『ヤンパラ』~攻略対象が全員ヤンキーの乙女ゲームのモブ、カースト底辺のパシラレキャラに転生してしまいました~

長澤直流

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天羽14

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~前回の適当なあらすじ~
皆でお昼を食べることになった。
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 昼食がバッティングした僕達は朔夜君のプライベートルームで一緒にお昼ご飯を食べることになった。
 対になった大きなソファーに、僕、朔夜君、御堂君と並び、ローテーブルを挟んだ反対側に、琴吹さん、まっつんと並んで座って昼食をとっていると、早々に昼食を終えた琴吹さんが朔夜君が用意してくれたデザートのシュークリームを口にして称賛の声を上げた。

「なにこれっ、このシュークリームめっちゃおいしい!」

 うんうん、そうだろう。めちゃうまだろう。僕もそう思う。ほんとどこのお店のスイーツだろうね。朔夜君相変わらず教えてくれないんだよね。

「……悪くない。でも俺は天羽の卵サンドイッチの方が好きだ」

 そう言ってまっつんは僕に微笑んだ。
 まっつん、ちょい悪な笑顔が眩しいよ。

「ありがとう。まっつん」

 不器用なりにも作ったそれをそんな風に言ってもらえて正直うれしい。
 でも、その笑顔は隣にいるヒロインに向けなきゃね。

 僕がまっつんの笑顔に笑顔を返すと、朔夜君が僕に問いかけてきた。

「天羽君、卵サンドイッチって何のこと?」
「え……、あ、……僕が作った簡単なサンドイッチだよ。まっつんが、お腹空かせてたから分けてあげたんだよ」
「へぇ~、天羽君が作ったんだね……?」
「簡単な……地味なサンドイッチだよ?」
「まっつんめっちゃ食べてたよね。確かにあれもとっても美味しかった!」
「褒めすぎだよ、琴吹さん。……でもそう言ってもらえてうれしいよ。ありがとう」
「琴吹も食べたんだね?」
「うん!」
「俺も食べてみたいな」
「そんな……ほんと素人の作ったサンドイッチで朔夜君のお口に合うものじゃないよ――?」
「……そう?」

 そんな他愛もない話をしながら、昼休みの時間は穏やかに過ぎていった。
 朔夜君は終始笑顔だったけれど、朔夜君の左隣に座っていた御堂君は終始表情が硬く、なぜかずっと胃をさすっていた。
 胃もたれでもしたのだろうか。

「そろそろ昼休みも終わるね、教室に戻らなきゃ」
「そうだね。朔夜君、シュークリームごちそうさまでした」

 琴吹さんの言葉に朔夜君は笑顔を崩さぬまま頷いた。

「じゃあ、また――」

 そう言って僕が立ち上がろうとしたとき、朔夜君が僕の腕を掴んだ。

「朔夜君……?」

 朔夜君の表情は固定されたままだ。逆に違和感を覚えて不安がよぎる。

「天羽君、どうしたの?」
「あ、ああ――」

 琴吹さんが僕を呼ぶ。でも、朔夜君の手が離れない。むしろ掴む腕の力が増した。なんだかまずい気がする。僕は御堂君の方を見た。御堂君は堅い表情を崩さずに引きつったように笑い、小さく頷いた。いつもの余裕のある笑みではない。
 僕はとっさに琴吹さんに向かって声を絞り出した。

「……ゴメン、朔夜君とちょっと話があるから先行ってて」
「……うん? わかった」

 琴吹さんと、まっつんが朔夜君のプライベートルームから出て行くと、僕は深呼吸をして朔夜君と向き合った。

「朔夜君……。どうし――」
「海、真継頼むわ。多分扉の外で待ってる」
「あぁ……、わかった。…………陸、あまり無茶させないようにね」
「……ん」

 御堂君まで、部屋を出て行ってしまったため、僕は朔夜君と2人きりになってしまった。

 待って! 2人きりにしないで! そこまで覚悟できてないから! あと、無茶って何!? チャラフェロモン意味深なワード残していくな!!

