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9章:天魔異會異聞編
覚醒、極致へ
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「グロリア! 大丈夫か!」
「はい。ここの改造サムライどもは性欲とか拷問とかそういうのには感心がないらしく、最初にめちゃくちゃのぐちょぐちょにされただけで無事でした」
「……なんでちょっと不服そうなん?」
「命令でやらされているみたいで、なんか淡々としていてつまらなかったです」
「そういうことじゃないよ?」
まあ、薄い本的なエロい展開はなんとなく予想していたが。
グロリアは全裸で小さなガラスケースの中に閉じ込められていた。我はガラスをなんとか叩き割ってグロリアを救い出す。ガラスの牢獄から解放された瞬間、ふわりとグロリアの身体から媚薬の甘い匂いが漂った。きっと、この媚薬を警戒しての密閉だったのだろう。
斬っても叩いても縛っても、何をしても物理的にも精神的にも無効化できる、ある意味で無敵のドMスライム、グロリアのことは置いといて。
「ヘラ様、私よりも」
「ああ、わかっている」
問題はこっちのほうだ。グロリアがゆっくりと指差す先には。
「……自分でも生きているのが不思議だね、全く」
「……生きているのか」
「ヘラ殿が冥土に一緒についていってくれるってなら喜んで死ねるんですがね」
刹鬼丸の無残な姿、もはやその原型は無いに等しい。
いくら魔人だからといって、ここまでされてどうして生きているのか不思議なくらいだ。ゆっくりと時間を掛けて、少しずつ刹鬼丸の身体と精神を削ぎ落とし、折り畳み、砕き潰し、突き刺し、捻じ曲げ、抉り取り、人の造形を完全に無視した極限まで痛めつけられていた。
完全に詳細な描写したらマズいやつ、スプラッターもグラインドゴアも敵わぬほどの凄惨な光景の中で、血が滴る奇怪な赤黒い肉塊が太い鉤で天井に吊り下げられて不気味に揺れているだけだった。おいおい、やべえことになってんぞ(悪い意味で)。
「すまぬ、遅くなった」
「いいってことよ、それだけの覚悟はしていたさ」
飄々とした口調はあの時と変わらなかったが、発せられる音声は生物のモノとは思えぬほどにノイズじみていて弱々しかった。悪趣味だ、最後まで苦痛の悲鳴を上げさせるために声を奪わぬとは。
もはや無事な部分なんてない、吊り下げられたその身体を解放したならば、そのままぐしゃりと潰れてしまうのではないか、そんなふうにさえ思ってしまう。
「ち、治癒の魔法を」
「俺なら平気だ、こうして身体を失って気付いたこともあるんだ」
「キミは何を言って……」
部下の死なぞ見慣れていたと思っていたのに。刹鬼丸の変わり果てた姿にわずかに動揺する我に対して、当の本人である刹鬼丸の方はいたって冷静だった。
「俺は見たんだ、この世界の神髄を、」
「お、おい……」
「極致を」
「え……?」
おぞましい拷問の果てに狂ってしまったかのような妄言をうわ言のように呟き続ける刹鬼丸。こやつはもうダメかもしれぬ、クソ、我はこやつを助けることができなかった。
妄言を呻き続ける肉塊を目の前に、己の無力に俯いていると、刹鬼丸はなおも何かしらの言葉吐き出している。
「身体なんてのはこの世界にへばりついた肉に過ぎねえ。俺は塩と硫黄を塗り込まれた死ぬほどの痛みと生き死にの狭間でそれを知った」
ごきり、それは突如として起きた。
後悔と絶望に立ちすくむ我の目の前で、醜い肉塊と化しひどくねじくれた身体がさらに奇怪に歪む、歪む、歪む。ぐしゃり、抉り取られていた何もかもが、まるで草花が瞬く間に萌え出づるように新たな造形を芽吹かせる。
「……マジ?」
極限の死の感触の中、こやつは極致へと至り、完全な魔人となった。いつか、魔神になる日もそう遠くはないだろう。
陰惨な拷問で損壊した肉体を凌駕した強靭な精神こそ、壮絶な鍛錬の果てに魔人となった刹鬼丸が辿り着いた、極致、と呼ばれる真骨頂。誰も、この我ですら届かなかった全にして一の世界。
そこには、傷ひとつない、出会ったあの時と何も変わらない一糸まとわぬ刹鬼丸がゆらりと佇んでいただけだった。
ごくり、思わず息を呑む。リーゼ、貴様はとんでもない化け物を生み出したぞ。覚悟は完了しているか?
「もう一度リーゼと戦わせてくれ、次はうまくできそうな気がするんだ」
「しかし、キミの妖刀は」
「ん? ああ、あのじゃじゃ馬娘か、それなら」
刹鬼丸がふらりと右手を掲げると、そこにはいつの間にかあの全てが漆黒でできた妖刀、成ル阿久世鍵炉火が現れた。具現したわけでも、形成したわけでもない。いつの間にかそこにあって、それは従順な下僕のように刹鬼丸の手に収められていた。我が所持していた時とはまるで違っている。そんな機能なぞ我は知らぬ。
「こいつは精髄を斬る妖刀だ、カタチなんて要らねえのさ」
「しゅ、しゅごい」
何を言っているのかわからぬ。もう何でもアリじゃないか?
