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新しい生活
少女は服を選んだ(絵有)
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「アイラス、待って」
街道を先を歩いていたアイラスは、ロムに呼び止められて振り向いた。
早く歩きすぎただろうか。今は彼と一緒に服飾店に向かっているところで、久々に二人きりな気がして、つい足取りが軽くなった。
ニーナの用意してくれた服も外套も、暖かいのに軽くて動きやすい。ただ、外套の首回りが大きく開いていて少し寒かった。実用性より見た目を重視したデザインなのかな思う。
ロムが自分のマフラーを首から外した。あれは確か、ホークが彼の誕生日にあげた物だ。文句を言いながらも、きちんと活用している辺りは真面目だなぁと思う。
そのマフラーがふわりとアイラスの首にかけられた。ロムの顔が近くて息が止まった。
硬直したアイラスに気が付いて、ロムがあわてて手を離した。
「あっ、ごめん……なんか、寒そうに、見えたから……」
「う、うん……ありがとう。少し、寒かったノ……」
「そっか。それなら良かった」
「ロムは、寒くない?」
「うん、俺は大丈夫」
ロムは恥ずかしそうに顔をそむけて、今度は彼が先に立って歩き始めた。
その後を追いながら、マフラーに顔をうずめた。彼の体温と匂いを感じて気持ちよかった。
王家ご用達という服飾店に着いた。
今まで見た事がない程の立派な玄関で、アイラスは立ちすくんだ。正直、質素を重んじる城よりも、無駄に豪華なニーナの館よりも、立派だと思う。
二人に気づいた店の人が、外まで迎えに出てきた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
アイラスは違和感を覚えながら中に入った。隣を歩くロムにこそっと聞いてみた。
「ロム、常連さんなノ?」
「まさか。二回目で、顔を覚えられてるだけだよ」
「二回目なノ?」
「あっ……うん、この前、下見に来て……」
ロムが言いよどんで目を泳がせた。
下見? 今日、自分がついてくる意味があったんだろうか。アイラスの違和感はますます強くなった。
案内された部屋に入って、やっとアイラスは理解した。
そこには、数体のトルソーに女児用のドレスがかけられていた。どう見ても、ロムのために用意されたものではない。サイズはアイラスにピッタリのように思えた。
「ロム、これどういう事なノ?」
「だまして、ごめん」
ロムはいたずらがバレた子供のように笑った。
「全然悪いと思ってないでしょ!?」
「そりゃあ、まあ……でも、アイラスにもらって欲しいんだ」
「ダメだヨ。優勝したの、ロムだヨ? ロムの服じゃないと……」
「最初から……アドルに教えてもらった時から、こうするつもりだったんだよ。そのために頑張ったんだから、もらってくれないと俺も困るんだ」
誕生会でアドルと話す彼を思い出した。二人とも何か含みがあり、違和感があったのを覚えている。アドルもそういうつもりで副賞の話をしたのかもしれない。
それでも、と思ってドレスを見た。どう考えても自分には、分不相応だと思う。
「でも……私、こんな服、着る機会ないヨ……」
「それなら、俺だって無いよ。騎士団の服だってほとんど着てないし」
「叙任式と誕生会で着てたじゃない」
「叙任式は二度とないし、来年の誕生会が今回みたいに豪華になるかどうかわかんないし……今後いつ着ることがあるだろって思ってるよ」
アイラスは、ロムの礼服姿を思い出した。眩しいくらいに素敵で、自分が隣に立つのが恥ずかしいくらいだった。
――そうだ。
思い当たって聞いてみた。
「ここの服なら、ロムの……騎士団の礼服に釣り合う……?」
ずっとニコニコしながら、二人の話を聞いていた店員さんが口を開いた。
「騎士団の制服も当店が仕立てております。格としては同等ですし、きっとお似合いになると思いますよ」
「そうなんですか? 知らなかったです。それならますますいいじゃん。ね、もらってよ」
甘えた子猫のように、上目遣いでお願いされた。その顔は反則でしょう。アイラスは自分でも顔が赤くなるのがわかり、隠すように頬に手を当てた。
「……それなら、もらおう、かな……」
「やった! ありがとう!」
「いや、ありがとうは、私のセリフだヨ……」
「そうだよね。つい、嬉しくて」
「でも、すぐ小さくなっちゃいそう……大き目にしてもらった方がいいのかな」
「それなら大丈夫ですよ。そのチケットにはお直し代も含まれておりますので。今合うサイズにして頂いて問題ないと思います」
「手厚いですね。普通、そういうものなんですか?」
「いいえ。私共も、皇子から頼まれた時は驚きました。でも、こういう事だったのかと納得がいきましたよ。皇子は、あなたが必ず優勝して、賞品はこちらのお嬢様に差し上げる事まで、わかってらっしゃったのですね」
全てがアドルの思惑通りに進んでいる。そう考えたら、あの耽美な笑顔が憎らしく思えてきた。
「じゃあ、どれにする? どれも似合うと思うけど……」
ロムが嬉しそうに、ドレスの間を行ったり来たりしている。
