時の魔法

karon

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別離

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 目が覚めると、セシリアはすでに見慣れつつある嫁ぎ先の寝室ではなく、見知らぬ部屋にいた。
 寝台の傍の窓には可愛らしい色のカーテンが下がっていたはずだ。貴婦人の部屋にふさわしい華奢な作りな飴色の窓枠。
 断じて鉄格子などはまっていなかった。
 壁もむき出しの石造りで、何かの物語で読んだ。牢獄の描写そのままだ。
 セシリアはしばらく寝台の上で固まっていた。
 セシリアの寝かされていた寝台の右側の壁に、扉がある。
 セシリアは寝台からはい出した。そして着ているものを確認する。
 簡素な部屋着だ。しかし寝間着ではない。寝台に入る前に着替えなかった。
 セシリアは自問する。確か昨夜は……。

 セシリアとその女中カルミアの姿が消えた。その知らせは早々に父親に伝えられた。
 もぬけの空の部屋を見回す。しかし、セシリアがいないということしか異常はない。
「なくなっているものは?」
 女中のダリアに尋ねるがダリアはかぶりを振る。
「私にはわかりません。あの方の私物はカルミアの管轄でしたから」
 それでも衣装をしまうクローゼットの中を見回した。
「極端に衣装が減っているようには見受けられません。おそらく持ち出したとしても一着か二着ほどかと」
「逃げたか」
 それを見ていたテオドールはかぶりを振る。
 逃げるはずがない、何もやましいことがなく、何が起こっているか理解もしていなかったセシリアが、自分から逃げようと考えるはずがない。
「いつからいなかったんだ」
「夕暮れ時にはいたと窓の外から部屋に人影が見えたと庭師が言っていました」
「まあ、人が起きている時間には行動できないだろうな」
 テオドールは首をかしげた。父親はセシリアが自分の足で出ていったと思っている。だがセシリアがそうしたはずがない。
 だとすればカルミアという女中があやしい。
 カルミアという女中一人でセシリアを無理やり連れていくなんてまねができるだろうか。
 自分と同じくらいの体格の人間を一人で運ぶのは普通無理だ。
 となれば、誰か共犯者がいるんだろうけれど、それはこの館の人間じゃない。
 外部から人を引き込んだ?
 でもいったいどうして?
 その時、別の女中が、あわてて駆け込んできた。
「サザン伯爵が、旦那様にお目通り願いたいと」
 その名前を聞いて全員色めきたった。
「サザン伯爵がどうして」
「わかりません、ですがどうしてもと」
 軽く息を荒げて女中が答えた。
「サザン伯爵はどちらに」
「客間にお通しいたしました」
 客までは初老の男性が窓辺に佇んでいた。
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