もはやこやつだけで一本物語ができそうなほどの設定と強さだ。出会ったときとは比較にならぬほどのパワーアップをしておる。死にかけるまで痛めつけられると強化される、という設定はめちゃくちゃ便利だと改めて先人の知恵に感謝してしまう。やっぱすげーわ、鳥山明先生は。
「よし、みんな、準備はいいな? 向こうには子どももいるから服を着よう!」
「はい。ここの改造サムライどもは性欲とか拷問とかそういうのには感心がないらしく、最初にめちゃくちゃのぐちょぐちょにされただけで無事でした」
「……なんでちょっと不服そうなん?」
「命令でやらされているみたいで、なんか淡々としていてつまらなかったです」
「そういうことじゃないよ?」
まあ、薄い本的なエロい展開はなんとなく予想していたが。
グロリアは全裸で小さなガラスケースの中に閉じ込められていた。我はガラスをなんとか叩き割ってグロリアを救い出す。ガラスの牢獄から解放された瞬間、ふわりとグロリアの身体から媚薬の甘い匂いが漂った。きっと、この媚薬を警戒しての密閉だったのだろう。
斬っても叩いても縛っても、何をしても物理的にも精神的にも無効化できる、ある意味で無敵のドMスライム、グロリアのことは置いといて。
「ヘラ様、私よりも」
「ああ、わかっている」
問題はこっちのほうだ。グロリアがゆっくりと指差す先には。
「……自分でも生きているのが不思議だね、全く」
「……生きているのか」
「ヘラ殿が冥土に一緒についていってくれるってなら喜んで死ねるんですがね」
刹鬼丸の無残な姿、もはやその原型は無いに等しい。
いくら魔人だからといって、ここまでされてどうして生きているのか不思議なくらいだ。ゆっくりと時間を掛けて、少しずつ刹鬼丸の身体と精神を削ぎ落とし、折り畳み、砕き潰し、突き刺し、捻じ曲げ、抉り取り、人の造形を完全に無視した極限まで痛めつけられていた。
完全に詳細な描写したらマズいやつ、スプラッターもグラインドゴアも敵わぬほどの凄惨な光景の中で、血が滴る奇怪な赤黒い肉塊が太い鉤で天井に吊り下げられて不気味に揺れているだけだった。おいおい、やべえことになってんぞ(悪い意味で)。
「すまぬ、遅くなった」
「いいってことよ、それだけの覚悟はしていたさ」
飄々とした口調はあの時と変わらなかったが、発せられる音声は生物のモノとは思えぬほどにノイズじみていて弱々しかった。悪趣味だ、最後まで苦痛の悲鳴を上げさせるために声を奪わぬとは。
もはや無事な部分なんてない、吊り下げられたその身体を解放したならば、そのままぐしゃりと潰れてしまうのではないか、そんなふうにさえ思ってしまう。
「ち、治癒の魔法を」
「俺なら平気だ、こうして身体を失って気付いたこともあるんだ」
「キミは何を言って……」
部下の死なぞ見慣れていたと思っていたのに。刹鬼丸の変わり果てた姿にわずかに動揺する我に対して、当の本人である刹鬼丸の方はいたって冷静だった。
「俺は見たんだ、この世界の神髄を、」
「お、おい……」
「極致を」
「え……?」
おぞましい拷問の果てに狂ってしまったかのような妄言をうわ言のように呟き続ける刹鬼丸。こやつはもうダメかもしれぬ、クソ、我はこやつを助けることができなかった。
妄言を呻き続ける肉塊を目の前に、己の無力に俯いていると、刹鬼丸はなおも何かしらの言葉吐き出している。
「身体なんてのはこの世界にへばりついた肉に過ぎねえ。俺は塩と硫黄を塗り込まれた死ぬほどの痛みと生き死にの狭間でそれを知った」
ごきり、それは突如として起きた。
後悔と絶望に立ちすくむ我の目の前で、醜い肉塊と化しひどくねじくれた身体がさらに奇怪に歪む、歪む、歪む。ぐしゃり、抉り取られていた何もかもが、まるで草花が瞬く間に萌え出づるように新たな造形を芽吹かせる。
「……マジ?」
極限の死の感触の中、こやつは極致へと至り、完全な魔人となった。いつか、魔神になる日もそう遠くはないだろう。
陰惨な拷問で損壊した肉体を凌駕した強靭な精神こそ、壮絶な鍛錬の果てに魔人となった刹鬼丸が辿り着いた、極致、と呼ばれる真骨頂。誰も、この我ですら届かなかった全にして一の世界。
そこには、傷ひとつない、出会ったあの時と何も変わらない一糸まとわぬ刹鬼丸がゆらりと佇んでいただけだった。
ごくり、思わず息を呑む。リーゼ、貴様はとんでもない化け物を生み出したぞ。覚悟は完了しているか?
「もう一度リーゼと戦わせてくれ、次はうまくできそうな気がするんだ」
「しかし、キミの妖刀は」
「ん? ああ、あのじゃじゃ馬娘か、それなら」
刹鬼丸がふらりと右手を掲げると、そこにはいつの間にかあの全てが漆黒でできた妖刀、成ル阿久世鍵炉火が現れた。具現したわけでも、形成したわけでもない。いつの間にかそこにあって、それは従順な下僕のように刹鬼丸の手に収められていた。我が所持していた時とはまるで違っている。そんな機能なぞ我は知らぬ。
「こいつは精髄を斬る妖刀だ、カタチなんて要らねえのさ」
「しゅ、しゅごい」
何を言っているのかわからぬ。もう何でもアリじゃないか?
もはやこやつだけで一本物語ができそうなほどの設定と強さだ。出会ったときとは比較にならぬほどのパワーアップをしておる。死にかけるまで痛めつけられると強化される、という設定はめちゃくちゃ便利だと改めて先人の知恵に感謝してしまう。やっぱすげーわ、鳥山明先生は。
「よし、みんな、準備はいいな? 向こうには子どももいるから服を着よう!」
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