75 / 233
祭
少年は賭けをする
しおりを挟む
管理人室のドアが開き、ホークとザラムが中から出てきた。ロム達が居る事に驚いていた。
「おや……待っていたのかい?」
「何? 用?」
「一緒に晩ご飯を食べようと思って」
「そうかい? 案内する手間が省けたよ。ザラムも、さっそく友人ができて良かったじゃないか」
ザラムは少し意外そうな顔をしたが、素直に頷いた。
「アイラス、君は彼を連れて先に行っていてくれないか。私はロムに少し話があるから」
「わかりました。行こ!」
彼女達が廊下の角を曲がって姿が見えなくなっても、ホークは話し始めなかった。
ロムがしびれを切らしかけた頃、ようやく口を開いた。
「彼の事、少し気を付けて見ておいてくれないか?」
「ザラムですか? 何か問題があるんですか?」
「問題という訳ではないよ。ただ、少し気になってね。彼には何か目的があるようなんだ。それが何かは、教えてもらえなかったのだけど」
「……わかりました」
目的って何だろう。内容次第では手伝ってもいいと思う。
ニーナがトールを呼び止めたのも同じ理由なんだろうか。だとしたら魔法に関する事で、自分が役に立てるとは思えない。もし物騒な事だったとしても、阻止する事は難しいかもしれない。
悪い奴とは思わない。でも信頼に足るとまでは、まだ思えなかった。
遅れて食堂に行くと、ザラムは食べ始めていたが、アイラスは手を付けていなかった。ロムに気づくと、席を立って温かいスープを取りに行った。
「ごめん。先に食べててもよかったのに」
「ロムと一緒に、食べたくて」
ザラムが口の端を上げた。その笑いは微笑むというより面白がっている感じがしたので、ロムは文句を言った。
「何が言いたいんだよ」
「仲、良い」
今の態度は随分、自分達を子供扱いしていると思った。歳は離れていないような気がするから、不当に感じた。
「ザラムは何歳なの?」
「知らん。偉そうな魔法使い、12歳、言った」
年下じゃないか。まあ自分も13歳になったばかりなのだから、偉そうに言えないのだけど。それにしたって、さっきの顔は大人が子供を笑うような感じだった。
不満はあったが、ここで腹を立てるのはそれこそ子供みたいだと思う。我慢して、努めて冷静に返した。
「偉そうなって……ニーナの事? だったら、見立ては合ってそうだね」
でも、自分の年齢を知らないとはどういう事なんだろう。親は居ないと言っていた。捨てられたのか、死んだのか。そこは聞いていいのかどうか、わからなかった。
「私と一緒だネ」
「お前、12歳? 見えない」
「そうじゃなくて、私も自分の年齢、わからなかったから。初めてニーナに会った時、歳を教えてもらったノ。私は10歳なんだって」
「もっと、下、見える」
「失礼ネ!」
「なぜ、わからなかった?」
「私、トールに拾われるまでの記憶がないノ」
アイラスは、前に決めた筋書きを話した。
記憶喪失で森をさまよっていて、トールに保護された。彼の名付け親がアイラスの事を知っていたようだったが、詳しくは知らされずに亡くなった。その後ロムと出会い、この街に来た。
嘘で塗り固めず、真実を織り交ぜ、本質的なところは不明で調べる手立てもない。そうしておいた方がいいだろうと、みんなで相談して決めた筋書きだった。
「ザラムも記憶がないノ?」
「違う。生みの親、知らん。名づけ親、死んだ」
なかなか苦労の多そうな生い立ちだけど、保護区に入る子は大体似たようなものだとも思った。
「『黄泉の申し子』」
突然、ザラムがシンの言葉で呼びかけてきた。
「止めて。ここはシンじゃない。この国の言葉で話して。それと、今の俺の名前はロムだよ」
「悪かった、ロム」
ザラムは少し笑いながら謝った。その笑顔はニーナやレヴィに似ていた。いちいち上から目線で、ロムは面白くなかった。
「……で、何? 言いたい事、あったんでしょ」
「明後日、賞金、賞品、要らない」
「なんで? 住むところができたから? ……もしかして、棄権するの?」
「しない。戦いたい。オレ勝ったら、ロムの刀、くれ。代わりに、賞金、賞品、やる」
優勝のうま味が無くなったから、別の物を賭けようというんだろうか。それは少し面白いかもしれないと思った。
「……長刀と短刀があるけど、どっちがいい?」
「長刀」
「わかった。……俺が勝ったら?」
「オレ、何も、ない」
「じゃあ、俺が勝ったら、俺の賞金で刀鍛冶に一振り打ってもらって。ザラムが準決勝で戦った人だよ。鍛冶の腕は確かだから」
「ロム、得、無い」
「あるよ。副賞はもらう。賞金は、どうせ全部俺の物になるわけじゃない。貯蓄限度額の事、説明受けたでしょ? 仕事を依頼して、あの人の懐にお金が入った方が、俺は嬉しい」
「わかった」
「ザラムが勝っても、俺のお古じゃなくて、賞金で新しい刀を打ってもらったらいいんじゃないの?」
「面白くない。ロムの刀、欲しい」
「あ、そう……」
「二人、仲がいいネ」
黙って聞いていたアイラスが唐突にそう言い、ロムは面食らった。
「ど……どこが!?」
「だってロム、楽しそう」
確かに、棄権するのかと思った時は残念だったし、自分の刀を賭けるとなったら面白いと思った。
「オレも、楽しい。明後日、楽しみ」
年相応のいたずらっぽい笑顔でそう言われ、ロムは初めて友達になれるかもしれないと感じていた。
