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誕生会
少女は情けなかった(絵有)
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あれから二日経ち、ロムの風邪がすっかり良くなった頃、今度はアイラスが熱を出した。
ロムが心配して、ずっと看病してくれている。自分がするのは平気だけど、看病されるのは恥ずかしいし情けなかった。
「ロム……ゴメン……」
「いや、俺の風邪が移っちゃったんだから……俺こそ、ごめん」
今日は何日だったっけ。ロムの誕生日まで後何日だろう。まだ何も準備していないのに。
「ロム……誕生日、いつ、だっケ?」
「今は気にしなくていいよ。風邪を治す方が先だから」
「ダメ……お祝い、したいノ」
「そんなのいつでもいいって。それより今度の祭は、今年しかないんだよ。それまでに風邪、治そうね」
自分自身が不甲斐なくて、涙が出てきた。こんな事で泣くなんて、本当に情けない。身体が弱って心も弱っているんだろうか。
「泣かないで……大丈夫、間に合うよ。……あ、そうだ」
ロムが、何か思いついたように立ち上がった。
「薬がもう一回分、残ってるんだ。俺、一回しか飲まなかったから。同じ風邪なら効くよね。持ってくる」
薬。ロムに飲ませた薬。それを思い出したのは、彼が部屋を出て行った後だった。あれは飲みたくない。だから、取りに行かなくていいのに。そう思ったけれど遅かった。
薬を持って戻ってきたロムに、アイラスは言った。
「それ、飲みたくなイ……」
「なんで? 凄く効くと思うんだけど……」
「とっても……苦いノ……」
「えっ」
ロムは驚いて、透明の瓶に入った紫の薬を一滴だけ指に垂らした。
「止めた方ガ……」
アイラスが全て言う前に、ロムはそれを舐めてしまった。
「うわぁ……」
「……ヤバイ、でしょ?」
「よく、こんなの口に入れられたね……」
「エ……?」
「だって、アイラスが、飲ませてくれたんでしょ? その……」
ロムは言いよどんで、目を泳がせた。何を言おうとしているのがが分かり、同時になぜ知ってるんだろうと思った。トールが言ったのかな。色々どうでもよくなってきた。頭も上手く回ってない気がする。
「だっテ……ロム、苦しそう……だった、カラ……」
少し恥ずかしいのと、飲みたくないのとで、アイラスはロムに背中を向けた。
「薬なんカ、飲まなくたっテ……」
「ダメだよ。飲まなきゃ」
肩を掴まれ、仰向けに戻された。背中にロムの手が滑り込み、上半身を起こされた。何? と思っているうちに、あごを掴まれ、唇が重なった。
口の中に、苦い薬が入ってきた。いや、苦くない。
「苦くても我慢してね。あと二口分くらい、あるから……」
「苦くなイ……甘イ……」
「えっ、ほんと? 味覚が麻痺してるのかな。俺はどうだったんだろ……飲んだ時は、寝てたからなぁ……」
言いながら、またロムは薬を口に含んだ。自分は苦くなかったけど、彼は苦いはずだ。
「いいヨ、自分で……」
言い終わる前に、また唇が重なった。頭がクラクラしてきて、今感じている甘さが薬のせいなのかどうか、わからなくなってきた。
「……ロムは、苦いんだよネ? 後は、自分で、飲むカラ……」
「もうここまで来たらいいよ。俺も味がわからなくなってきた」
ロムが瓶に残っていた薬を全て口に含んだので、アイラスは諦めた。これで最後だと思って、目を閉じた。
注がれた薬を全て飲み干しても、彼はすぐに離れなかった。あれ? と思って目を開けると、ようやくロムは身体を離して、自分の口を押えた。それから顔をそらし、苦しそうに目を閉じた。やっぱり、相当苦かったんだ。
「ロム……大丈夫? ごめんネ……」
「……いや……うん。俺は、大丈夫。ごめん……」
「なんで、謝るノ? ……おかげで、薬、飲めたヨ。ありがト……」
「うん……」
辛そうな表情で、ロムが見つめてきた。目がそらせなかった。以前もこんな事があったような気がするが、思い出せない。自分がこんな顔にさせたのかと思うと、胸が締め付けられたように痛かった。
どうやったら償えるんだろう。そう考えたけど、今は身体を起こしている事すら辛く、眩暈がした。それに気づいたのか、ロムが背中を支えながらベッドに寝かしてくれた。呼吸が苦しくて、激しい動悸は収まらなかった。自分の身体さえままならないのが悔しかった。
「ホント……ゴメン……治ったら、何でモ、するカラ……」
「そういう事、言わないで。俺、変な事、頼みそうになる……」
「何でモ……するヨ……私に……できる事、なら……」
