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材料調達

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 タロはこの辺りに食糧を供給している市場に向かった。
 背後にむくつけきという言葉の代名詞な軍人が張り付いている。
 できるだけ、目立ちたくないというタロの主張を受けて、真っ黒な軍服は着ていない。
 私服で、そこそこの年齢の男とタロは、髪色が似ていることもあってぱっと見親子に見えた。
 タロはキャベツに似た葉野菜をしげしげと見た。
 マグロウと呼ばれている。
 この辺りでは葉野菜といえば大体これだ。それもまたキャベツのスタンスにある野菜だと思われる。
 イモ類は種類が多い。サツマイモに似たものから、サトイモに似たもの、各種いろいろとそろっている。
 今でこそ主食はパンだが、元々は芋を主食にしていたのではないだろうか。そんなことを考えた。
 買い物かご代わりの頭陀袋を荷物から引っ張り出す。
 とりあえず試作品でも作るかと、適当に買い物を始めた。
「金は後ろのおっちゃんからもらって」
 頭陀袋に無造作に野菜を詰めていくタロを一瞥すると、懐から金の入った袋を取り出す。
「ミネラルとビタミンねえ」
 そう言えば、自分はあまり健康に留意した料理を出す店ではなかったなと思いながら、食材を吟味する。
「後は、肉だけど、傷むとまずいから届けてもらうようにしてもらえる?」
 タロは出る前に考えていた腹案で、肉を売っている店に向かう。
 本日別行動のカラはどうしているかと思いながら。

 カラはマデリーンを伴って図書館に向かっていた。
 司書に調べたいことを訪ねて所定の場所に向かう。
「あった、これだ」
 久しぶりにこういう場所に来た。
 分厚い本を手に取った。
「ああ、久しぶり」
 前世ではあまりこういう場所に来たことはなかった。
 書物に親しむようになったのは今生のこと、今の状況がわけがわからな過ぎて、とにかく調べるしかないと、家族と離れ、学校に行くようになってから様々な書物を漁った。
 それを考えれば、肉体的なことでなく精神的なものも、前世と随分乖離しているのかもしれない。
 植物学の本を紐解く。
 かつて前世では、健康のため雑穀米を食べようという流行があったことを思い出す。ミネラル不足を補うため、パンに使う小麦以外の穀物を当たってみることにしたのだ。
 食用穀物のページを開く。
 今パンの材料となっている小麦、これはまんま英語で小麦だ、それが盛んに栽培される前によく栽培されていた穀物が数種類あるということが分かった。
 しかし、小麦食に今は完全に移行しているので、ほとんど食べられておらず、チナと呼ばれる穀物が家禽の飼料として使われているらしい。
「ううん、でも昔は人間も食べていたんだし」
 とりあえず、カラはチナと呼ばれる穀物を手に入れることにした。
 他の穀物はどうやって手に入れたらいいか今読んでいる本でははっきり書かれていない。
 どのように食べられていたか、簡単な調理法をメモして、カラは本を閉じた。
 メモは日本語で取っている。別に意味はない、こちらの読み書きはできるが、習った時間が短いためまず日本語でメモして、それから訳す習慣になっているだけだ。
「どうせ、メモを共有するのはタロだからなあ」
 こんな時はタロが同じ日本人で本当に良かったとおもう。
「じゃ、買い物をしたいんだけど、動物の餌ってどこで手に入るの?」
 その言葉にマデリーンの顔が引きつった。
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