「天羽君、やっと2人きりになれたね」
「さっ、……朔夜君。今日もありがとうね。シュークリームおいしかったよ」
「うん、それは良かった。本当は天羽君に全部食べてもらいたかったんだけどね……」
「きゅっ、急に皆で押しかける感じになっちゃってごめんねっ」

 朔夜君は笑顔のまま、……いまだ僕の手を掴んだままだ。
 食い込む指が少し痛い。

「…………あの、僕もそろそろ教室に――」
「天羽君」
「はいっ」
「まっつんてなに?」
「へ?」
「どうして真継のことまっつんって呼んでるの? 琴吹もそう呼んでたけど、真継のあだ名なの? 真継のでまっつん? 真継があだ名で呼ばれてるのなんて初めて聞いた。……まさか天羽君がつけたの?」
「ちが――」

 違わない。『ヤンパラ』のゲームの中で主人公がまっつんって呼んでるのを覚えていたから自然とその呼び名がでてしまったが、あの時、琴吹さんとまっつんは初対面だった。そこで僕が初めて――、そう、琴吹さんより先に真継空をまっつんと呼んでしまったのだ。だから僕が言い出しっぺということになり、僕がつけたあだ名ということになるのかもしれない。

「――いません。僕がつけました」
「天羽君と真継はもともと知り合いだった……とか?」
「き……昨日が初対面で……す」

 僕がそう答えるやいなや、朔夜君の笑顔が一瞬で引いてゆく。

「だよなぁ? 一昨日まで特進クラスに俺達以外の知り合いはいなかったはずだ。それが昨日……たった1日俺が目を離しただけで天羽君は……琴吹や真継に手作りの食べ物を分け与えて、知り合ったばかりの真継をあだ名で呼ぶような…………っ、……ずいぶんと親しい間柄の友達ができたもんだ……」

 朔夜君の掴む手がさらに力を増し、僕の腕にその指がめり込む。

「さ、ささ朔夜く――」
「俺の方が先に見つけたのにね」

 どうやら僕は気付かないうちに朔夜君を怒らせてしまったようだ。
 朔夜君は無表情のまま無言で僕を見つめ、さらに不満気な圧を掛けてくる。

 何で……? 何がそんなに不満なの? 何でそんなに不機嫌なの?

 怒りの原因がわからない今、僕にとってこの状況ははっきりといって恐怖でしかない。
 ただ、この世界の本質は乙女ゲームのはずだから、その怒りの原因はきっと主人公ヒロインに関わることだろう。

 何が……朔夜君を怒らせた? 朔夜君のいないところで琴吹さんと一緒にお昼食べたから……? だからそんなに不機嫌なの? それともあだ名で呼ぶような友達を琴吹さんと共有しているから?

 朔夜君に掴まれた腕がミシミシと軋んで痛み、僕の体は次第に恐怖で意図せず勝手に震え出した。

「ごめんなさいっ、ごめんなさい――」

 視界がゆるんで僕の涙腺が崩壊すると、朔夜君は大きな溜め息を吐いた。

「…………ほんとずりぃわ」

 朔夜君は僕を引き寄せて、ぽろぽろと頬を伝う涙を親指の腹で優しく拭った。

「俺怒ってんだよ? ……怒ってんだけど……だけどそんな顔されたらさぁ……」
「ご、ごめんなさ――」
「ああぁもうっわかった。じゃあ、俺はこれから天羽君のこと名前で呼ぶから天羽君も俺のこと名前で呼ぶこと。これ決定ね」
「名……前?」
「そう、陸ってよんでみ?」
「そんな……無理だよ。朔――」
「陸」
「……」
「……」
「……陸……君」
「まぁ、くんはなくてもいいんだけど……それは追々ね」

 僕が消え入りそうな声で朔夜君の名を呼ぶと、彼は嬉しそうにそう言って僕のおでこにキスをした。

「わかってると思うけど…………琴吹や真継には名前で呼ばせんなよ? じゃないと物理的に消すから。あと、結の手作り卵サンドイッチ俺も食いたい」
「ふぇ?」
「あぁ、これはお願いだから命令じゃないよ? でも…………結、もちろん作ってくれるよね?」

 笑顔でそう凄まれる。

 これはもう、選択の余地はない感じのヤツだよね? お願いというよりむしろ命令の部類かな!? 朔夜君、君ってやつは優しいんだか恐いんだか正直僕にはわかんないよ!

 僕は引きつった笑顔でただ頷くことしか出来なかった。
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