カツサンド

日暮マルタ

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カツサンド

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 美里は内心穏やかではない。久々に会った祖父に孝行してやるつもりで、一緒に喫茶店に来たものの、その祖父の食事の仕方がこの上ないほど汚かったのだ。ただのカツサンドが恨めしくなる。パンくずは飛び散り、カツはボロボロ。味は美味しいとわかっているのに、まずそうに見える。営業妨害だ。なぜそんなにもがっつくのか。
「やめてよ本当……」
 祖父は怒ってでもいるかのように、無言でずっとカツサンドをかきこんでいる、
 美里は久々に祖父に会ったものだから、これが祖父のいつもの食べ方だということを知らない。祖父は、徹也は何を食べるにもこうなのだ。それというのも美里の祖母の美弥と出会ってから。正確には、彼女の作る食事を食べるようになってからだった。

 美弥との結婚生活は楽しかった。食卓以外は。結婚当初、跳ねた油で火傷をした美弥の作る食事が不味くて、徹也はどうしようかと思った。美弥も、自身の腕をわかっていたからこそ、いつも申し訳なさそうにしていた。ある日ぐずぐずに煮崩れた肉じゃがを、味の薄い肉じゃがを椀を持ってかきこんだ。行儀の悪いその様子に美弥は驚いたが、どうであれ徹也は美弥の食事を食べないという選択はなかった。
「お腹がすいていたんですか」
 美弥が問うと、徹也は答える。
「そうだ」
その日から、徹也は食事を何でもかきこむようになり、美弥の食事は完食されるようになった。

 そんなことはつゆ知らず、美里はずっと周りの目を気にしていた。周りの目も嫌だし、何より正面から食事中の自分が見る景色が汚いのが嫌だった。どうしてそんなに飛び散るんだ。おじいちゃんは何も言わない。
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