時の魔法

karon

文字の大きさ
上 下
13 / 25

届かない

しおりを挟む
 セシリアは空っぽの箱を見ていた。箱に手紙は入っていない。
 実家の家族からずっと手紙がこない。
 最初の一週間は忙しいのだろうと思っていた。しかし、一月を過ぎる頃になると、不審を覚えるようになった。
 セシリアから手紙を出しても、返事も来ない。
 結婚という非常事態がようやく日常となったこの頃、別の非常事態が動いているのではないか。そんな漠然とした不安を感じる。
 家族からの連絡が一切ない。一度も家もとを離れたことがないセシリアだったが、これほどの長期にわたって、連絡のないのは異常事態なのではないだろうか。
 家族は必ず手紙を出すと約束してくれた。
 家族に何事か起っている。何度も出したはずの家族への手紙を無視するくらいに。
 しかしセシリアにそれを知るすべはない。
 返ってこない手紙を書くくらいしかできることはない。
 夫に相談してみようかとも思ったが、実家の様子がおかしいなど、ちょっと相談するには抵抗があった。
 自分の実家に何事かトラブルが起きていると申告するのは結婚時の契約に抵触する恐れがある。
 貴族の婚姻は契約だ。それに抵触した場合どういうことになるのか、そのあたりの詳しいことはセシリアは知らない。
 知らないが、何かまずいことになるのは間違いないと思っている。
「どうしよう」
 セシリアはため息をついた。
 何も思いつかない。
 それに最近、この家の家人もなんだかよそよそしい感じがして、余計にいたたまれない気分になる。
 この家の女主人として切り盛りをしなければならないと思っているが、この家の家令はいたって頑固で、セシリアにそうした主導権を渡そうとしない。
 予備知識すらもらえないので、セシリアはこうして自分の部屋で過ごすか庭で過ごすしかない。
 こちらの家でもなんとなく最近夫を含めて人々の表情が硬い気がしている。何か起きているんだろうか。
 そんなことを考えながら、再び箱をチェストに戻す。
 テオドールはそれを黙って見ていた。
 セシリアの裏切りが事実であれ、誤りであれ、これから起こることは碌な事じゃない。そう確信してしまった。
「もしかして、セシリアの実家の人がどうこうして、それが最終的にセシリアが悪いってことになったのかな」
 一番ありそうな可能性をテオドールは想定してみる。
 だがそれが正しいとすれば、結局何もできないということになる。
 これから起こる碌でもないこと、それを阻止さえできれば、何かが変わるかもしれないと思っていた。
 だけど、誰もテオドールの姿を見ることもできず、声も届かない状態で、何ができるのだろう。
 どうしよう。二人は同時に呟いた
しおりを挟む

処理中です...