18 / 34
3.【速報】美少女が居候することになりました
ご近所付き合い、それは永遠の難題
しおりを挟む
「夏海さん、こちら、夫の親戚でしばらくこっちに遊びに来ているフィリアスちゃんです、道端でばったり会ってびっくりさせてしまうかもしれないので一応紹介しておきますね」
「そんなわざわざお構いなく。よろしくね、フィリアスさん」
夏海さん一家は奥さんが応対してくれた。
夏海さんちの奥さんはオレ達より少し年上で中学生の男の子と女の子がいる。今は旦那さんに連れられて中学校まで部活動に行っているとのことだった。まあ、普段見かけるのも奥さんが多いのでこの人に挨拶しておけば十分だろう。
「フィリアス・アインディール・シルバーバレットラインだ。わたしこそこちらの世界にはまだ不慣れ故に迷惑をかけてしまうかもしれないがよろしく頼む」
「あー、えーっと、ま、まだ日本語にクセがあるんです」
「ふふ、大丈夫、よろしくね」
フィリアスの少し違和感のある堅苦しい挨拶に慌ててフォローするけど、それは別に気にしていないみたいだった。おっとりとした雰囲気の奥さんからすれば、日本語が上手な外国のお嬢さんがホームステイに来た、それくらいの認識で見ているのだろう。
「それにしても、いつもうるさくしてすいませんね」
「いえいえ、子どもが小さいうちはそんなものですから」
「ごめんなさい!」「あいあい!」こいつらに反省の色なし。
「ふふ、大きな声出せてえらいわよ。でも、パパとママの言うことはしっかり聞いてね」
そう、オレ達春嘉木家とほぼ同世代で家族構成もほぼ同じ夏海さん一家は、子ども達がありとあらゆる手段で奏でる騒音や、それらに対するオレ達の怒鳴り声にも結構寛容でとてもありがたいお隣さんだ。五日香はたまにこの奥さんと世間話でもするくらいにはコミュニケーションも円滑で、子育ての先輩としても頼もしい素敵なご近所さんでとても助かっている。
問題は、もう一軒の方のお隣さんだ。
「秋野々さん、こちら、夫の親戚でしばらく家で預かることになったフィリアスちゃんです」
「親戚? どう見ても外人じゃない」
「あ、自分クォーターで」
「ふーん、あんまり似てないのね」
「遠い親戚で」
フィリアスのことをじろじろ眺める不審者でも見るような眼差し。あまり動じるような素振りを見せないフィリアスですらも少し緊張しているように見える。
「あの~、ごめんなさい、お土産とかはなくて」
「ま、海外じゃあそんなもんかもね」
「すいません」
「あなた達はまだ小さな子どももいるんだからあんまり無理して安請け合いしちゃダメよ」
「はい、言われなくてもわかってますよ」
五日香の態度はあまり良くないよなあ。いくらあまり相性が良くなくても人生の先輩のおばあちゃんにそういうのは出さないようにしてほしいなあ。
と、今は面と向かって言えず。
「これから迷惑をかけるかもしれないがよろしくお願いする、アキノノ殿」
「あ、フィリアスは」
「はいはい、よろしくね、外人のおねえさん」
そう、問題は、この夏海さんとは反対側のお隣さんの秋野々さんだ。
ご高齢の老夫婦がこの地域の開発が進む前からずっとここに2人で住んでいる。旦那さんはほとんど見たことがないけど、奥さんの方は庭いじりが好きなのか外にいるのを良く見かける。彼らの子ども達は休日に時おり見かける程度でほとんど顔を合わせたことはなかった。ま、たまに遊びに来るんだから関係は良いのだろう。
だけど、少しでも子どもが泣き喚けば幼児虐待でも行われているのかと家の前まで来ては様子を窺ってくるし、五日香が一人で出かけようもんならネグレクトも疑われているみたいだったし。
いや、きっと根は悪い人じゃないと思うんだけどね。きっとオレ達のことを心配してくれているんだろう。会えば普通にお話もするし、子ども達も別に怖がったりしてないし。
だけど、おせっかい、というのはとてもありがたい反面、ほんのすこーしだけ鬱陶しくもあって、だから、五日香は完全に秋野々さんを毛嫌いしているようだった。オレとしては実害もないしこれからもお隣さんとしてお世話になるんだしうまいこと立ち回ればいいのになあ、とも思ったりもしている。うーん、ご近所付き合いは難しいよなあ。
フィリアスについて良からぬ噂を流すとしたら、たぶん秋野々さんだろう。だからこそ、念入りにフィリアスのことを紹介しておかなくてはならない。彼女について悪い印象を与えないようにしておかなければ。
「もう、秋野々さんってホント性格悪いと思うわ、あんなに言わなくてもいいじゃない」
自宅に戻るほんの数歩の距離でさえ案の定五日香がぷりぷり怒っている。心配そうに五日香の顔を覗き込む子ども達のことなんて気にしちゃいない。
「いや、アキノノ殿は少しぶっきらぼうだったがいい人に見えたぞ?」
「まあ、オレもそう思うけどな。ちょっとストーカーじみているだけで」
「いいえ、あなた達はそんなに話してないからそう思うのよ、上っ面だけで簡単にそんなこと言わないで」
「いや、しかし」
「すまんな、ほら、フィリアスも」
そして、オレはこそっとフィリアスにしか聞こえないように耳打ちする。
(五日香は意地っ張りだから人の話を聞かない、今はそっとしておけ)
(む、わかった)
気分屋の五日香のことを理解するには相当な時間がかかると思うが、がんばれ、フィリアス。
