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調理

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 買った食材とかかった金額を記した板を柴源に渡す。
「水は庭に井戸があるのを確認しました」
 そう教えてもらった。真影の実家は井戸のある場所までしばらく歩かなければならなかったのでそれはありがたい。
 そしてさっそく調理にかかった。
 台所には一通りの調理器具はそろっていた。
 炒め鍋、煮込み鍋、蒸し鍋、包丁、まな板、麺棒、すり鉢。これだけそろっていたら何でもできる。
 金武が米を研いでいた。聞いてみると米を炊くぐらいしかできないようだ。まあまるでできないよりはましなのだが。
 真影は買ってきた鳥と魚をさばき始めた。
 葉野菜は生のまま軽くかじってみる。
「ちょっと炒めれば大丈夫だな」
「炒め物にはこれがないとな」
 深々が葱を刻み始める。
 天暁で見慣れたものより、緑の部分が多く細い。
 最初は葱だと気づかなかった。天暁では大体白葱だった。
「葱少しちょうだい」
 真影は白身魚をすりつぶして団子を作り、それに葱をすり交ぜた。
「これはだしを取る必要がないんだよね」
 そんなことを言いながら汁物に仕立てる。
 軽く火を通して食べる直前に温めなおせばいい。
 鳥は部位ごとに切り分けたもの一部は炒め物にするようにした。そして残りは細かく刻んでこちらも練り上げた。
 そして買ってきた粉をこねてみる。
「馬鹿な、まとまらないだと」
 試行錯誤したが、小麦粉のような扱いやすさは全く生まれなかった。
 やむを得ず、円形に伸ばして、二つ折りにして鶏肉で作った種を挟むことにした。
 それを湯気の立った蒸し器に入れる。
 野菜と肉を痛める音が始まった。

 そんなこんなで何とか調理が終了した。
 一堂に会し、食事を振り分ける。
 全員恐る恐るといった風に箸を進めた。
「なんか食べなれない味だな」
 圭樹が言うが、調理班がじとっとした目で睨む。
「いや、まずいって言っているわけでは」
 実際まずくはなかった。覚悟していたよりずっとましだった。
「仕方ないよ、まさかこんなに食材が天暁とこっちじゃ違うとは思わなかったし」
 真影は謎の粉で作った蒸し物を口に入れる。
「やっぱり違うな」
 小麦の記事で作ったのとは違うねっとりとした舌ざわりだった。
「そりゃそうですよ、これは米粉ですから」
 柴源がそう言って同じく蒸し物を口に入れる。
「この国は南は米、北は小麦が主食ですが、天暁はちょうど中間点にありますからね、それに年貢で全国から集まりますし」
 だから米と小麦が療法手に入ったのかと真影は納得した。
「じゃあ、これからは小麦は手に入らないんですかね」
「あっても高いですよ」
 名前も知らない葉野菜のいためものを食べながら真影は思う。
 多分これが王の言いたかったことなんだろう。天暁だけがこの国のすべてではないと。
 おそらく北には北の真影の想像もつかないことがあるのだろう。それもひっくるめてこの国だと。
 魚醤を使った汁物は豆醤を使ったものより旨みが濃いと思いながらそんなことを思った。

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