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3.【速報】美少女が居候することになりました
朝は戦場
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うちの部署にしてはがっつりめな一週間の在宅ワークと休日DIYでなんとかフィリアスの部屋は形にはなった。……女の子の部屋としてはあまりにも無骨すぎない?
近所のホームセンターで買ってきた組み立て式の木製の棚とメタルラック、そして突っ張り棒が部屋中の壁に所狭しと取り付けられている。
まるで、ナイスミドルなおっさんが自作したガレージの一室みたい。
「自分の部屋、というのを持ったのは初めてでつい楽しくなってしまった」
「もっとこう、ガーリーというかファンシーというか女の子っぽい甘酸っぱい感じにはならんかったのな」
そんな木と金属のごつい棚にフィリアスの洋服やら、あのコスプレ衣裳もとい、異世界の装備品やらがしまわれているようだった。
「なあ、この棚、どうやって作ったの? 今度作り方教えて?」
「ふふふん、まあいいだろう」
フィリアス、DIYもできる。恐ろしい子。その得意げな表情はなんか、なんやねん。
だがしかし。
フィリアスの部屋も完成したし。
そして、何よりも彼女が悪い子には見えなかったし。
いつまでも在宅ワークしているのも限界がある。オレの仕事は事務だけじゃなくて現場での作業もいくつかある。それを他の人にお願いし続けるのも気が引けるし。
今日は月曜日、元気に出社しなくちゃいけない。
通勤電車に乗らない生活をしていると、どうも家から出るのすら億劫になってしまう。在宅ワークだとこういうことで気持ちの切り替えができないから難しいところよな。
フィリアスはというと、しゃきっと背筋を伸ばしてテーブルに着いてはいたけど、子ども達と一緒に食パンを食べながら朝の教育番組を興味津々で観ていた。
「ご飯食べながらテレビ観ちゃダメって言ってるでしょ」
と、無慈悲にも五日香がテレビの電源を切ると子ども達と一緒に悲しげな表情で五日香の顔を見つめていた。「お歌の続きが……」
生粋のテレビっ子のオレもちょっと観ていたんだけど、まあ、食べるよりもテレビの方に夢中になってたら仕方ないよな。
「ほれ、オレも手伝うからみんなで保育園に行く準備しような」
「いいよ!」
「あいー!」
「了解だ!」……ん?
朝の10分はとても貴重だ。
五日香なんて朝っぱらから子ども達の保育園の支度と洗濯物を干すことと自分の準備を同時にしている。そんなこと可能なのか?
「イツカ、洗濯ならわたしが干しておこう、昨日手伝ったからなんとかなるだろう」
「ありがとう、それじゃあお任せするわ」
「うむ! これくらいなら魔法がなくてもできそうだ」
いつになくやる気満々のフィリアス。どうやら、居候の身でありながら自分だけ何もしていないことに引け目を感じていたようだ。それでも、子ども達の支度とか手伝ってくれたりうまーく現在を急かしてくれたりしてたんだけどな。
まあ、何かを手伝ってくれるならそれはとてもありがたいことだ。
「そうだ、すまないが貴重品は全部持っていく。信用していないわけじゃないんだ、すまないな、不快だろうけどこっちも大事なことなんでな」
「問題ない、こんな状況であんなことをしてしまったわたしを信用しろと言っても無理な話だ」
「それで、とりあえずこれを渡しておく。使い方がわかるならそれを持って出ていけばいいし、わからないならまあ、今度自分で好きな物でも買うときまで持っていればいい」
「この紙は……」
それは一万円札3枚。ホームセンターではクレジットカードばかり使ってたから見たのはほぼほぼ初めて……のはず。そう、彼女が本当に異世界から来ていたならば。
これは夜な夜な五日香と話し合って決めたこと。
あえて使い方は教えない。それが五日香との譲歩案だ。
ただの演技派家出少女なら勝手に出て行ってもこれでしばらくはもつだろうし、そうじゃなければ……マジの異世界転生美少女なのか?