「でも、子ども達の前ではあんまり人の悪口言わない方がいいぞ、子ども達は真似するからな」
「はいはい、わかりましたよ」
「そんなわざわざお構いなく。よろしくね、フィリアスさん」
夏海さん一家は奥さんが応対してくれた。
夏海さんちの奥さんはオレ達より少し年上で中学生の男の子と女の子がいる。今は旦那さんに連れられて中学校まで部活動に行っているとのことだった。まあ、普段見かけるのも奥さんが多いのでこの人に挨拶しておけば十分だろう。
「フィリアス・アインディール・シルバーバレットラインだ。わたしこそこちらの世界にはまだ不慣れ故に迷惑をかけてしまうかもしれないがよろしく頼む」
「あー、えーっと、ま、まだ日本語にクセがあるんです」
「ふふ、大丈夫、よろしくね」
フィリアスの少し違和感のある堅苦しい挨拶に慌ててフォローするけど、それは別に気にしていないみたいだった。おっとりとした雰囲気の奥さんからすれば、日本語が上手な外国のお嬢さんがホームステイに来た、それくらいの認識で見ているのだろう。
「それにしても、いつもうるさくしてすいませんね」
「いえいえ、子どもが小さいうちはそんなものですから」
「ごめんなさい!」「あいあい!」こいつらに反省の色なし。
「ふふ、大きな声出せてえらいわよ。でも、パパとママの言うことはしっかり聞いてね」
そう、オレ達春嘉木家とほぼ同世代で家族構成もほぼ同じ夏海さん一家は、子ども達がありとあらゆる手段で奏でる騒音や、それらに対するオレ達の怒鳴り声にも結構寛容でとてもありがたいお隣さんだ。五日香はたまにこの奥さんと世間話でもするくらいにはコミュニケーションも円滑で、子育ての先輩としても頼もしい素敵なご近所さんでとても助かっている。
問題は、もう一軒の方のお隣さんだ。
「秋野々さん、こちら、夫の親戚でしばらく家で預かることになったフィリアスちゃんです」
「親戚? どう見ても外人じゃない」
「あ、自分クォーターで」
「ふーん、あんまり似てないのね」
「遠い親戚で」
フィリアスのことをじろじろ眺める不審者でも見るような眼差し。あまり動じるような素振りを見せないフィリアスですらも少し緊張しているように見える。
「あの~、ごめんなさい、お土産とかはなくて」
「ま、海外じゃあそんなもんかもね」
「すいません」
「あなた達はまだ小さな子どももいるんだからあんまり無理して安請け合いしちゃダメよ」
「はい、言われなくてもわかってますよ」
五日香の態度はあまり良くないよなあ。いくらあまり相性が良くなくても人生の先輩のおばあちゃんにそういうのは出さないようにしてほしいなあ。
と、今は面と向かって言えず。
「これから迷惑をかけるかもしれないがよろしくお願いする、アキノノ殿」
「あ、フィリアスは」
「はいはい、よろしくね、外人のおねえさん」
そう、問題は、この夏海さんとは反対側のお隣さんの秋野々さんだ。
ご高齢の老夫婦がこの地域の開発が進む前からずっとここに2人で住んでいる。旦那さんはほとんど見たことがないけど、奥さんの方は庭いじりが好きなのか外にいるのを良く見かける。彼らの子ども達は休日に時おり見かける程度でほとんど顔を合わせたことはなかった。ま、たまに遊びに来るんだから関係は良いのだろう。
だけど、少しでも子どもが泣き喚けば幼児虐待でも行われているのかと家の前まで来ては様子を窺ってくるし、五日香が一人で出かけようもんならネグレクトも疑われているみたいだったし。
いや、きっと根は悪い人じゃないと思うんだけどね。きっとオレ達のことを心配してくれているんだろう。会えば普通にお話もするし、子ども達も別に怖がったりしてないし。
だけど、おせっかい、というのはとてもありがたい反面、ほんのすこーしだけ鬱陶しくもあって、だから、五日香は完全に秋野々さんを毛嫌いしているようだった。オレとしては実害もないしこれからもお隣さんとしてお世話になるんだしうまいこと立ち回ればいいのになあ、とも思ったりもしている。うーん、ご近所付き合いは難しいよなあ。
フィリアスについて良からぬ噂を流すとしたら、たぶん秋野々さんだろう。だからこそ、念入りにフィリアスのことを紹介しておかなくてはならない。彼女について悪い印象を与えないようにしておかなければ。
「もう、秋野々さんってホント性格悪いと思うわ、あんなに言わなくてもいいじゃない」
自宅に戻るほんの数歩の距離でさえ案の定五日香がぷりぷり怒っている。心配そうに五日香の顔を覗き込む子ども達のことなんて気にしちゃいない。
「いや、アキノノ殿は少しぶっきらぼうだったがいい人に見えたぞ?」
「まあ、オレもそう思うけどな。ちょっとストーカーじみているだけで」
「いいえ、あなた達はそんなに話してないからそう思うのよ、上っ面だけで簡単にそんなこと言わないで」
「いや、しかし」
「すまんな、ほら、フィリアスも」
そして、オレはこそっとフィリアスにしか聞こえないように耳打ちする。
(五日香は意地っ張りだから人の話を聞かない、今はそっとしておけ)
(む、わかった)
気分屋の五日香のことを理解するには相当な時間がかかると思うが、がんばれ、フィリアス。
「でも、子ども達の前ではあんまり人の悪口言わない方がいいぞ、子ども達は真似するからな」
「はいはい、わかりましたよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる