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旧友
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鈿花はしばらく聞いたことが理解できなかった。
「今、なんとおっしゃいました?」
なんでも一か月、王宮は離宮に引っ越すのだという。
「なんで?」
思わず素で答えてしまい、慌てて取り繕う。
皇帝以下幹部の大臣達のほとんどが、離宮へと移る。離宮は、王宮から三日ほど馬車で移動した場所にあるという。
鈿花は知らなかったが、これは通年行事なのだそうだ。いわゆる、縁起を担いで恵方にある離宮で過ごすようなものだ。
そして、妃達も移動するのだそうだが。
「妊婦に三日間の馬車での移動を強要するってどういうことです?」
現在懐妊中の妃がいる。そろそろ安定期に入るらしいが、妊婦は妊婦だ、現在必要なものは安静にしていることのはずだ。
鈿花は貴妃翡翠付きの舞姫として、その移動についていくことになった。
退屈をしのぐために楽士や歌姫を連れて行くのは珍しいことではない。
そして、やはり心細いのだなと貴妃の心情に大いに同情した。
貴妃付きの女官は鈿花を胡散臭そうに見る。
「それで、貴妃様よりお言葉がございます。ついてきてください」
そう言われればいやも応もない鈿花は再び後宮に足を踏み入れた。
貴妃の住まう場所は、あまり手が入っていない印象だった。
淑妃の住まいはここより確実に手が込んで金がかかっている。
しかし、もともと基本が美しい建築なのであえて手を加えなかったのかもしれないと思った。
その人は、長椅子に寝そべる姿勢で鈿花を迎えた。
鈿花は膝をつき恭しく頭を下げる。
「こちらへ」
鈿花を手招きした貴妃は傍らの侍女に下がるように言った。
「久しぶりね」
かつてとは違う気弱気な笑みを浮かべ、その人は鈿花の手を取った。
「あのね、私、命を狙われているかもしれないの」
それほど意外とは思わなかった。むしろ大いにありうる事態だ。
「私のここに触ってくれる?」
そう言って、鈿花の手を、自分の脛に触れさせた。
脛を撫でていると一か所で、小さな突起のようなものに触れる。
「これは」
「一度折れて、つながった跡、老師が手当てしてくれたんだけど、かなりひどい折れ方をしたみたいで、左右で少しだけ、足の長さが変わったの」
そう言って、貴妃は靴を脱いだ。
右足だけ詰め物をしてある。長さの変わった分を補うためだろうか。
「歩けはするけれど、もう走れないわ」
そう言って目を伏せる。
「その足で、よく持ちこたえられたね」
廟の石段で、足を払われて、普通なら健全な足を持った人間でも転倒するはずだ。
「体の均衡を保つって、さんざんやらされたからね」
片足だけで、どれほど動けるか。左右で一セットやらされたことを思い出す。
「でも、もう、私は戦えないでしょう」
かつて戦えたものが、その術を失う、それはとても恐ろしいことなのだろうと鈿花にも見当はついた。
「離宮は、後宮より警備が手薄だから」
「それに、男はやっぱり近づけないからか」
貴妃は小さく頷いた。
「王宮に私をとどめようとしたのは、このため」
貴妃は再び目を伏せて、頷いた。
「ずるいと言ってもいいよ」
「言わない、仕方のないことだから」
そう言って、鈿花は妃の足から手を離した。
「今、なんとおっしゃいました?」
なんでも一か月、王宮は離宮に引っ越すのだという。
「なんで?」
思わず素で答えてしまい、慌てて取り繕う。
皇帝以下幹部の大臣達のほとんどが、離宮へと移る。離宮は、王宮から三日ほど馬車で移動した場所にあるという。
鈿花は知らなかったが、これは通年行事なのだそうだ。いわゆる、縁起を担いで恵方にある離宮で過ごすようなものだ。
そして、妃達も移動するのだそうだが。
「妊婦に三日間の馬車での移動を強要するってどういうことです?」
現在懐妊中の妃がいる。そろそろ安定期に入るらしいが、妊婦は妊婦だ、現在必要なものは安静にしていることのはずだ。
鈿花は貴妃翡翠付きの舞姫として、その移動についていくことになった。
退屈をしのぐために楽士や歌姫を連れて行くのは珍しいことではない。
そして、やはり心細いのだなと貴妃の心情に大いに同情した。
貴妃付きの女官は鈿花を胡散臭そうに見る。
「それで、貴妃様よりお言葉がございます。ついてきてください」
そう言われればいやも応もない鈿花は再び後宮に足を踏み入れた。
貴妃の住まう場所は、あまり手が入っていない印象だった。
淑妃の住まいはここより確実に手が込んで金がかかっている。
しかし、もともと基本が美しい建築なのであえて手を加えなかったのかもしれないと思った。
その人は、長椅子に寝そべる姿勢で鈿花を迎えた。
鈿花は膝をつき恭しく頭を下げる。
「こちらへ」
鈿花を手招きした貴妃は傍らの侍女に下がるように言った。
「久しぶりね」
かつてとは違う気弱気な笑みを浮かべ、その人は鈿花の手を取った。
「あのね、私、命を狙われているかもしれないの」
それほど意外とは思わなかった。むしろ大いにありうる事態だ。
「私のここに触ってくれる?」
そう言って、鈿花の手を、自分の脛に触れさせた。
脛を撫でていると一か所で、小さな突起のようなものに触れる。
「これは」
「一度折れて、つながった跡、老師が手当てしてくれたんだけど、かなりひどい折れ方をしたみたいで、左右で少しだけ、足の長さが変わったの」
そう言って、貴妃は靴を脱いだ。
右足だけ詰め物をしてある。長さの変わった分を補うためだろうか。
「歩けはするけれど、もう走れないわ」
そう言って目を伏せる。
「その足で、よく持ちこたえられたね」
廟の石段で、足を払われて、普通なら健全な足を持った人間でも転倒するはずだ。
「体の均衡を保つって、さんざんやらされたからね」
片足だけで、どれほど動けるか。左右で一セットやらされたことを思い出す。
「でも、もう、私は戦えないでしょう」
かつて戦えたものが、その術を失う、それはとても恐ろしいことなのだろうと鈿花にも見当はついた。
「離宮は、後宮より警備が手薄だから」
「それに、男はやっぱり近づけないからか」
貴妃は小さく頷いた。
「王宮に私をとどめようとしたのは、このため」
貴妃は再び目を伏せて、頷いた。
「ずるいと言ってもいいよ」
「言わない、仕方のないことだから」
そう言って、鈿花は妃の足から手を離した。
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