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秘密
少年は新しい工房を見に行った(絵有)
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ロムとレヴィで共同購入した家は、二階建てのこじんまりした家だった。地下に倉庫、一階に広い部屋と台所、二階に個室が二つあった。
「ここがレヴィの新しい工房になるノ?」
「ああ。ここなら、アイラス一人でも保護区から来れるだろ? ま、今は無理だけどな」
「そうだネ! 前のところより近いし、広いし、綺麗だし……お掃除は、私がするネ?」
「お、おう……」
「一階が画廊になるのかな?」
アドルとアイラスが台所に行き、楽しそうにあちこちの棚や引き出しを開いてまわって、レヴィに叱られていた。
ふと、アイラスとレヴィの動きがピタリと止まった。振り向いたアイラスの顔には焦燥の色があった。
「アイラス、どうし……」
ロムの言葉を遮るように、レヴィが言った。
「出た」
「な、何が……?」
「……白い、悪魔」
背中からザラムの震える声がした。その意味がすぐに理解できず、ロムはゆっくり振り向いた。
でもそこには、ザラムの姿はなかった。閉めていた入口の扉が開いていて、風に揺れていた。
「ロム、追いかけて! 一人だと危ない! 僕達は後で行くから!」
部屋の奥からアドルが叫び、ロムはあわてて飛び出した。
外に出ると、街道の先にザラムの背中が見えた。
それを追いかけながら考えた。アドルは、ザラムを見張る話を知らない。だから純粋に、心配してくれたのだと思う。嫌っていても心配はしてくれるんだと、少し嬉しくなった。
きっとそれは、アドル自身も価値を認められる、彼の良いところに思えた。
ザラムに追いつき、並んで走りながら話しかけた。
「近いの?」
ザラムは答えず、急に立ち止まった。ロムも遅れて立ち止まり、振り返った。
「どうしたの?」
「消えた。……死んだ?」
「どの辺だったか、わかる? 気配が消えたら、わからなくなっちゃったかな」
「あっち。距離、わからない」
ザラムが指で示した方向には、保護区の時計台が見えていた。
保護区に着くと、今までにないくらい騒然としていた。
怯えて泣いている子供達が、肩を寄せ合っていた。ロムはその子達を知っていた。シンから来た子だ。白い悪魔を見たのかもしれない。
詳細を聞きたかったけど、聞いてはいけないかもしれないとも思った。迷っていると、後ろから声がかけられた。
「……ロム? どうしてここに?」
振り向くと、胸元を真っ赤に染めたホークが立っていた。
「だ……大丈夫ですか!? やられたんですか?」
「少しね。傷はもう治してあるから、心配しないでいいよ」
ホークが引き裂かれた服を広げて見せると、その奥の肌には傷一つ付いていなかった。
「授業中で子供達が居たから、思うように動けなくてね」
ロムを押しのけるように、ザラムが前に出た。震える声で、ホークに聞いた。
「だ、誰か……食われた?」
「大丈夫。私以外は無傷だし、悪魔と化した子も元に戻ったよ。翼を斬り落とせばいいと聞いていたからね」
「そう、か……」
「教室に裂け目が現れたんですか? それとも、出現場所はわからなくて、先生を狙って教室に来たんですか? 先生、丸腰だけど、剣とか持っていたんですか?」
「質問は、一つずつにしてくれないかな?」
「あ……すみません……」
「教室に裂け目が現れてね。一番近くに座っていた子が、離れる間もなく吸い込まれた。私が翼を斬り落とした剣は、これだよ」
ホークが髪をかき上げ、左耳のイヤリングを示した。剣モチーフで、ロムの持つ騎士証に似ていた。
「魔法で剣を小さくしたものなんだ。剣を腰に下げたままだと、授業がやりにくいからね」
ホークの答えを聞いて、ロムは考えた。
これで三体目の白い悪魔。いや、三ヶ所目の白い裂け目というべきか。
このまま増え続けたりしないだろうか。シンのように大量発生したら、この街はどうなるんだろう。この街の外では発生していないのだろうか。
時間も場所もまちまち。共通点は、魔法使いが居る事? しかしシンでは魔法使いが大量にいた戦場ではなく、魔法使いが居ないはずの『人狼』の里に出たという話だ。
「君達はどうしてここに? ニーナのところで暮らすと聞いていたのだけど……」
ホークの声に、我に返った。
