ダークアクターMOB

karon

文字の大きさ
10 / 14

叫び

しおりを挟む
 男が入って来た当初はとても静かだった。さっきまでせわしなく大声で話していたグループもまるで凍り付いたように黙りこくって男を見ていた。
 瞬くほどのつかの間の静寂。
 そのあとは爆発するような悲鳴だった。
 敦は悲鳴すら上げられず上ずったうめき声をあげて椅子からずるずると転げ落ちた。
 もしかしたら腰を抜かしたのかもしれない。
 綺羅の方は顔を伏せて、こちらは悲鳴を噛み殺すことに成功していた。
 敦を殺る時にあれ、邪魔だな。
 あれを先に片づけるべきだろうか。俺は乱入してきた男を観察していた。
 筋骨隆々としているが目が逝っちゃっている感じだが。
 俺は目立たないながら一応身体は鍛えている。最近はボクササイズも始めた。それなりに動ける自信はある。
 人を傷つける度胸は言うまでもなく。死なん程度に痛めつけることは可能だろう。しかしその場合お手柄とか言われて警察に連れていかれるのはちょっと困るが。
 それにあれはあくまで前座、本命がいるんだし。
 俺は敦を横目で見た。敦は歯の根が合わないようだ。そして綺羅はどこかいぶかしむような目で俺を見ていた。
「なんだか嫌な目で敦を見ていたね」
 思わず喉がぐうっとなった。なんでこんな時にこいつは冷静に俺を観察なんかしているんだ。
 だがそれ以上のリアクションは取れなかった。
 有機溶剤の頭がくらくらするような異臭が濃くなった。
 後ろに置いてあったらしいポリタンクを床にまき散らしている。
「逃げるなよ、逃げたらこれに火をつける。あっという間に燃え広がるぞ」
 換気の悪い地下の店で放火なんかされたら焼死するより先に一酸化炭素中毒でお陀仏だ。一酸化炭素中毒は言われているほど楽な死に方じゃないらしい。
 綺羅はハンカチを取り出して口に当てていた。
 俺も袖で口元を覆う。中毒になるのは御免だ。
「でえがやああああ」
 わけのわからない叫び声を男が発した。それは笑い声だったらしい男は狂ったように笑う。この異臭の中大きく口を開けて。どうやらまともな思考をしていないようだ。
「うええ」
 綺羅は悪臭に辟易しているようだ。奇麗な顔をしかめている。
「大丈夫か」
 俺はあえて綺羅の方を介抱してやった。
 たぶん、腰を抜かしている姿で俺に介抱されたらその恥で敦の心が傷つくだろう。せめてもの俺の優しさだ。
「あれさあ、薬決めちゃってる?だとしたら神経とかまともに働いているのかな」
 綺羅は冷静だ。敦が盛大に泡を食っているからだろうか。他の人間が取り乱したら遅れたものは冷静になるしかないという俗信を思い出す。
「多分、これからどうしてこんなことをしたか叫びだすんじゃないか?」
「なんでわかるの?」
「だってお約束だろう」
 俺は正しかった。大声ではあるが極めて聞き取りにくい声で男はいろいろと叫びだしたのだ。
「お前らが悪いんだ」
 要約すればそんなことを言っていた。たぶん嘘ではないんだろう。明らかにここにいる連中はいいことをしているとは言い難い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...