瞼が鉛のように重かった。何も食べていない状態で薬を飲んだせいか、もう効いてきたのだろうか。ロムが何か言っているようだったが、聞き取れなかった。
ロムが心配して、ずっと看病してくれている。自分がするのは平気だけど、看病されるのは恥ずかしいし情けなかった。
「ロム……ゴメン……」
「いや、俺の風邪が移っちゃったんだから……俺こそ、ごめん」
今日は何日だったっけ。ロムの誕生日まで後何日だろう。まだ何も準備していないのに。
「ロム……誕生日、いつ、だっケ?」
「今は気にしなくていいよ。風邪を治す方が先だから」
「ダメ……お祝い、したいノ」
「そんなのいつでもいいって。それより今度の祭は、今年しかないんだよ。それまでに風邪、治そうね」
自分自身が不甲斐なくて、涙が出てきた。こんな事で泣くなんて、本当に情けない。身体が弱って心も弱っているんだろうか。
「泣かないで……大丈夫、間に合うよ。……あ、そうだ」
ロムが、何か思いついたように立ち上がった。
「薬がもう一回分、残ってるんだ。俺、一回しか飲まなかったから。同じ風邪なら効くよね。持ってくる」
薬。ロムに飲ませた薬。それを思い出したのは、彼が部屋を出て行った後だった。あれは飲みたくない。だから、取りに行かなくていいのに。そう思ったけれど遅かった。
薬を持って戻ってきたロムに、アイラスは言った。
「それ、飲みたくなイ……」
「なんで? 凄く効くと思うんだけど……」
「とっても……苦いノ……」
「えっ」
ロムは驚いて、透明の瓶に入った紫の薬を一滴だけ指に垂らした。
「止めた方ガ……」
アイラスが全て言う前に、ロムはそれを舐めてしまった。
「うわぁ……」
「……ヤバイ、でしょ?」
「よく、こんなの口に入れられたね……」
「エ……?」
「だって、アイラスが、飲ませてくれたんでしょ? その……」
ロムは言いよどんで、目を泳がせた。何を言おうとしているのがが分かり、同時になぜ知ってるんだろうと思った。トールが言ったのかな。色々どうでもよくなってきた。頭も上手く回ってない気がする。
「だっテ……ロム、苦しそう……だった、カラ……」
少し恥ずかしいのと、飲みたくないのとで、アイラスはロムに背中を向けた。
「薬なんカ、飲まなくたっテ……」
「ダメだよ。飲まなきゃ」
肩を掴まれ、仰向けに戻された。背中にロムの手が滑り込み、上半身を起こされた。何? と思っているうちに、あごを掴まれ、唇が重なった。
口の中に、苦い薬が入ってきた。いや、苦くない。
「苦くても我慢してね。あと二口分くらい、あるから……」
「苦くなイ……甘イ……」
「えっ、ほんと? 味覚が麻痺してるのかな。俺はどうだったんだろ……飲んだ時は、寝てたからなぁ……」
言いながら、またロムは薬を口に含んだ。自分は苦くなかったけど、彼は苦いはずだ。
「いいヨ、自分で……」
言い終わる前に、また唇が重なった。頭がクラクラしてきて、今感じている甘さが薬のせいなのかどうか、わからなくなってきた。
「……ロムは、苦いんだよネ? 後は、自分で、飲むカラ……」
「もうここまで来たらいいよ。俺も味がわからなくなってきた」
ロムが瓶に残っていた薬を全て口に含んだので、アイラスは諦めた。これで最後だと思って、目を閉じた。
注がれた薬を全て飲み干しても、彼はすぐに離れなかった。あれ? と思って目を開けると、ようやくロムは身体を離して、自分の口を押えた。それから顔をそらし、苦しそうに目を閉じた。やっぱり、相当苦かったんだ。
「ロム……大丈夫? ごめんネ……」
「……いや……うん。俺は、大丈夫。ごめん……」
「なんで、謝るノ? ……おかげで、薬、飲めたヨ。ありがト……」
「うん……」
辛そうな表情で、ロムが見つめてきた。目がそらせなかった。以前もこんな事があったような気がするが、思い出せない。自分がこんな顔にさせたのかと思うと、胸が締め付けられたように痛かった。
どうやったら償えるんだろう。そう考えたけど、今は身体を起こしている事すら辛く、眩暈がした。それに気づいたのか、ロムが背中を支えながらベッドに寝かしてくれた。呼吸が苦しくて、激しい動悸は収まらなかった。自分の身体さえままならないのが悔しかった。
「ホント……ゴメン……治ったら、何でモ、するカラ……」
「そういう事、言わないで。俺、変な事、頼みそうになる……」
「何でモ……するヨ……私に……できる事、なら……」
瞼が鉛のように重かった。何も食べていない状態で薬を飲んだせいか、もう効いてきたのだろうか。ロムが何か言っているようだったが、聞き取れなかった。
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