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不吉な言葉
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テオドールの周囲がまるで早送りされていくように動いて行く。
セシリアの死後、父親とその舅が、王宮で詮議を受け無罪宣言を受ける。
貴族夫人の殺害は、アレイスタ皇子の敵対者達にとって望ましい転機だった。大義名分ができたからだ。
そして、アレイスタ皇子の側近たちが、次々に処刑されていった。その中にはあのカルミアの姿もあった。
カルミアは、セシリアに見せた毅然とした態度とはまるで正反対の、見苦しくあがきながら処刑台に引きずられていった。
粛清は着々と進む。そして最後がアレイスタ皇子。彼は牢獄の中で毒殺された。
そして、父とその舅に見守られてセシリアは弔われた。
死因が失血死だったためか、遺体にしてもその顔は青白く、まるで白塗りの人形のようだった。
セシリアの好きだった花に囲まれて、花の鮮やかな色彩と血の抜け切った肌色の対比、その有様はいっそ無残だった。
セシリアのうずめられた後に立ち尽くした父は、ただ呆けていた。
その目を見て悟った、父の心もあの墓穴の中にうずもれてしまったのだと。
セシリアは父の心を道連れにして死んでいったのだと。
薄薄と感づいていたはずのことだった。セシリアと母親の容姿は、漠然とだが似通っていた。自分を裏切った女のそっくりな彼女をどうして妻にしたのか。
テオドールは背後にいる時の妖精を振り返る。
いつの間にか、テオドールは見慣れた庭に立っていた。すぐそばには花壇が見える。
それを見て自分の時間に返ってきたのだと悟った。
花は幾分か種類が減っており、樹木は過ぎ去った歳月分育っていた。
「知ったってどうしようもないじゃないか」
テオドールは憎々しげにつぶやく。脳裏によぎるのは血だまりの中の白いセシリアの顔。それを見下ろす父親の顔。
それを見てわかった。どうしようもない。
裏切られた憎しみではなかったのなら、どうすればよかったのだろう。
裏切らずに死を選んだセシリアこそ、父は憎んでいるのだと悟ってしまった以上。母の望みは永遠にかなわない。
うつろな顔でセシリアに対する恨みごとを言い続ける母の姿が瞼をよぎった。あるいは母は知っていたのかもしれない。それでも自分に都合のいい思い込みにすがりついているだけなのかもしれない。
「何をすれば、幸せになれると思う?」
にやにやと薄笑いを浮かべて時の妖精は囁く。テオドールの背丈では届かないけれど、その顔にこぶしをたたきつけてやれればと思う。
「セシリアが死ななければ、たぶん父上はあのまま二人で暮らしたろう。そしてほかの女を愛しているという不幸に母上は合わずに済んだ」
「そして不幸な子、テオドール、お前は生まれずに済んだ」
時の妖精の言葉は、不吉な色を持ってテオドールに響いた。
セシリアの死後、父親とその舅が、王宮で詮議を受け無罪宣言を受ける。
貴族夫人の殺害は、アレイスタ皇子の敵対者達にとって望ましい転機だった。大義名分ができたからだ。
そして、アレイスタ皇子の側近たちが、次々に処刑されていった。その中にはあのカルミアの姿もあった。
カルミアは、セシリアに見せた毅然とした態度とはまるで正反対の、見苦しくあがきながら処刑台に引きずられていった。
粛清は着々と進む。そして最後がアレイスタ皇子。彼は牢獄の中で毒殺された。
そして、父とその舅に見守られてセシリアは弔われた。
死因が失血死だったためか、遺体にしてもその顔は青白く、まるで白塗りの人形のようだった。
セシリアの好きだった花に囲まれて、花の鮮やかな色彩と血の抜け切った肌色の対比、その有様はいっそ無残だった。
セシリアのうずめられた後に立ち尽くした父は、ただ呆けていた。
その目を見て悟った、父の心もあの墓穴の中にうずもれてしまったのだと。
セシリアは父の心を道連れにして死んでいったのだと。
薄薄と感づいていたはずのことだった。セシリアと母親の容姿は、漠然とだが似通っていた。自分を裏切った女のそっくりな彼女をどうして妻にしたのか。
テオドールは背後にいる時の妖精を振り返る。
いつの間にか、テオドールは見慣れた庭に立っていた。すぐそばには花壇が見える。
それを見て自分の時間に返ってきたのだと悟った。
花は幾分か種類が減っており、樹木は過ぎ去った歳月分育っていた。
「知ったってどうしようもないじゃないか」
テオドールは憎々しげにつぶやく。脳裏によぎるのは血だまりの中の白いセシリアの顔。それを見下ろす父親の顔。
それを見てわかった。どうしようもない。
裏切られた憎しみではなかったのなら、どうすればよかったのだろう。
裏切らずに死を選んだセシリアこそ、父は憎んでいるのだと悟ってしまった以上。母の望みは永遠にかなわない。
うつろな顔でセシリアに対する恨みごとを言い続ける母の姿が瞼をよぎった。あるいは母は知っていたのかもしれない。それでも自分に都合のいい思い込みにすがりついているだけなのかもしれない。
「何をすれば、幸せになれると思う?」
にやにやと薄笑いを浮かべて時の妖精は囁く。テオドールの背丈では届かないけれど、その顔にこぶしをたたきつけてやれればと思う。
「セシリアが死ななければ、たぶん父上はあのまま二人で暮らしたろう。そしてほかの女を愛しているという不幸に母上は合わずに済んだ」
「そして不幸な子、テオドール、お前は生まれずに済んだ」
時の妖精の言葉は、不吉な色を持ってテオドールに響いた。
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