ただまあ、出て行くにしてもパパ活という名のバカとバカが巡り合うだけの売春はやめてほしい。なんとかそういうのに頼らなくても生きていけるような手助けしてあげたいなあ、とは思うんだけど、実際問題これから何食わぬ顔で仕事に向かわざるをえないオレにはどうすることもできなかった。
「キミと何か連絡できないかな」
目下フィリアスにスマホを持たせるのは家計的に厳しいし、スマホを持ち逃げされたら面倒だし、それに、まだこっちの世界に来たばかり(という設定)の彼女にネットリテラシーの勉強は早いと思う。
「ああ、それならこれでどうだ?」
彼女はまた病院でしたときみたいに自身の胸の前に両手をかざす。朝のリビングを覆い隠すほどの眩い光が輝き、オレ達は思わず身構える。
「伝令水晶だ。これを持っていれば離れていてもわたしと連絡することが可能だ」
「……それって、LINE送れる?」
彼女の手には手のひらサイズの丸い水晶が2つ。何の変哲もない綺麗な水晶玉かと思ったけど、覗き込んでみるとなにやらもやもやとした煙のようなものが中で渦巻いていた。え、こわ。
「ちなみに、あの病院のときの剣もキミの力?」
おそるおそる聞いてみる。また癇癪を起こしてあの剣を振り回されたら春嘉木家は終わる。
「ああ、あれはただ持っていたアイテムを使用しただけだ、別に特別なことじゃない。あれは“持たざる貧者の聖剣もどき(セイバー・フェイク)“、一度きりしか使えない一時しのぎのアイテムだ」
アイテムをコマンドでも選択するみたいにどこからともなく自由に取り出せるのか? なんか、ますますゲームみたいな設定だな。
なんとなく申し訳なさそうに下を向くフィリアス。彼女は彼女で病院での出来事を気にしているみたいだ。元々彼女が引き起こしてしまったことかもしれないけど、オレ達は結果的に命を救ってもらった。だからそんなに気にしなくてもいいのに。
「よし。子ども達の準備はまだ途中だがオレは行く。これ以上はもう遅刻する」
「ばいばーい、くるまにきをつけてねー!」
「ばいばい!」
「はいよ、現在もちゃんと準備しなよ?」
「わかった!」
「返事は元気いっぱいだな。それじゃ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。今日はできるだけ早く帰ってきてね」
「うん、そのつもり」
「カナタ、気を付けて行ってくるんだぞ?」
「おう、フィリアスも危なそうなものには気を付けて、留守番頼んだぞ」
「うむ、任せてくれ!」
近所のホームセンターで買ってきた組み立て式の木製の棚とメタルラック、そして突っ張り棒が部屋中の壁に所狭しと取り付けられている。
まるで、ナイスミドルなおっさんが自作したガレージの一室みたい。
「自分の部屋、というのを持ったのは初めてでつい楽しくなってしまった」
「もっとこう、ガーリーというかファンシーというか女の子っぽい甘酸っぱい感じにはならんかったのな」
そんな木と金属のごつい棚にフィリアスの洋服やら、あのコスプレ衣裳もとい、異世界の装備品やらがしまわれているようだった。
「なあ、この棚、どうやって作ったの? 今度作り方教えて?」
「ふふふん、まあいいだろう」
フィリアス、DIYもできる。恐ろしい子。その得意げな表情はなんか、なんやねん。
だがしかし。
フィリアスの部屋も完成したし。
そして、何よりも彼女が悪い子には見えなかったし。
いつまでも在宅ワークしているのも限界がある。オレの仕事は事務だけじゃなくて現場での作業もいくつかある。それを他の人にお願いし続けるのも気が引けるし。
今日は月曜日、元気に出社しなくちゃいけない。
通勤電車に乗らない生活をしていると、どうも家から出るのすら億劫になってしまう。在宅ワークだとこういうことで気持ちの切り替えができないから難しいところよな。
フィリアスはというと、しゃきっと背筋を伸ばしてテーブルに着いてはいたけど、子ども達と一緒に食パンを食べながら朝の教育番組を興味津々で観ていた。
「ご飯食べながらテレビ観ちゃダメって言ってるでしょ」
と、無慈悲にも五日香がテレビの電源を切ると子ども達と一緒に悲しげな表情で五日香の顔を見つめていた。「お歌の続きが……」
生粋のテレビっ子のオレもちょっと観ていたんだけど、まあ、食べるよりもテレビの方に夢中になってたら仕方ないよな。
「ほれ、オレも手伝うからみんなで保育園に行く準備しような」
「いいよ!」
「あいー!」
「了解だ!」……ん?
