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環玉館
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環玉館、その建物は離宮の一番端に建っていた。
そのような場所に建物が建てられた理由は向こう側から滝を眺めることができるから、らしい。
暑い夏の日、滝の立てる水音が涼気を呼ぶようにと建てられたという話だ。
滝を見物するためだけの建物とか、どれだけ無駄だとそんな無粋なことを考えている女がその建物の中にいた。
その女は外見だけはとても美しかった。
張り出した窓を背景に床几に座り。そよと吹く風が長い髪を揺らす。
動くのはそれだけ。
いったい自分は何をしているのか。徳妃は空の食器棚の中に隠れて薄く開けた戸の隙間から貴妃の様子をうかがいながら自問自答していた。
あの妓女が挙動不審だということに気づいたのは昨日のことだった。
明らかに仕事以外のことに時間を使っている。
だがそのことに気づいたとしても何もするつもりはなかったのだ、今朝までは。
だが、次に貴妃に対し、妙な行動をとっていることに気づいてしまった。
見知らぬ、明らかにこの離宮にいるような人間でない男に会っていることに。
それは妙に崩れた男だった。もともとは整っていたものが崩れてしまったとしか言いようのない。その男には残骸のように元のおそらくまともな官吏だった名残が残っていた。
顔に小さな傷跡がいくつもあった。元は武人であったのかもしれない。
あの妓女は貴妃の腹心じゃなかったのか。
関係ない、自分には関係ないと何度も言い聞かせ、忘れようとしたが、その妓女が貴妃を連れ出すのを見て我慢ができなくなった。
一番身分の低い侍女のお仕着せを着こんで髪をくくっただけにする。
それで化粧もしなければ、地味がおゆえに本当にただの下女にしか見えない。
何をしようとしているのか。自分の立場など、淑妃よりましというだけのこと、何かしたところでそれが改善するわけがない。
貴妃はただ漫然と座っている。そしてあの妓女の姿は見えない。
皇帝は、縄にくくられた下働きを見下ろしていた。
本来このような身分の低い罪人など皇帝が直接顔を合わせることなど皆無なのだが、その日に限っては違った。
なぜそのようになったかといえば、彼の犯した罪状が、皇帝寵姫に対する殺害未遂であったからだ。
貴妃の食糧に、大量の有毒植物を混入したのが彼だった。
いかにも気弱そうなその顔を見下ろす。
おそらく単独犯ではない。
「誰に命じられた?」
じっとりとした目で男を見下ろす。
「あの女が、許せなかったからです」
「妃に怨恨ですか」
傍らの部下が意外そうな顔をする。少なくとも彼の知る妃は寵姫という立場にかかわらずおとなしい人畜無害な女に見えていた。
「あれが一体何をしたと?」
少なくとも自分の意思で、他人に積極的に危害を加えるような女に見えなかった。
「あの女が、殺した」
その言葉にその場にいた全員が呆けた。
「誰を?」
貴妃の前に一人の男が現れた。
あの崩れた男だった。貴妃はその表情を変えず相手もただ無表情だった。
そのような場所に建物が建てられた理由は向こう側から滝を眺めることができるから、らしい。
暑い夏の日、滝の立てる水音が涼気を呼ぶようにと建てられたという話だ。
滝を見物するためだけの建物とか、どれだけ無駄だとそんな無粋なことを考えている女がその建物の中にいた。
その女は外見だけはとても美しかった。
張り出した窓を背景に床几に座り。そよと吹く風が長い髪を揺らす。
動くのはそれだけ。
いったい自分は何をしているのか。徳妃は空の食器棚の中に隠れて薄く開けた戸の隙間から貴妃の様子をうかがいながら自問自答していた。
あの妓女が挙動不審だということに気づいたのは昨日のことだった。
明らかに仕事以外のことに時間を使っている。
だがそのことに気づいたとしても何もするつもりはなかったのだ、今朝までは。
だが、次に貴妃に対し、妙な行動をとっていることに気づいてしまった。
見知らぬ、明らかにこの離宮にいるような人間でない男に会っていることに。
それは妙に崩れた男だった。もともとは整っていたものが崩れてしまったとしか言いようのない。その男には残骸のように元のおそらくまともな官吏だった名残が残っていた。
顔に小さな傷跡がいくつもあった。元は武人であったのかもしれない。
あの妓女は貴妃の腹心じゃなかったのか。
関係ない、自分には関係ないと何度も言い聞かせ、忘れようとしたが、その妓女が貴妃を連れ出すのを見て我慢ができなくなった。
一番身分の低い侍女のお仕着せを着こんで髪をくくっただけにする。
それで化粧もしなければ、地味がおゆえに本当にただの下女にしか見えない。
何をしようとしているのか。自分の立場など、淑妃よりましというだけのこと、何かしたところでそれが改善するわけがない。
貴妃はただ漫然と座っている。そしてあの妓女の姿は見えない。
皇帝は、縄にくくられた下働きを見下ろしていた。
本来このような身分の低い罪人など皇帝が直接顔を合わせることなど皆無なのだが、その日に限っては違った。
なぜそのようになったかといえば、彼の犯した罪状が、皇帝寵姫に対する殺害未遂であったからだ。
貴妃の食糧に、大量の有毒植物を混入したのが彼だった。
いかにも気弱そうなその顔を見下ろす。
おそらく単独犯ではない。
「誰に命じられた?」
じっとりとした目で男を見下ろす。
「あの女が、許せなかったからです」
「妃に怨恨ですか」
傍らの部下が意外そうな顔をする。少なくとも彼の知る妃は寵姫という立場にかかわらずおとなしい人畜無害な女に見えていた。
「あれが一体何をしたと?」
少なくとも自分の意思で、他人に積極的に危害を加えるような女に見えなかった。
「あの女が、殺した」
その言葉にその場にいた全員が呆けた。
「誰を?」
貴妃の前に一人の男が現れた。
あの崩れた男だった。貴妃はその表情を変えず相手もただ無表情だった。
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