たとえるならばそれは嵐

karon

文字の大きさ
50 / 73

堂々巡り

しおりを挟む
 皇帝は韓将軍を見下ろしていた。
 膝をついて彼は皇帝にとつとつと語っていた。
「お前が言いたいのは、恵介達を殺した男の話か?」
 恵介達は巫女の予言を受けた。いずれ、この国の頂点に立つものと戦うと。
 彼は単にその相手を倒せば自分がこの国の頂点に立てると思ったようだが、そんな意味はない。彼が戦う相手が昇り詰めると言っていただけだ。
「貴方様が斬ってくださればよろしかったのですが」
「無茶を言うな、俺のもとにたどり着く前に死んだ奴をどうやって斬るんだ?」
 謀反人恵介達は死んだ、それはもうあっさりと。
 彼は都で民間人の虐殺を行った。聞いた皇帝が呆れるくらい意味のない虐殺。
 そして、民間人が暴動を起こし、そのさなかに惨殺されたらしい。
 自業自得を絵にかいたような最後だった。
「それで、お前は何が言いたいんだ。まさか、暴動を起こした民間人達が今度は俺を倒すために暴動を起こし、俺は哀れにも討たれるのか?」
「そんなことは」
「そういっているのも同然だな、この俺の治世は、そのような暴動が起きかねないものなのか?」
 韓将軍の背中に生ぬるい汗が伝った。
「陛下の治世は極めて安定しつつあります」
 皇帝は鷹揚に頷いた。
「それならば俺の治世を危うくする存在などあるはずがないな」
 そう言いつつ皇帝は気づかれないようにため息をついた。
 この男は過剰にその巫女の予言を気にしている。そのため暴動に参加していた少年達を無理やり自らの部下に引き抜いたほどだ。
 恵介達を殺めた男に関してはその少年達は黙秘を貫いているようだ。
 それがますます韓将軍の焦燥を煽るのだが、決してその名前も容姿も年齢もこたえようとしないらしい。
 それほどに人望のある人間だったのか、それとも混乱のさなか、誰がやったのかわからなかったのか。
 皇帝自身は案外後者だったのではないかと思っている。
 この男にも困ったものだと皇帝は思った。之が皇帝を心配しての行動だとわかる。しかしどう考えても杞憂としか思えない。
「何故そこまで気にするのだ?」
 韓将軍は唇をかむ。
「私の調べた限りでは、一人の老軍人が少年達に軍事訓練を施していたという話です。治安が乱れ、それを正す役人も仕事をしないので自衛のために民間人の少年達にそれを任せたと。そして反乱軍に対し指揮を執ったのもその少年達であったと聞いています」
「となると、その老軍人は」
「すでに死亡が確認されています」
「それは残念だな」
 優秀な指導者になりそうな人材だったのに。
「一軍人に指導を受けたとしてもその少年達が、正規の訓練を受けた軍隊相手に勝利を飾るとは考え難い事態です。そして、その指揮官を務めた者が、恵介達を殺めたと聞きました」
「なるほど、危惧するにふさわしい実力を持っていたというわけだ」
 それだけの実力者ならこちらに引き入れて将軍職に就けるのもやぶさかではない。
「陛下、何か不穏なことを考えていませんでしたか」
「そんなことはないが」
「とにかく、民間人の反乱ぐらいで揺らぐ私の治世ではない、そしてそもそも反乱など置きようもないぐらい盤石な体制を整えている」
「だからこそ、それが覆るときは悲惨なことに、どれほどの被害が出るか」
「どうしてその巫女の予言を気にするのだ」
「その巫女を個人的に知っております。嘘をつくような娘ではありませんでした」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...