「おや……待っていたのかい?」
「何? 用?」
「一緒に晩ご飯を食べようと思って」
「そうかい? 案内する手間が省けたよ。ザラムも、さっそく友人ができて良かったじゃないか」
ザラムは少し意外そうな顔をしたが、素直に頷いた。
「アイラス、君は彼を連れて先に行っていてくれないか。私はロムに少し話があるから」
「わかりました。行こ!」
彼女達が廊下の角を曲がって姿が見えなくなっても、ホークは話し始めなかった。
ロムがしびれを切らしかけた頃、ようやく口を開いた。
「彼の事、少し気を付けて見ておいてくれないか?」
「ザラムですか? 何か問題があるんですか?」
「問題という訳ではないよ。ただ、少し気になってね。彼には何か目的があるようなんだ。それが何かは、教えてもらえなかったのだけど」
「……わかりました」
目的って何だろう。内容次第では手伝ってもいいと思う。
ニーナがトールを呼び止めたのも同じ理由なんだろうか。だとしたら魔法に関する事で、自分が役に立てるとは思えない。もし物騒な事だったとしても、阻止する事は難しいかもしれない。
悪い奴とは思わない。でも信頼に足るとまでは、まだ思えなかった。
遅れて食堂に行くと、ザラムは食べ始めていたが、アイラスは手を付けていなかった。ロムに気づくと、席を立って温かいスープを取りに行った。
「ごめん。先に食べててもよかったのに」
「ロムと一緒に、食べたくて」
ザラムが口の端を上げた。その笑いは微笑むというより面白がっている感じがしたので、ロムは文句を言った。
「何が言いたいんだよ」
「仲、良い」
今の態度は随分、自分達を子供扱いしていると思った。歳は離れていないような気がするから、不当に感じた。
「ザラムは何歳なの?」
「知らん。偉そうな魔法使い、12歳、言った」
年下じゃないか。まあ自分も13歳になったばかりなのだから、偉そうに言えないのだけど。それにしたって、さっきの顔は大人が子供を笑うような感じだった。
不満はあったが、ここで腹を立てるのはそれこそ子供みたいだと思う。我慢して、努めて冷静に返した。
「偉そうなって……ニーナの事? だったら、見立ては合ってそうだね」
でも、自分の年齢を知らないとはどういう事なんだろう。親は居ないと言っていた。捨てられたのか、死んだのか。そこは聞いていいのかどうか、わからなかった。
「私と一緒だネ」
「お前、12歳? 見えない」
「そうじゃなくて、私も自分の年齢、わからなかったから。初めてニーナに会った時、歳を教えてもらったノ。私は10歳なんだって」
「もっと、下、見える」
「失礼ネ!」
「なぜ、わからなかった?」
「私、トールに拾われるまでの記憶がないノ」
アイラスは、前に決めた筋書きを話した。
記憶喪失で森をさまよっていて、トールに保護された。彼の名付け親がアイラスの事を知っていたようだったが、詳しくは知らされずに亡くなった。その後ロムと出会い、この街に来た。
嘘で塗り固めず、真実を織り交ぜ、本質的なところは不明で調べる手立てもない。そうしておいた方がいいだろうと、みんなで相談して決めた筋書きだった。
「ザラムも記憶がないノ?」
「違う。生みの親、知らん。名づけ親、死んだ」
なかなか苦労の多そうな生い立ちだけど、保護区に入る子は大体似たようなものだとも思った。
「『黄泉の申し子』」
突然、ザラムがシンの言葉で呼びかけてきた。
「止めて。ここはシンじゃない。この国の言葉で話して。それと、今の俺の名前はロムだよ」
「悪かった、ロム」
ザラムは少し笑いながら謝った。その笑顔はニーナやレヴィに似ていた。いちいち上から目線で、ロムは面白くなかった。
「……で、何? 言いたい事、あったんでしょ」
「明後日、賞金、賞品、要らない」
「なんで? 住むところができたから? ……もしかして、棄権するの?」
「しない。戦いたい。オレ勝ったら、ロムの刀、くれ。代わりに、賞金、賞品、やる」
優勝のうま味が無くなったから、別の物を賭けようというんだろうか。それは少し面白いかもしれないと思った。
「……長刀と短刀があるけど、どっちがいい?」
「長刀」
「わかった。……俺が勝ったら?」
「オレ、何も、ない」
「じゃあ、俺が勝ったら、俺の賞金で刀鍛冶に一振り打ってもらって。ザラムが準決勝で戦った人だよ。鍛冶の腕は確かだから」
「ロム、得、無い」
「あるよ。副賞はもらう。賞金は、どうせ全部俺の物になるわけじゃない。貯蓄限度額の事、説明受けたでしょ? 仕事を依頼して、あの人の懐にお金が入った方が、俺は嬉しい」
「わかった」
「ザラムが勝っても、俺のお古じゃなくて、賞金で新しい刀を打ってもらったらいいんじゃないの?」
「面白くない。ロムの刀、欲しい」
「あ、そう……」
「二人、仲がいいネ」
黙って聞いていたアイラスが唐突にそう言い、ロムは面食らった。
「ど……どこが!?」
「だってロム、楽しそう」
確かに、棄権するのかと思った時は残念だったし、自分の刀を賭けるとなったら面白いと思った。
「オレも、楽しい。明後日、楽しみ」
年相応のいたずらっぽい笑顔でそう言われ、ロムは初めて友達になれるかもしれないと感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる