たとえるならばそれは嵐

karon

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沈着

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 不吉な、そう不吉な光景だった。
 血を吐いて倒れた老人はどんどん色が変わっていく。
 通常死んですぐそんなに劇的に色が変わったりしないのだが。
「毒、かな」
 小さく鈿花は呟いた。
 聞こえていたのか貴妃も心持頷いたようだ。
 傍らに控えていた侍女は硬直している。
 数秒の硬直、そしてそれが緩んだ時、ほとばしったのは悲鳴だった。
 皇后、そして上級妃達の傍に控えていた侍女たちが次々と悲鳴を上げていく。
 徳妃が即座に立ち上がって倒れた老人に駆け寄っていくが、侍女たちに取り押さえられた。
 徳妃が死体に触れて汚れてはいけないとそのような趣旨のことを叫んでいる。
 一番落ち着くのが早かったのが徳妃の侍女のようだった。
 背後を振り返ると貴妃の侍女たちは無様に後ろのめりに座り込んでいる。
「落ち着きなさい、そちらに危険はないわ」
 そう言って鈿花はそれぞれの肩に手を置いてなだめる。
 どかどかと兵隊たちが中に駆け込んでくる。
「隅に行きましょう、これからどんどん人が入ってくるわ、邪魔になってはいけないでしょう」
 そして、隣にいた賢妃に声をかけた。
「貴女も壁際によったほうがいいわ、なんだか殺気立っているみたいだし」
 腰を抜かしている淑妃を横目に賢妃の手を引いて壁際に移動する。鈿花も侍女たちを促して移動させる。足の悪い貴妃が、健常な賢妃を支えるように歩く。それくらい賢妃の足取りはおぼつかなかった。
 宗教関連の人間なので、徳妃は関係者として皇帝の傍に歩いていく。
「随分、落ち着いているわね」
「あの当時、死体は腐るほど見たわ、 いまさら人が死ぬぐらいでね」
 鈿花は無言だ。
「お妃様方は退出なさってください」
 皇帝の傍らに立つ側近が慌てて衛兵らに指示を飛ばす。
「自室に戻っていればよろしくて」
 ただ一人平然としている貴妃に衛兵は頷いた。
「護衛を出します、部屋にお戻りの後は鍵をかけて、新たな知らせがあるまで出られないように」
 貴妃は頷いて歩きだす、そのあとを賢妃が続いた。
 錯乱し意味の分からないことをがなり立てている淑妃をちらりと横目で見る。
「あの、あれは」
「放っておきなさい、私の関与すべきことではないわ」
 冷ややかな声だった。

 賢妃はなぜか貴妃の部屋に戻った。
「まとまっていたほうがいいと思って」
 鈿花がお茶を淹れて持ってくる。
 小皿にお茶を少量移し、毒見をした。そして、もう一つの小皿を賢妃付きの侍女に渡す。
 そちらも毒見をしろと示すとおずおずと小皿に移して飲んだ。
 かすかな花の香りが漂う。花弁と茶葉を混ぜたそれを二人の妃は無言で口を点けた。
「桂花はまだまだ先ね」
 秋はもう一つ向こうの季節。それから貴妃は真顔になった。
「だって、貴女食事どうするの? 私はあらかじめ食材をいくらかこちらに運び込んであるけど、あなたはそうじゃないでしょう、調査にどれほど時間がかかるかわからないから念のためよ」
 確かに兵糧攻めはつらい。
 しかし思ったより早く扉の前の鈴が鳴らされた。
 侍女が慌ててやってきた。
「宰相閣下でございます」
「通して、賢妃様、別室に行かれますか、それともここに残りますか?」
 賢妃は残るとだけ言った。
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