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テオドールの願い事
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時の妖精とやらは、夜が明けてもテオドールの部屋に居座っていた。
ベッドからはね起きると、ニヤニヤ笑っている時の妖精を無視して、食堂に向かう。
女中たちが、テオドールをテーブルに招くが、食卓についているのはテオドール唯一人だ。
「母上はどうした」
そう尋ねれば、テオドールの横についていた女中は、目を伏せた。
「奥さまは、お加減が優れないとかで」
どうせ、ベッドの中で泣いているのだろう。
テオドールは白けた気分でゆで卵をつついた。
無言で食事を終えると、テオドールは一応と体裁をつけて母の自室にお見舞いに行った。
案の定母親は泣きはらした目で、テオドールを迎えた。
いい加減、あきらめてしまえばいいのに。
「私は、あのかたの心の傷をいつか癒せると信じて、、なのにまだそれができていないから、ごめんなさいテオドール、私が至らないばかりに」
すでに聞き飽きた泣き言。
テオドールは空疎な慰めの言葉をかけながら思う。
父親などあてにせず。この家で自分なりの楽しみなどみつけて、そうやって生きるのも道の一つだと思うのだ。
実際テオドールはあきらめていた。だから勉学にはげみ、将来に備えていた。
「母上、母上が元気になっていただかないと僕も」
最後の言葉は呑み込んだ。
面窶れした顔に、それでも笑みを浮かべて母親は、テオドールの頭をなでた。
テオドールはどの道勉強しかすることはないので、自室にすぐに戻った。
扉を開けると自室には、あれがまだいた。
殺風景な部屋のなか毒々しい色が目にあまりやさしくない。
「いつになったら消えるんだ」
苦虫をかみつぶしたような顔で、テオドールが相手を睨みつける。
「お前が願いを言って、それでお前の問題が解決した時だよ」
妖精は空中に座ったまま、そう言った。
「とにかく、何かしなければお前は消えないってことだな」
「願い事を言うだけではだめだ。きちんと解決しなければね」
胡散臭いニヤニヤ笑いを浮かべて時の妖精はテオドールを見た。
「思いついたことはあるんだ」
テオドールは慎重に言葉を選んだ。
「そもそもの原因を考えればだ。一つの事柄がまず重要なんだ」
「一つの事柄とは?」
「セシリア」
父の前妻の名前を答える。
「セシリアのせいで父親は人が変わったようになり、その父に母は泣かされ、僕は無視される。だからすべての不幸はセシリアのせいだ」
内心では、セシリアのしたことをいつまでも根に持ち続ける執念深い父親こそ攻めていたが。それはあえて口に出さない。
「だけど、僕はセシリアが具体的に何をしたか知らないんだ」
セシリアが裏切った。テオドールが知っているのはそれだけだ。
どのような状態で、いったいどういう裏切りをしたのか全く知らない。知っていそうな人間に尋ねてもだれも答えてくれない。
おそらく母もそれを知らないのだろう。
「だから、セシリアが生きていた時代を見たい。時の妖精と言うならそれくらいできるだろう」
できないなら用はない。
テオドールはそう言って時の妖精を睨んだ。
ベッドからはね起きると、ニヤニヤ笑っている時の妖精を無視して、食堂に向かう。
女中たちが、テオドールをテーブルに招くが、食卓についているのはテオドール唯一人だ。
「母上はどうした」
そう尋ねれば、テオドールの横についていた女中は、目を伏せた。
「奥さまは、お加減が優れないとかで」
どうせ、ベッドの中で泣いているのだろう。
テオドールは白けた気分でゆで卵をつついた。
無言で食事を終えると、テオドールは一応と体裁をつけて母の自室にお見舞いに行った。
案の定母親は泣きはらした目で、テオドールを迎えた。
いい加減、あきらめてしまえばいいのに。
「私は、あのかたの心の傷をいつか癒せると信じて、、なのにまだそれができていないから、ごめんなさいテオドール、私が至らないばかりに」
すでに聞き飽きた泣き言。
テオドールは空疎な慰めの言葉をかけながら思う。
父親などあてにせず。この家で自分なりの楽しみなどみつけて、そうやって生きるのも道の一つだと思うのだ。
実際テオドールはあきらめていた。だから勉学にはげみ、将来に備えていた。
「母上、母上が元気になっていただかないと僕も」
最後の言葉は呑み込んだ。
面窶れした顔に、それでも笑みを浮かべて母親は、テオドールの頭をなでた。
テオドールはどの道勉強しかすることはないので、自室にすぐに戻った。
扉を開けると自室には、あれがまだいた。
殺風景な部屋のなか毒々しい色が目にあまりやさしくない。
「いつになったら消えるんだ」
苦虫をかみつぶしたような顔で、テオドールが相手を睨みつける。
「お前が願いを言って、それでお前の問題が解決した時だよ」
妖精は空中に座ったまま、そう言った。
「とにかく、何かしなければお前は消えないってことだな」
「願い事を言うだけではだめだ。きちんと解決しなければね」
胡散臭いニヤニヤ笑いを浮かべて時の妖精はテオドールを見た。
「思いついたことはあるんだ」
テオドールは慎重に言葉を選んだ。
「そもそもの原因を考えればだ。一つの事柄がまず重要なんだ」
「一つの事柄とは?」
「セシリア」
父の前妻の名前を答える。
「セシリアのせいで父親は人が変わったようになり、その父に母は泣かされ、僕は無視される。だからすべての不幸はセシリアのせいだ」
内心では、セシリアのしたことをいつまでも根に持ち続ける執念深い父親こそ攻めていたが。それはあえて口に出さない。
「だけど、僕はセシリアが具体的に何をしたか知らないんだ」
セシリアが裏切った。テオドールが知っているのはそれだけだ。
どのような状態で、いったいどういう裏切りをしたのか全く知らない。知っていそうな人間に尋ねてもだれも答えてくれない。
おそらく母もそれを知らないのだろう。
「だから、セシリアが生きていた時代を見たい。時の妖精と言うならそれくらいできるだろう」
できないなら用はない。
テオドールはそう言って時の妖精を睨んだ。
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