10 / 25
歯車の軋る音
しおりを挟む
セシリアは刺繍の手を休めた。
小さくため息をつく。
最初のころは夫もよくかまってくれたのに、この頃は仕事が忙しいと夕食の席にすらいないことが多い。
最初に二人で花壇を作った時のことを少しせつなく思い出す。
楽しかった。
実際その夫にとっては楽しいばかりでなくただ悪夢の連続だったのだがそんなことは全く気にせずセシリアは物思いにふけりながらも刺繍を再開した。
緑の糸で葉を縫い埋めていく。
それ自体は機械的な作業なので、セシリアは無心に針を動かした。
「お嬢様、お茶になさいませんか」
そう言ってテーブルに茶碗を並べる女中にセシリアはため息をつく。
「お嬢様じゃないと何度言えばわかるの」
そう言って今まで縫っていた糸の始末をして詩集を中止する。
「カルミア、もしかしてこの話に不満だったの?」
セシリアは小さく眼を細めた。
カルミアは数年前からセシリアに仕えていた。
若く見えるが実際はセシリアより五歳ほど年長だ。
セシリアを常に子供扱いするカルミアを昔は苦笑していなしていたが、最近の態度は少々目に余る。
「カーマイケル様にどんな不満があると」
身分は当然釣り合っている。資産にも問題はない。それに女関係に不穏な噂があると聞いたこともない。それに年齢もせいぜいで五歳違い、気にするほどもないし、精悍な美丈夫という形容詞がずばり当てはまる。
セシリアとしては何の不満もない縁談だ。
「ねえ、何かあるの?」
もしかしてカルミアは、自分の知らない何かを知っているのかもしれない。
セシリアは小さくため息をついた。
「カルミア、言いたいことがあるならちゃんと話しなさい」
セシリアがそう言っても、カルミアは、無表情を崩さずお茶の支度を始めた。
なんとなく波風が立ってきた。その気配はテオドールにも感じられた。
遠い過去に起きてしまったこととはいえ、その辺の情報はテオドールには完全に隠されていたことなので、これから何が起こるかさっぱりわからない。
それに、テオドールはここにいない存在だ。何が起ころうと干渉することはできない。
だから分かっていることは、父が死なずにすむということだけ。
その結末だけが分かっている。
出口と入口だけわかっている迷路を見ている気分だった。
「気にすることはないよ、だって君が生まれる前に全部終わったことなんだから」
相も変わらず口の減らない妖精のニヤニヤ笑い。それがやけに癇に障った。
「だけど、これを知らなければ僕の不幸の原因はわからないんだろう」
「そうだね、でもこの道を選んだのは君だよ」
一層時の妖精の唇はつりあがった。
小さくため息をつく。
最初のころは夫もよくかまってくれたのに、この頃は仕事が忙しいと夕食の席にすらいないことが多い。
最初に二人で花壇を作った時のことを少しせつなく思い出す。
楽しかった。
実際その夫にとっては楽しいばかりでなくただ悪夢の連続だったのだがそんなことは全く気にせずセシリアは物思いにふけりながらも刺繍を再開した。
緑の糸で葉を縫い埋めていく。
それ自体は機械的な作業なので、セシリアは無心に針を動かした。
「お嬢様、お茶になさいませんか」
そう言ってテーブルに茶碗を並べる女中にセシリアはため息をつく。
「お嬢様じゃないと何度言えばわかるの」
そう言って今まで縫っていた糸の始末をして詩集を中止する。
「カルミア、もしかしてこの話に不満だったの?」
セシリアは小さく眼を細めた。
カルミアは数年前からセシリアに仕えていた。
若く見えるが実際はセシリアより五歳ほど年長だ。
セシリアを常に子供扱いするカルミアを昔は苦笑していなしていたが、最近の態度は少々目に余る。
「カーマイケル様にどんな不満があると」
身分は当然釣り合っている。資産にも問題はない。それに女関係に不穏な噂があると聞いたこともない。それに年齢もせいぜいで五歳違い、気にするほどもないし、精悍な美丈夫という形容詞がずばり当てはまる。
セシリアとしては何の不満もない縁談だ。
「ねえ、何かあるの?」
もしかしてカルミアは、自分の知らない何かを知っているのかもしれない。
セシリアは小さくため息をついた。
「カルミア、言いたいことがあるならちゃんと話しなさい」
セシリアがそう言っても、カルミアは、無表情を崩さずお茶の支度を始めた。
なんとなく波風が立ってきた。その気配はテオドールにも感じられた。
遠い過去に起きてしまったこととはいえ、その辺の情報はテオドールには完全に隠されていたことなので、これから何が起こるかさっぱりわからない。
それに、テオドールはここにいない存在だ。何が起ころうと干渉することはできない。
だから分かっていることは、父が死なずにすむということだけ。
その結末だけが分かっている。
出口と入口だけわかっている迷路を見ている気分だった。
「気にすることはないよ、だって君が生まれる前に全部終わったことなんだから」
相も変わらず口の減らない妖精のニヤニヤ笑い。それがやけに癇に障った。
「だけど、これを知らなければ僕の不幸の原因はわからないんだろう」
「そうだね、でもこの道を選んだのは君だよ」
一層時の妖精の唇はつりあがった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる