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Phantom of Flame
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「綺麗な花火……」
見上げれば、夜空を彩る大輪の花。
高層ビルの先端に立つ私のため息のような声はすぐに消えた。届くはずのない空に伸ばした手は、何も掴むことなく虚しくぱたりと落ちた。ただの機械でしかない私に、感傷、なんてあるはずないのに。
それはこの世界で最も美しい瞬間。華やかに咲いては、儚く散る。
きらめくホログラムにまみれた都市を夜空が覆い、ネオンライトが高層ビルを汚らしく照らし、人々は闇に忘れた夢に囁き合う。そんなシンギュラリティの成れの果ての退屈な都市がほんのわずかに華やぐ瞬間。
そして、この夜空にはこの都市の誰も知らない、そして、一つだけ決して忘れられない花火が打ち上げられることになる。それが私の今回の任務。
私に名前は無い。私の目的は対象の心臓だけ。たったそれだけの使命を果たすためだけに生まれた。そういう存在、そういう機能、そういう理由。
だから、私には暗殺者として必要なプログラムだけがインストールされているはずなのに。私にはそれしか必要ないはずなのに。ぎしり、花火が打ち上がり、そして消えていくたびに、この胸を締め付けるような感情は一体何なのかしら。
アンドロイドである私の特殊なサイバニンジャスーツは、影のように夜の中を動き回り、目的を果たすための武器となる。私の姿を捉えられるものは、そうね、お高くとまったバグネズミさんだけね。
今宵、まだ冷めやらぬ夏の暑さに浮かれた都市を眼下に、きらびやかな摩天楼を駆け抜ける。
今回のターゲットは世界有数の大富豪であり、この街の陰謀の中心でもある男だった。彼は厳重なセキュリティと高い壁に囲まれた豪邸に住んでいて、そして、病的なまでに用心深い。彼の暗殺は幾度となく失敗していて、そのたびに難易度は跳ね上がっていった。
私は難なくその壁を乗り越える。光学迷彩は私の姿を闇に溶かし、花火の彩色を、無機質なビルの銀色を纏わせる。今だけの私の色彩に少し嬉しくなる。
無音で彼の部屋に忍び込む。きっと闇から突如現れたように見えたのだろう、対象は驚きと恐れの入り混じった瞳で私を見つめた。
「何故……」
「何故ですって? それは貴方が一番よく知っているんじゃない?」
対象の部屋に忍び込み、その瞳が私と交差するその瞬間、彼の心臓の鼓動が聞こえたような気がした。まるで囁くように言葉を紡いだ彼の口から、恐れとともに漏れるのは。
……この冷たい手に握られた刃が音もなく彼の胸に突き刺さる。血潮が噴き出し、対象の瞳に刹那的な命の輝きが宿る。そして、その瞳に映るのは夜空に咲く綺麗な花火だった。彼もこの美しさに心奪われたのだろうか。
対象の最期の瞬間、何かを感じたような気がした。悲しみか、哀しみか、それとも何か別のものか。私は心の奥底で問いかけた。だけど、冷たい心臓からの返事なんてあるはずはなかった。
花火の鮮やかな光が街を彩り、私は静かにその場を後にした。
この足跡は闇に消えていったが、心には綺麗な花火の輝きが残った。私はプログラム通りにしか動けないはずの孤独な暗殺者。
でも、儚くも美しいあの瞬間に触れたことで、何か新しい感情を見つけたように感じた。ふふ、それすらもプログラム上のバグだとは、今この時だけは考えないようにした。
彼の最期の言葉は何だっただろうか。ああ、そうだ。無意識に夜空を見上げて、私はそれを反芻した。
「綺麗な花火……」
見上げれば、夜空を彩る大輪の花。
高層ビルの先端に立つ私のため息のような声はすぐに消えた。届くはずのない空に伸ばした手は、何も掴むことなく虚しくぱたりと落ちた。ただの機械でしかない私に、感傷、なんてあるはずないのに。
それはこの世界で最も美しい瞬間。華やかに咲いては、儚く散る。
きらめくホログラムにまみれた都市を夜空が覆い、ネオンライトが高層ビルを汚らしく照らし、人々は闇に忘れた夢に囁き合う。そんなシンギュラリティの成れの果ての退屈な都市がほんのわずかに華やぐ瞬間。
そして、この夜空にはこの都市の誰も知らない、そして、一つだけ決して忘れられない花火が打ち上げられることになる。それが私の今回の任務。
私に名前は無い。私の目的は対象の心臓だけ。たったそれだけの使命を果たすためだけに生まれた。そういう存在、そういう機能、そういう理由。
だから、私には暗殺者として必要なプログラムだけがインストールされているはずなのに。私にはそれしか必要ないはずなのに。ぎしり、花火が打ち上がり、そして消えていくたびに、この胸を締め付けるような感情は一体何なのかしら。
アンドロイドである私の特殊なサイバニンジャスーツは、影のように夜の中を動き回り、目的を果たすための武器となる。私の姿を捉えられるものは、そうね、お高くとまったバグネズミさんだけね。
今宵、まだ冷めやらぬ夏の暑さに浮かれた都市を眼下に、きらびやかな摩天楼を駆け抜ける。
今回のターゲットは世界有数の大富豪であり、この街の陰謀の中心でもある男だった。彼は厳重なセキュリティと高い壁に囲まれた豪邸に住んでいて、そして、病的なまでに用心深い。彼の暗殺は幾度となく失敗していて、そのたびに難易度は跳ね上がっていった。
私は難なくその壁を乗り越える。光学迷彩は私の姿を闇に溶かし、花火の彩色を、無機質なビルの銀色を纏わせる。今だけの私の色彩に少し嬉しくなる。
無音で彼の部屋に忍び込む。きっと闇から突如現れたように見えたのだろう、対象は驚きと恐れの入り混じった瞳で私を見つめた。
「何故……」
「何故ですって? それは貴方が一番よく知っているんじゃない?」
対象の部屋に忍び込み、その瞳が私と交差するその瞬間、彼の心臓の鼓動が聞こえたような気がした。まるで囁くように言葉を紡いだ彼の口から、恐れとともに漏れるのは。
……この冷たい手に握られた刃が音もなく彼の胸に突き刺さる。血潮が噴き出し、対象の瞳に刹那的な命の輝きが宿る。そして、その瞳に映るのは夜空に咲く綺麗な花火だった。彼もこの美しさに心奪われたのだろうか。
対象の最期の瞬間、何かを感じたような気がした。悲しみか、哀しみか、それとも何か別のものか。私は心の奥底で問いかけた。だけど、冷たい心臓からの返事なんてあるはずはなかった。
花火の鮮やかな光が街を彩り、私は静かにその場を後にした。
この足跡は闇に消えていったが、心には綺麗な花火の輝きが残った。私はプログラム通りにしか動けないはずの孤独な暗殺者。
でも、儚くも美しいあの瞬間に触れたことで、何か新しい感情を見つけたように感じた。ふふ、それすらもプログラム上のバグだとは、今この時だけは考えないようにした。
彼の最期の言葉は何だっただろうか。ああ、そうだ。無意識に夜空を見上げて、私はそれを反芻した。
「綺麗な花火……」
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