ダークアクターMOB

karon

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殺し屋の資質

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「あのさ、上手くやったよね」
 綺羅はそっと俺の顔を覗き込んで言った。
「見てたよ」
 そして綺羅はとても奇麗に笑った。
「なんのことだ?」
 俺は上手く嘘をつけていただろう。もしかしたらカマをかけたのかもしれない。
「お前さ、あんなことがあったのによくそんな不謹慎な冗談言えるよな、どんな神経してるの」
 俺は心底奇妙なものを見る目で綺羅を見ていた。
「大丈夫か?やっぱりいろいろショックだったのか?」
 俺はとにかく訳が分からないなりに考えたリアクションをとり続けた。
 しばらく綺羅は真顔だったが、大きく息を吐いた。
「ごめん、ちょっと疲れちゃった」
 そう言ってその場を立ち去った。
 俺はその後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。
「まさかな」
 そう思ったが先ほど見せた邪悪な表情。あれは誘いをかけているな。

「というわけで、あれ把握してました?」
 俺は斎藤さんに確認を入れた。
「ご苦労様、ちょっと危なかったけど無事お仕事終了ね」
 合わせた両手を右頬にあてて斎藤さんはにっこりと笑った。
「はあ、何とか終わったけどいろいろイレギュラーなんでしたが、そうじゃなくて綺羅の話ですが」
「ああ、綺羅君ね」
「知ってますか、あれちょっとおかしい」
「うん、あの子中学からの筋金入りなのよね」
 あっさりと答えられた。知ってたのかよ。
「まあ、あの子手口が固定されているから、あの子普通に正当防衛狙いが多いのよね」
 正当防衛狙いって、言われて背中に冷たい氷柱ができた。
 口封じを誘っていたのかあいつ。
「だったらあいつを殺し屋にすればいいんじゃよかったんじゃないの」
 思わず俺の唇がとがる。実際義務教育終わる前からのベテランならそうすればよかったんじゃないか。
「あのね、あんな目立つ子を殺し屋に仕立てられるわけないでしょ、あの子ならすぐに顔を覚えられちゃうわ」
「悪かったな、三日で忘れられる顔で」
 メイクしても目立つようにならない俺に顔、もはや特技だとプロのメイクさんも呆れていた。
 なんか個性というものが浮き上がってこないらしい。
「まあ冗談よ、あの子は駄目よ、だって色情狂は娼婦に向いていないのと同じ」
 意味不明なたとえだが、わかるようなわからんような。
「趣味でやってる子って、仕事にはできないってことよ」
 まあ確かに、ふらふらとあの大男のところに寄って行ったし。正当防衛狙いならあっちの方が確実って思ったのかな。
「まあ、だからM君に声をかけたのは我ながら正解だったわと思ったわ」
 斎藤さんの言葉に俺は喜んだりしない。この状況は喜べないだろう。
 まあ、とにかく仕事は終わった。俺はまた役者稼業に戻ることにする。

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