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救いたい
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遠くで、ドラドの声じゃない叫び声が聞こえる。ドラドが火の球を放っていたドラゴンを倒したみたいだ。
その時、朝日が昇り始める。
日の光で金銀財宝が煌めいて、キョウイが空から降ってきた。キョウイは意識を失っているようで、マネキンのように落ちてくる。僕は受け止めようと、ドラドの背中を右往左往していた。
「え、右? いや左……?」
最後に野球のフライを捕ったのは学生だ。もう数年前の感覚に頼るのは怖い。それでも、僕はキョウイの身体を受け止めなくちゃいけない。僕は身体が丈夫な獣人だから骨折もしないで、ドラドの身体に着地できたけどキョウイが無事に着地できるかわからない。意識を失っているならなおさらだ。
それに、僕の身体の方がやわらかい。いや、それよりも僕はキョウイの身体を自分の手で受け止めたかった。自分の手でキョウイの命を救いたかった。
「あ、爽やかな香りがする……」
僕は匂いに操られるかのように、ドラドの身体を移動した。すると、僕のところにキョウイが落ちてくる。僕はキョウイの身体を受け止めることに成功した。
腕にのしかかる痛みは思った以上に平気だった。やっぱり、獣人の身体は丈夫だ。
「キョウイ? キョウイ……」
僕は腕の中で眠るキョウイを呼ぶ。今度は頸椎をやられていないか、新たな不安に襲われた。下手に自分が手を出してしまったからこそ、キョウイを傷つけてしまった、と自責の念に駆られる。
「ん……」
キョウイは眉をしかめた。よかった、意識はある。
「キョウイ、キョウイってば! 返事をしてよ……!」
僕は繰り返し、キョウイの名前を呼び続けた。治癒魔法の呪文を知らない僕はそれしかできない。ドワーフがいる時に、教わればよかったと後悔した。それなら、まだ僕の気持ちは救われていた。
――また何もできない自分が嫌になる。
「勝手に殺すな……」
キョウイが起きた。僕はキョウイの顔を涙で濡らしてしまう。
「よかった、ほんとよかった……」
僕の涙は止まらない。キョウイは僕の頭を引き寄せると、キスをした。
「んっ……」
僕は泣いているから、鼻がつまって上手く息もできない。だけど、キスをされて酸欠状態だ。身体の力が抜けて、その場にへたり込む。
「おいおい、もうギブアップか?」
キョウイはいじわるそうに笑った。
「うるさい、キョウイの身体が重すぎるんだよ」
僕は泣きながら笑った。冗談を言えるぐらいに場が和む。
ごほん、と背後で誰かが咳払いをした。振り返るとドワーフがまた咳払いをしている。
「ど、ドワーフ無事だったんだね……」
キョウイとキスをしているところを見られてしまった。
「まぁ、人間よりかは条件反射はいいのでね」
ドワーフは気まずそうに毛繕いを始める。光の柱はもうそこだ。
その時、朝日が昇り始める。
日の光で金銀財宝が煌めいて、キョウイが空から降ってきた。キョウイは意識を失っているようで、マネキンのように落ちてくる。僕は受け止めようと、ドラドの背中を右往左往していた。
「え、右? いや左……?」
最後に野球のフライを捕ったのは学生だ。もう数年前の感覚に頼るのは怖い。それでも、僕はキョウイの身体を受け止めなくちゃいけない。僕は身体が丈夫な獣人だから骨折もしないで、ドラドの身体に着地できたけどキョウイが無事に着地できるかわからない。意識を失っているならなおさらだ。
それに、僕の身体の方がやわらかい。いや、それよりも僕はキョウイの身体を自分の手で受け止めたかった。自分の手でキョウイの命を救いたかった。
「あ、爽やかな香りがする……」
僕は匂いに操られるかのように、ドラドの身体を移動した。すると、僕のところにキョウイが落ちてくる。僕はキョウイの身体を受け止めることに成功した。
腕にのしかかる痛みは思った以上に平気だった。やっぱり、獣人の身体は丈夫だ。
「キョウイ? キョウイ……」
僕は腕の中で眠るキョウイを呼ぶ。今度は頸椎をやられていないか、新たな不安に襲われた。下手に自分が手を出してしまったからこそ、キョウイを傷つけてしまった、と自責の念に駆られる。
「ん……」
キョウイは眉をしかめた。よかった、意識はある。
「キョウイ、キョウイってば! 返事をしてよ……!」
僕は繰り返し、キョウイの名前を呼び続けた。治癒魔法の呪文を知らない僕はそれしかできない。ドワーフがいる時に、教わればよかったと後悔した。それなら、まだ僕の気持ちは救われていた。
――また何もできない自分が嫌になる。
「勝手に殺すな……」
キョウイが起きた。僕はキョウイの顔を涙で濡らしてしまう。
「よかった、ほんとよかった……」
僕の涙は止まらない。キョウイは僕の頭を引き寄せると、キスをした。
「んっ……」
僕は泣いているから、鼻がつまって上手く息もできない。だけど、キスをされて酸欠状態だ。身体の力が抜けて、その場にへたり込む。
「おいおい、もうギブアップか?」
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「ど、ドワーフ無事だったんだね……」
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「まぁ、人間よりかは条件反射はいいのでね」
ドワーフは気まずそうに毛繕いを始める。光の柱はもうそこだ。
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