政略結婚をなめるな

karon

文字の大きさ
28 / 28

ひよこさんのため息

しおりを挟む
 水晶玉からウサギの姿が消える。
 そして彼は深く深くため息をついた。
「ま。もう知ってるやつしかいないぞ」
 ハリネズミがにやにやしながらそう言った。
「しかし、人ごとに聞いていてわが身に降りかかってくるとは思わんよなあ」
 ずきっと胸が痛む。
 話を聞いている途中から何やら既視感があった。それでも自分とは関係ないと思い込もうとしていたのだ。
「それで、リッチに実際会ってみてどうだった?」
「あれを怒らせるなんて、生存本能が昼寝しているとしか思えなかったよ」
 見た目だけは美しい部類に入るだろう。だが下手な男と比べたら圧倒的に買っている体格。そして苛烈な性格。そして大の男を軽々と持ち上げられる筋力。どれをとっても怒らせたら死ぬと全身で語っていた。
「人間の身体一つで大の男を絞首刑にできるということを初めて知ったよ」
 あの凍り付いたような無表情のままゆっくりと人を縊り殺そうとしている光景は一生忘れられないと思う。
「しかし、まさか旦那の浮気相手が、自分の女房とはな」
「浮気相手じゃなかったろう」
「うん、まあ、そっちの嫁もけっこう怖いな」
 しみじみとハリネズミが言う。にっこり笑って地獄へ送りに行く性格。朗らかでいていったん根に持ったらいつまでも爪を立てているような。
「弁解させてもらうと、妻はあの時、あれだけの暴言を吐いておきながら、侯爵夫人になった自分にへらへら笑いながら近寄ってきたのがブチ切れた原因だったそうだ。もしそそくさと立ち去っていたら放っておいたと言っていた」
「手の届くところに来たから、陥れてやろうってねえ」
 猫が目を細めた。
「きっちり罠を張ってそれを寸前まで気づかせないとかな」
 ついつい疑いの目で見てしまった自分を全く意に介さずいつも通りでいた妻に女は怖いと思った。
 水晶玉の魔力を切ってガストール侯爵は深いため息をついた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖
ファンタジー
 穢れから産まれる異形の化け物――禍憑(まがつき)と戦うべく存在する神守の家の娘、瑞葉は、従姉妹・花蓮の策略によって、何よりも大事な弟の光矢と共に命を奪われる。  弟の最期を目にした瑞葉の慟哭が暴走した神気を呼び起こす――そして目覚めた時、彼女は過去へ戻っていた。  二度目の人生は、弟と自らの命を守るための戦いであると同時に、これまでの狭い世界を抜け出し、多くを学び、家族との絆を取り戻し、己の望む道を切り拓くための戦いでもあった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 舞台は、日本風の架空の世界です。 《数少ない読者の方へ》  読んでくださりありがとうございます。 少ないながらもポイントが毎日増えているのが励みです。イイネを押してくださると飛び上がるほど喜びます。 タイトル変更しました。 元タイトル「神守の少女、二度目の人生で復讐を誓う」 書き進めているうちに、瑞葉が復習だけにとらわれるのではなく、二度目の人生とどう向き合っていくかが主題となりました。 未熟ゆえに、名前や家格、辻褄が合わなくなった箇所をしれっと変えることがあります。作品を良くするため、何卒ご理解ください。 ※ファンタジー小説大賞にエントリーさせていただきました。 少しでも面白いと思ってくださったら投票よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...