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聞いてもよかったんだろうか

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 高級住宅街から、下町へと歩いていく。
 どんどん舗装が悪くなっていく。きれいな方眼の石畳から埃っぽい土を押し固めた、雨の日にはドロドロになる道に代わっていく。
 地盤が悪いのでこんな道には馬車を乗り入れることができない。
 そのはずなのに、大き目の馬車がついてきている。
「いつまでそうしているんだ、さっさと乗れ」
 官吏の制服を着た男が真影を手招いた。
 どうやら今晩は家に帰れないようだ。
 真影はため息をついた。

 元来た道を逆走し、真影は王宮内に入った。
 造りは立派だが人気のない道をひたすらまっすぐに歩いていく。
 巨大な扉の前で、一人の男が立っていた。
 そっけない部屋着だが、その鍛えられた体躯は隠せない。
 端正な面持ちをしたその男は重厚な扉を開く。
「さっさと入って来い」
 真影はとっさに膝をつこうとする暇も与えず、扉の内側に招き入れる。
 さっさと扉の内側に身体を滑り込ませ、真影は両手をそろえて膝をつく。
「お久しぶりです、陛下」
「挨拶はいい、それよりどういう状況だ」
「状況と申しましても」
 真影が見た限りでは、拝家では今年、合格者を出すことができなくなったので、真影に苦し紛れに白羽の矢を立てたとしか言いようがない。
「つまり、あれのことがばれたわけではないのだな」
 かちゃと、陶器の触れ合う音がした。
 見れば、茶器を持った姉が、そこに立っている。
「適当に淹れるわよ」
 こちらもそっけない格好だ。髪も一つに括ったままだ。
「姉さん、後宮って、辛い?」
 唐突な質問に姉、美蘭は目を丸くする。
「何よ、唐突に?」
「父さんと結婚したほうがましだと思うくらい辛い?」
 美蘭はますます混乱したようだった。
「なんでこんなところで父さんが出てくるわけ?」
「母さんが、後宮入りが決まったのに、父さんと駆け落ちしたって聞いたんだ」
 美蘭は息をのんだままその場に立ち尽くす。
 卓に、茶器を置いて、美蘭は天を仰いで考え込む。
「私も、短期間とはいえ下級妃だったから、その時の経験からすると、結構きついわ」
「そうなの?」
「複数の女と男一人、あぶれたら、自分一人だけの問題じゃない、一族の攻防がかかっているという圧力をかけられる。あぶれなくても、あぶれた女達の追い落としでまあ、いろいろされちゃうのよ、うん、あれはひどかった」
「あの、姉さんがそんな目にあったわけ?」
「ううん。違う女よ」
 なんとなく、聞いてはいけないことを聞いたような気がして真影は口をつぐむ。
「逃げたとしても、私は母さんを責められないわ、逃げる方法が方法だと思うけどね」
 美蘭の言葉に、真影も頷く。
「それと、ことの発端は父さんだって?」
「まあ、そうだね」
「とりあえず、あんたは寧州に戻りたいわけ?」
「そう、とりあえず今はだけど」
「そうね、とにかく、私たちができることをしましょう、でも拝家の当主と会ったことがあるけど、別に何も言われなかったけどね」
「顔、覚えていないんだね」
 化粧が厚いからとは言わなかった。
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