朝の10分はとても貴重だ。
五日香なんて朝っぱらから子ども達の保育園の支度と洗濯物を干すことと自分の準備を同時にしている。そんなこと可能なのか?
「イツカ、洗濯ならわたしが干しておこう、昨日手伝ったからなんとかなるだろう」
「ありがとう、それじゃあお任せするわ」
「うむ! これくらいなら魔法がなくてもできそうだ」
いつになくやる気満々のフィリアス。どうやら、居候の身でありながら自分だけ何もしていないことに引け目を感じていたようだ。それでも、子ども達の支度とか手伝ってくれたりうまーく現在を急かしてくれたりしてたんだけどな。
まあ、何かを手伝ってくれるならそれはとてもありがたいことだ。
「そうだ、すまないが貴重品は全部持っていく。信用していないわけじゃないんだ、すまないな、不快だろうけどこっちも大事なことなんでな」
「問題ない、こんな状況であんなことをしてしまったわたしを信用しろと言っても無理な話だ」
「それで、とりあえずこれを渡しておく。使い方がわかるならそれを持って出ていけばいいし、わからないならまあ、今度自分で好きな物でも買うときまで持っていればいい」
「この紙は……」
それは一万円札3枚。ホームセンターではクレジットカードばかり使ってたから見たのはほぼほぼ初めて……のはず。そう、彼女が本当に異世界から来ていたならば。
これは夜な夜な五日香と話し合って決めたこと。
あえて使い方は教えない。それが五日香との譲歩案だ。
ただの演技派家出少女なら勝手に出て行ってもこれでしばらくはもつだろうし、そうじゃなければ……マジの異世界転生美少女なのか?
ただまあ、出て行くにしてもパパ活という名のバカとバカが巡り合うだけの売春はやめてほしい。なんとかそういうのに頼らなくても生きていけるような手助けしてあげたいなあ、とは思うんだけど、実際問題これから何食わぬ顔で仕事に向かわざるをえないオレにはどうすることもできなかった。
「キミと何か連絡できないかな」
目下フィリアスにスマホを持たせるのは家計的に厳しいし、スマホを持ち逃げされたら面倒だし、それに、まだこっちの世界に来たばかり(という設定)の彼女にネットリテラシーの勉強は早いと思う。
「ああ、それならこれでどうだ?」
彼女はまた病院でしたときみたいに自身の胸の前に両手をかざす。朝のリビングを覆い隠すほどの眩い光が輝き、オレ達は思わず身構える。
「伝令水晶だ。これを持っていれば離れていてもわたしと連絡することが可能だ」
「……それって、LINE送れる?」
彼女の手には手のひらサイズの丸い水晶が2つ。何の変哲もない綺麗な水晶玉かと思ったけど、覗き込んでみるとなにやらもやもやとした煙のようなものが中で渦巻いていた。え、こわ。
「ちなみに、あの病院のときの剣もキミの力?」
おそるおそる聞いてみる。また癇癪を起こしてあの剣を振り回されたら春嘉木家は終わる。
「ああ、あれはただ持っていたアイテムを使用しただけだ、別に特別なことじゃない。あれは“持たざる貧者の聖剣もどき(セイバー・フェイク)“、一度きりしか使えない一時しのぎのアイテムだ」
アイテムをコマンドでも選択するみたいにどこからともなく自由に取り出せるのか? なんか、ますますゲームみたいな設定だな。
なんとなく申し訳なさそうに下を向くフィリアス。彼女は彼女で病院での出来事を気にしているみたいだ。元々彼女が引き起こしてしまったことかもしれないけど、オレ達は結果的に命を救ってもらった。だからそんなに気にしなくてもいいのに。
「よし。子ども達の準備はまだ途中だがオレは行く。これ以上はもう遅刻する」
「ばいばーい、くるまにきをつけてねー!」
「ばいばい!」
「はいよ、現在もちゃんと準備しなよ?」
「わかった!」
「返事は元気いっぱいだな。それじゃ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。今日はできるだけ早く帰ってきてね」
「うん、そのつもり」
「カナタ、気を付けて行ってくるんだぞ?」
「おう、フィリアスも危なそうなものには気を付けて、留守番頼んだぞ」
「うむ、任せてくれ!」
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