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園遊会

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 女官達が駆けつけ桂花を運び出す間美蘭はその場に立ち尽くしていた。
 女官長と菫が美蘭に話しかけてきた。
「なぜ、ここに来たのですか?」
「玉蘭が、琵琶を持ち出すときに桂花がいたと教えてくれたから、でも本当にいたなんて」
「楽器ですか?なにを?」
「横笛」
 女官長は怪訝そうな顔をする。
「おかしいですね、笛の貸し出しはしていないのですが」
 笛はその口をつけて吹くという演奏法から、貸し出しはあり得ないという。確かに美蘭も笛は吹けないが、人が吹いていた笛に口をつけられるかと言われれば無理だ。
「それは私もおかしいと思った。笛なんて小さいもの、いくらでも仕舞っておけるだろうにわざわざ借りるとか、やっぱり変だよね」
「その笛はどこに? 桂花さんは持っていないし、この辺に落ちてもいないよ?」
 もともと楽器庫に笛はなく、桂花が倒れた辺りにも落ちてはいない。
「そういえば、王に桂花を連れて来いって言われたんじゃないの、報告に行かないと」
 桂花は見つかったが、あの状態では連れていくことはできないだろう。それにどうして桂花が頭から血を流して倒れていたのかもわからないのだ。
「考えたくないけど、あれは襲われたってこと?」
 美蘭がそういうが、鶏頭ならともかく、桂花を襲おうと思う人間がいるだろうか。
「王に報告せねばなりません」
 女官長が重々しく宣言した。

 女官長がいきなりやってきて、先ほど呼び寄せたはずの桂花の妃が何者かに襲われ重傷を負ったらしいと知らされ、あたりは騒然とした。
 桂花の妃は元々それほど目立つ存在ではなく、野心をむき出しにする質でもなかったため、なぜ襲われたのかそれもわからないという。
 桂花の妃はいまだ意識を取り戻さず、事情を話すこともできないというので桂花の妃の周辺にいた妃に話を聞くことになった。
 玉蘭の妃と勿忘草の妃だ。
 大小二人の妃がかしこまっている。さらに桂花の妃を呼んで来いと命じた菫の妃もその横でかしこまっていた。
「私が、桂花殿を発見いたしました」
 勿忘草の妃は顔を上げないままそう答えた。
「桂花殿が襲撃に合う少し前に私が会いました。私は楽器を借り出しに行くところでおそらく桂花殿も同じだと思われました」
 玉蘭の妃はそれだけ言うと押し黙った。
 他の妃達もそんな三人を凝視してひそひそと何事か話し合っている。
「玉蘭殿は本当に会っただけだと思います。もし犯人ならば今日会っていないとだけ答えればいいんですから」
 慌てて勿忘草の妃が言い添える。
「それは疑っていない、それに今は桂花の意識が戻っていないが、戻れば何事かすぐに話すだろう。普通は話せないようにするものなのだがな」
 話せないようにって。
 言われた意味に女たちの背筋に氷柱ができたような心中になる。
「桂花殿と、それと鶏頭殿のこともありますが」
 小声で菫が王に話す。
「それはどうでもいい」
 どうせそれは見え透いていると言いたいのだろうが、まじかでその言葉を聞きとがめた妃達は何とも言い難いものを感じた。
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