時の魔法

karon

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脅迫

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 脅迫状が届いたのは翌日のことだった。
「ずいぶんと直截的な行動に出たものだ」
 手紙を手にしたまま呟く。その視線は手紙に向けられている。
「サザン伯爵、この筆跡に見覚えは?」
 一読した手紙をサザン伯爵に渡す。
 受け取ったサザン伯爵は文面を見て眉をしかめた。
「記憶にはない。カルミアはそもそも読み書きができなかったしな」
「できなかったと考えるのは早計でしょう。おそらくできたはずです、でなければ書類を盗めない」
「そうだな、できないことをできるように見せかけるのは不可能だが、その逆は簡単だしな」
 テオドールは二人の様子を見た。
 なんとなく会話の内容だけで。その手紙の内容が知れた。
 二人について圧力をかけているのだ。
 セシリアの命が惜しくば、と。だがそれは容易に聞ける内容ではないようだ。
「領地の外に出た形跡はありません。すでに街道には手のものが見張りを立てている」
「領地内か、ならば潜伏場所に心当たりでも?」
「あります」
 父親が話したのは、ずいぶん前に使われなくなった、なんでも父親の曽祖父、テオドールには曹曽祖父が最後に使ったきり使われていない狩猟小屋だそうだ。
 小屋と言っても一般市民の邸宅の数倍の規模がある。
 石造りのがっちりとした作りなので使われなくなった今も壊すほうがひと手間なのでそのまま放置してあるのだそうだ。
 馬車と馬を使って半日というところか。
 もしかしたら父親はそのあたりにもともとあたりをつけていたのかもしれない。その態度は確信に満ちていた。
「近くの村の住人を使って、包囲網を敷きましょう、こちらの私兵も使います」
 父親がてきぱきと地図を片手に指揮を取り始める。
 側近が近隣の村に触れを知らせるためにあたふたと出ていく。
 にわかに騒然とする屋敷の中、テオドールはうつむいて、立ちすくむ父親の姿を見ていた。

 パンと、干し肉を茹でただけのスープを前にしてセシリアはため息をつく。
「ちゃんとした料理なんて贅沢なものを期待されても困りますわ、お嬢様」
「カルミア、お父様や旦那様に言うことを聞いてほしくて私をこんな場所まで連れてきたの?」
「さようでございます。お父様方が我々の要求をのみ次第お嬢様をお返ししますので、お嬢様もよく御二方に頼んで差し上げてくださいまし」
 カルミアの笑顔はどこか薄気味悪い。それが採光のよくない古びた石造りの建物のせいだけではない気がした。
「私を返してほしければと、そう要求する手紙を出したの?」
 スプーンを手の中でもてあそぶ。空腹のはずなのだが、今目の前のスープには手が出ない。すえた臭いのせいだけではないようだ。
「さようでございます」
 丁重な口のきき方だが、明らかにカルミアはセシリアを嘲笑っている。
「下がっていいわ、食べ終わったら言うから」
 セシリアはそう言った。もうカルミアのそばで食事をする気になれない。
 カルミアが出て言った後、セシリアは呟いた。
「そんなことをしても、私が戻った後、二人とも約束を守るかしら」
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