アドルを責めるのは、また今度考えよう。今はこの幸せなひと時を堪能しようと思った。
街道を先を歩いていたアイラスは、ロムに呼び止められて振り向いた。
早く歩きすぎただろうか。今は彼と一緒に服飾店に向かっているところで、久々に二人きりな気がして、つい足取りが軽くなった。
ニーナの用意してくれた服も外套も、暖かいのに軽くて動きやすい。ただ、外套の首回りが大きく開いていて少し寒かった。実用性より見た目を重視したデザインなのかな思う。
ロムが自分のマフラーを首から外した。あれは確か、ホークが彼の誕生日にあげた物だ。文句を言いながらも、きちんと活用している辺りは真面目だなぁと思う。
そのマフラーがふわりとアイラスの首にかけられた。ロムの顔が近くて息が止まった。
硬直したアイラスに気が付いて、ロムがあわてて手を離した。
「あっ、ごめん……なんか、寒そうに、見えたから……」
「う、うん……ありがとう。少し、寒かったノ……」
「そっか。それなら良かった」
「ロムは、寒くない?」
「うん、俺は大丈夫」
ロムは恥ずかしそうに顔をそむけて、今度は彼が先に立って歩き始めた。
その後を追いながら、マフラーに顔をうずめた。彼の体温と匂いを感じて気持ちよかった。
王家ご用達という服飾店に着いた。
今まで見た事がない程の立派な玄関で、アイラスは立ちすくんだ。正直、質素を重んじる城よりも、無駄に豪華なニーナの館よりも、立派だと思う。
二人に気づいた店の人が、外まで迎えに出てきた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
アイラスは違和感を覚えながら中に入った。隣を歩くロムにこそっと聞いてみた。
「ロム、常連さんなノ?」
「まさか。二回目で、顔を覚えられてるだけだよ」
「二回目なノ?」
「あっ……うん、この前、下見に来て……」
ロムが言いよどんで目を泳がせた。
下見? 今日、自分がついてくる意味があったんだろうか。アイラスの違和感はますます強くなった。
案内された部屋に入って、やっとアイラスは理解した。
そこには、数体のトルソーに女児用のドレスがかけられていた。どう見ても、ロムのために用意されたものではない。サイズはアイラスにピッタリのように思えた。
「ロム、これどういう事なノ?」
「だまして、ごめん」
ロムはいたずらがバレた子供のように笑った。
「全然悪いと思ってないでしょ!?」
「そりゃあ、まあ……でも、アイラスにもらって欲しいんだ」
「ダメだヨ。優勝したの、ロムだヨ? ロムの服じゃないと……」
「最初から……アドルに教えてもらった時から、こうするつもりだったんだよ。そのために頑張ったんだから、もらってくれないと俺も困るんだ」
誕生会でアドルと話す彼を思い出した。二人とも何か含みがあり、違和感があったのを覚えている。アドルもそういうつもりで副賞の話をしたのかもしれない。
それでも、と思ってドレスを見た。どう考えても自分には、分不相応だと思う。
「でも……私、こんな服、着る機会ないヨ……」
「それなら、俺だって無いよ。騎士団の服だってほとんど着てないし」
「叙任式と誕生会で着てたじゃない」
「叙任式は二度とないし、来年の誕生会が今回みたいに豪華になるかどうかわかんないし……今後いつ着ることがあるだろって思ってるよ」
アイラスは、ロムの礼服姿を思い出した。眩しいくらいに素敵で、自分が隣に立つのが恥ずかしいくらいだった。
――そうだ。
思い当たって聞いてみた。
「ここの服なら、ロムの……騎士団の礼服に釣り合う……?」
ずっとニコニコしながら、二人の話を聞いていた店員さんが口を開いた。
「騎士団の制服も当店が仕立てております。格としては同等ですし、きっとお似合いになると思いますよ」
「そうなんですか? 知らなかったです。それならますますいいじゃん。ね、もらってよ」
甘えた子猫のように、上目遣いでお願いされた。その顔は反則でしょう。アイラスは自分でも顔が赤くなるのがわかり、隠すように頬に手を当てた。
「……それなら、もらおう、かな……」
「やった! ありがとう!」
「いや、ありがとうは、私のセリフだヨ……」
「そうだよね。つい、嬉しくて」
「でも、すぐ小さくなっちゃいそう……大き目にしてもらった方がいいのかな」
「それなら大丈夫ですよ。そのチケットにはお直し代も含まれておりますので。今合うサイズにして頂いて問題ないと思います」
「手厚いですね。普通、そういうものなんですか?」
「いいえ。私共も、皇子から頼まれた時は驚きました。でも、こういう事だったのかと納得がいきましたよ。皇子は、あなたが必ず優勝して、賞品はこちらのお嬢様に差し上げる事まで、わかってらっしゃったのですね」
全てがアドルの思惑通りに進んでいる。そう考えたら、あの耽美な笑顔が憎らしく思えてきた。
「じゃあ、どれにする? どれも似合うと思うけど……」
ロムが嬉しそうに、ドレスの間を行ったり来たりしている。
アドルを責めるのは、また今度考えよう。今はこの幸せなひと時を堪能しようと思った。
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