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炊事風景

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 慣れない自転車で、ちょっと身体の節々が痛い、そう訴えてみたら、タロは優しく座ってていいよと言ってくれた。
 そして、石でできた擂粉木のようなものを渡し、カラの前に洗面器ほどの石臼をどんと置いた。
 香草の束をどっさりと積み上げて、座っていてもこの作業ならできるだろうとにっこりと笑う。
 かくしてカラは石臼の前に座り、コツコツと石でできた擂粉木で香草を叩き潰していた。
 もう一人の派遣されていた助手が、泣きそうな顔で、白っぽいものをごしごし洗っていた おそらくモツだろう。
 カラの位置ではあまりよく見えないが、肉質の感じからそう判断した。
 タロは忙しく働いている。
 野菜を刻み、何かを茹でたり、カラが黙々と作業している間も調理場を飛び回っている。
 洗われた肉を細かく刻んで鍋で炒め始める。
 さらに野菜も一緒に炒めその後たっぷりと水を注ぐ。
 メインディッシュはシチューかな。そう推測する。
 黙々と作業していれば、いつかは終わる。
 カラの目の前にはすりつぶされた香草でいっぱいの石臼がある。
「ご苦労さん、もう足は疲れてないよな」
 一瞬いたわるようなことを言って、それから笊を持ち出した。
「サラダ用の野菜を取ってきてくれ、サラダ菜は敷地内の畑で育ててるんだそうだ」
 サラダ菜の分量と、畑までの地図を渡される。
「せっかく摘みたてを食べられるんだ、だったら料理する寸前に積まなきゃな」
 そう言われて、カラは籠と鎌を取って、畑へと足を進める。
 家庭菜園で摘み取り作業自体は慣れているので、それほど時間はかからなかった。
 しかし次は収穫したサラダ菜を洗ってちぎる作業が待っている。
 数十人分の料理を作る、それは本当に重労働だった。
 ちょっとした手伝いで、カラがもうなんか嫌になるくらい。
 タロはバットに入れたものをオーブンに入れていく。
「もしかして、プリン?」
 天板に湯を張っているのを見て思わず聞く。
「いや、テリーヌ」
 思わぬおしゃれメニューにカラはちょっと驚く。
「作り置きのできるメニューも考えてるんだよ、パテの段階で冷凍保存できるから、解凍して加熱調理すればいいかなと」
 この世界では魔法を使った道具で食品は冷凍できる。どういう技術を使っているのかカラは知らない。元々、カラのいる村にそんな上等なものはなかった。
「大人数のものを一時に作るってなると、いろいろ考えなきゃならんのよ、調理に仕える時間は決まっているからな」
 そのうえ栄養バランスと、調理手順もいろいろと縛られ鵜となると、本当に大変だ。
 カラは揚げ物は筋肉の育成にタブーだと言ってしまったのだ。
 結局私はタロに丸投げしただけかと、少し自己嫌悪に陥ってしまう。
「サラダ菜はどうする?」
「もうちょっと水に放しといてくれ」
「はあい」
 とにかくできることをやろう。
 カラはサラダ菜の始末に取り掛かった。

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