四季は夏しかなくなった

日暮マルタ

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 掌編

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 四季は夏しかなくなった。もう全て終わりになるのだ。
 汗が噴き出るような陽気に、僕は彼女の体調が気になった。最近病院から出てきたばかりで、体力が保つのかとか、しんどくないかとか。
「今日はあまりにも暑ーい!」
 彼女はとても楽しそうに手足を空中に投げ出した。とりあえず、まだ元気に見えて僕は胸を撫で下ろした。それでもまだ安心しきれない。
 彼女が日陰まで走っていって、水飲み場の水を両腕にかけている。公園の喧騒はこの熱気でいささか大人しい。水を浴びたって、お湯なんじゃないだろうか。
「ねえ、やっぱりそろそろ帰らない?」
 いてもたってもいられない。だけど彼女はニンマリと笑う。暖簾に腕押し、糠に釘。
「もしかしてバテたの? 体力無いなぁ私より」
 これが最後になると思うのだ。でも、これが最後の外出には、まだしたくない。
「無理しないで!」
 僕の声に彼女は肩を震わせた。バツが悪そうに目を泳がせている。この暑さは流石に毒だ。だってあまりにも暑いのだ。
「また……来る。もう少し涼しくなったら……」
 僕は胸が痛んだ。もう秋、来ないと思うよ。彼女の余命は夏に閉じ込められている。
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