『ヤンパラ』~攻略対象が全員ヤンキーの乙女ゲームのモブ、カースト底辺のパシラレキャラに転生してしまいました~

長澤直流

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天羽5

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~前回の適当なあらすじ~
子豚は氷王とチャラフェロモンに遭遇し氷王に助けを求めた。
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 朔夜陸が消えてすぐに低い悲鳴と、鈍い音が背中の方から聞こえてきた。
 腰が抜けて動けない僕が顔だけふり返ると、先程まで僕達にからんでいた先輩達の襟首を掴んだ朔夜陸がすぐ側に立っていた。
 先輩達は皆意識を失っているようだ。

「天羽君、お待たせ。こいつらであってる?」
「はいっ。さ、朔夜君、ありがとうございます!!」
「ん、いいよ」

 目の前のリアル朔夜君はとても機嫌が良さそうに僕の頭を撫でた。
 なんだかむずがゆくて不思議な感じだ。

「えっと、天羽君。大丈夫だった?」

 朔夜君の後から琴吹さんがひょこっと顔を出した。
 目立った外傷は無く、どうやら間に合ったようだ。

「琴吹さん、良かった、無事だったんだね! 助けてくれてありがとうっ。ごめん、僕弱々で……」
「いや、いいんだよ。ほとんど、朔夜君がかたづけてくれたし……。助けを呼んでくれてありがとう」

 琴吹さんはそう言って爽やかに笑った。

 爽やか――、実に爽やか。さすが主人公。眩しい!

 僕が琴吹さんにみとれていると急に体が宙に浮いた。

「天羽君、俺のモンブラン覚えてる?」

 そう言って朔夜君は僕を正面から抱き上げ、首をこてんと傾けた。
 少しだけ唇をとがらせた朔夜君はイケメンも相まってあざと可愛い……
 男の僕でも思わず息を呑んだ。

「忘れたの?」

 朔夜君の眉間にしわが寄り空気が鋭くなる。

「忘れてません! 覚えてますっ、ごめんなさい!!」
「ならいいよ。楽しみにしてるね」

 朔夜君は何にも知らない乙女達が見たら一発で落ちそうな程の王子様フェイスで僕に笑顔を向けた。

 眩しい程の顔面偏差値。でも、素性そせいを知ってる僕にはその笑顔はむしろ怖いからね!

「モンブランって何の話?」

 ケーキの話に興味を持ったのか琴吹さんが話に加わろうとする。

「それは――」
「琴吹は関係ない。こっちの話だから」

 さっきまでの笑顔はどこにいったのか、すんっと表情を消した顔で朔夜君が僕と琴吹さんの話を遮った。

「あ、うん。ごめん」
「天羽君は俺達が寮まで連れて行く……」

 朔夜君は琴吹さんを一睨みして男子寮へと足を向けた。

 ああ、琴吹さん1人ぽつんとしているよ。
 ごめん、本当にありがとう。本当に助かった。

 僕は朔夜君の背中越しに琴吹さんに手を振った。
 すると琴吹さんは笑顔で手を振り返してくれた。

 ああ、本当いい子だな~。
 それにしても朔夜君の態度はひどくないか?
 助けてもらっといてなんだが、ヒロインに対してその態度は何なの?
 まだ序盤で好感度低いから塩対応なの?
 僕は知ってんだぞ!
 主人公に攻略された朔夜君は彼女に対して過保護になり、やがてヤンデレ化して主人公を溺愛するんだ。
 嫌われても知らないぞ? 後で後悔するのは朔夜君なんだぞ?

「なんだ、何か不満か? 不満があるなら言え」

 朔夜君は不機嫌さを隠そうともしない。
 気づいていないのか。美形がすごむと怖いのだ。
 しかも今は抱きかかえられてるだけあって物理的に距離が近いので圧が半端ない。
 うう、イケメン怖いよ。
 圧半端ないよ。
 ゲームの序盤なんか前世の妹はほぼスキップしてたからあんまり覚えてないよ。
 ――っていうか、絶対シナリオからハズレてる気がする。
 僕が知ってる『ヤンパラ』の朔夜陸はこんなにしゃべるやつじゃなかった。
 無口でクールなキャラだったはずだ。

「あいつと仲がいいのか?」
「へ?」
「琴吹とは、仲がいいのか? まさか恋人――」
「今日初めて会いました!!」

 今、恋人って言いました!?
 違うからね! そんなに睨まないで!
 大丈夫、手なんか出さないよ!

「……そうか、ならいい」

 相変わらず朔夜君の顔は近いが、勢いよく縦に首を振る僕を前に、ほんの少しだけ朔夜君の圧が弱まった気がした。

 朔夜君、安心してくれ。
 僕は生徒Cという表記のモブ中のモブなのだ。
 ヒロインと結ばれることなんて絶対にありえない!
 だって僕はお助けキャラにすらなれないただのしがないモブなんだから。
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