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ああああ

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 蝋燭も月明りもなく真っ暗な部屋、何も見えない。古い窓をがたがたと恨めしげに叩くぬるい風だけがひゅーひゅーと呪詛を吐き出している。ここがどこかわからない、わたしは何かを失くしてしまってそれを探しているうちにこんなところに迷い込んでしまった、何を探していたんだろう、それも覚えていない。どこかに人の気配はあるのに誰も何も言ってくれない。手探りで壁を伝おうとして剥き出しの筋繊維のような得体の知れない感触にぶるりと悪寒する。廊下を歩く度ぎーぎーと不快に鳴る。わたしは一体どこに向かっているのか、大口から腐臭を放つ怪物の臓物の中を進んでいるみたい。甘く饐えた湿っぽい臭いが眼窩の奥で腐った脳髄液を絶えず汚染し撹拌する混沌の中心まで犯していく。そうして感覚の全てがコールタールのようにどす黒く鈍り、背に感じる冷たい汗にすら嫌悪し、吐瀉物を垂れ流しながら進んでいくうちにぐじゅりと柔らかな何かを蹴った。いつの間にかわたしの前に立っていた何かがそれを拾い上げてくれた。きっとそれはわたしの探していたモノ、そんな気がした。にやけた悪意と共に静かにわたしの手のひらに置かれたのは。
 ああああ、わたしの目が、わたしの目は
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