので、最初のターゲットに選ばれた。
どうやらマンドリンを迫害しているのは上流階級のお友達ばかりで、メアリアンのような中流階級は話しすらできないらしい。そのためマンドリンの冤罪を説明できないらしい。
伯父にも説明しようとしたが、頭から思い込んでいてメアリアンが口をきく前に叩き出したとか。
メアリアンもよく見捨てないものだと感心してしまう。
「とにかく、あのアンドレアが証言すればあのマンドリンのお父様も納得してくれるんじゃないかな」
「うちの身内が本当にごめんなさい」
いくら追い詰められているにしろ、自分の娘に親身になってくれる人間にその対応はあんまりだと思う。
まさかメアリアンのような、中流階級と付き合っていたからマンドリンが道を踏み外したとか考えたんじゃないよね。
なんだか当たっているような気がするが、もしうまく解決したら、伯父にはこのことをじっくりと話し合う必要がある気がした。
中流階級といっても学校に通ってそれなりの良識を叩き込まれているのだ偏見はいけない。
上流階級は家庭教師を雇う。そして付き合いは週に何回かあるお茶会に呼ばれたり、呼んだりで作る。
もっとも私は転生者枠として、いろいろと学校というか塾というかそういう場所に通うことも多かった。
やっぱり上流階級も学校が必要じゃないかと思う。
偏った付き合いは偏見の温床だ。
「あれよ」
メアリアンが指さしたところにいるのは薄い茶色の髪をハーフアップにして、リボンで飾り、ライムグリーンのドレスを着た少女。
マンドリンや私と同じ年のはずだけど、どこか幼い印象を覚える。
それが丸い垂れ目のせいなのか、それとも苦労していない雰囲気のせいなのかはわからないが。
私はメアリアンを引き連れてあえて堂々とアンドレアの前を横切る。
「マンドリン」
とっさにその童顔を嫌悪で顔をしかめる。しかし私は相手に一瞥も与えず、その場を歩いていく。
そして私が相手の視界から消えたころを見計らって、反対側からマンドリンが姿を現すという手はずになっている。
路地の適当な物陰に入り、私は上着を脱いだ。
特注のリバーシブルになっている。反対側は深緑色だ。メアリアンが持っていた籠に私の帽子付き鬘が入っている。それを手早くかぶり、腰に巻いていたストールをほどいて、肩にかける。
それだけで、私の姿は驚くほど変わった。
メアリアンはそのままだが、女中の典型的な格好なので、この辺りではまともに顔を見ている人間はいないだろう。
「様子を見に行くわよ」
メアリアンは頷いた。
行ってみれば、しくしくと泣きまねをするマンドリンと、目を白黒しているアンドレアの姿がある。
むろん、マンドリンのドレスも、私の来ていたものとは似ても似つかない黄色のものにふんわりとしたピンクのショールをかけている。
「ねえ、教えてほしいのよ、アンドレア、私が一体何をしたの、どんなことをすればこれほどの仕打ちを受けるの?」
涙をハンカチで受け止めるふりをする。実はハンカチはあらかじめ少し湿らしてある。
「あ、う、ええ」
何を話していいのかわからないのだろう。アンドレアはマンドリンと、私が去っていった方向を何度も見返していた。
「お願いよ、アンドレア、教えて」
マンドリンの言葉にアンドレアは絞り出すように、はいと答えた。
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