「あ、えっと……レヴィの新しい工房を見に来たんです。ここに近いところだから……」
「彼女も来ているのかい?」
「俺達だけ先に来ました。レヴィ達は今向かって来てるはずだから、じきに着くと思います」
「……達?」
「あっ、アイラスとアドルも一緒です。アドルは、誕生会で顔を合わせましたよね?」
「……そうだね。彼らが付いたら、レヴィとアイラスに美術室に来るように伝えてもらえるかい? 私は先に行って、準備をしているから」
頷いたけれど、何の用事なんだろう。レヴィとアイラスに共通する事と言えば、魔法使いである事と、絵描きである事。美術室なのだから、絵の方かもしれない。
それからしばらくして、保護区に来たレヴィとアイラスに伝言を伝え、ロムとザラム、アドルも一緒に美術室に向かった。
↑ホークです。誰? って思われそうなので。
「ここがレヴィの新しい工房になるノ?」
「ああ。ここなら、アイラス一人でも保護区から来れるだろ? ま、今は無理だけどな」
「そうだネ! 前のところより近いし、広いし、綺麗だし……お掃除は、私がするネ?」
「お、おう……」
「一階が画廊になるのかな?」
アドルとアイラスが台所に行き、楽しそうにあちこちの棚や引き出しを開いてまわって、レヴィに叱られていた。
ふと、アイラスとレヴィの動きがピタリと止まった。振り向いたアイラスの顔には焦燥の色があった。
「アイラス、どうし……」
ロムの言葉を遮るように、レヴィが言った。
「出た」
「な、何が……?」
「……白い、悪魔」
背中からザラムの震える声がした。その意味がすぐに理解できず、ロムはゆっくり振り向いた。
でもそこには、ザラムの姿はなかった。閉めていた入口の扉が開いていて、風に揺れていた。
「ロム、追いかけて! 一人だと危ない! 僕達は後で行くから!」
部屋の奥からアドルが叫び、ロムはあわてて飛び出した。
外に出ると、街道の先にザラムの背中が見えた。
それを追いかけながら考えた。アドルは、ザラムを見張る話を知らない。だから純粋に、心配してくれたのだと思う。嫌っていても心配はしてくれるんだと、少し嬉しくなった。
きっとそれは、アドル自身も価値を認められる、彼の良いところに思えた。
ザラムに追いつき、並んで走りながら話しかけた。
「近いの?」
ザラムは答えず、急に立ち止まった。ロムも遅れて立ち止まり、振り返った。
「どうしたの?」
「消えた。……死んだ?」
「どの辺だったか、わかる? 気配が消えたら、わからなくなっちゃったかな」
「あっち。距離、わからない」
ザラムが指で示した方向には、保護区の時計台が見えていた。
保護区に着くと、今までにないくらい騒然としていた。
怯えて泣いている子供達が、肩を寄せ合っていた。ロムはその子達を知っていた。シンから来た子だ。白い悪魔を見たのかもしれない。
詳細を聞きたかったけど、聞いてはいけないかもしれないとも思った。迷っていると、後ろから声がかけられた。
「……ロム? どうしてここに?」
振り向くと、胸元を真っ赤に染めたホークが立っていた。
「だ……大丈夫ですか!? やられたんですか?」
「少しね。傷はもう治してあるから、心配しないでいいよ」
ホークが引き裂かれた服を広げて見せると、その奥の肌には傷一つ付いていなかった。
「授業中で子供達が居たから、思うように動けなくてね」
ロムを押しのけるように、ザラムが前に出た。震える声で、ホークに聞いた。
「だ、誰か……食われた?」
「大丈夫。私以外は無傷だし、悪魔と化した子も元に戻ったよ。翼を斬り落とせばいいと聞いていたからね」
「そう、か……」
「教室に裂け目が現れたんですか? それとも、出現場所はわからなくて、先生を狙って教室に来たんですか? 先生、丸腰だけど、剣とか持っていたんですか?」
「質問は、一つずつにしてくれないかな?」
「あ……すみません……」
「教室に裂け目が現れてね。一番近くに座っていた子が、離れる間もなく吸い込まれた。私が翼を斬り落とした剣は、これだよ」
ホークが髪をかき上げ、左耳のイヤリングを示した。剣モチーフで、ロムの持つ騎士証に似ていた。
「魔法で剣を小さくしたものなんだ。剣を腰に下げたままだと、授業がやりにくいからね」
ホークの答えを聞いて、ロムは考えた。
これで三体目の白い悪魔。いや、三ヶ所目の白い裂け目というべきか。
このまま増え続けたりしないだろうか。シンのように大量発生したら、この街はどうなるんだろう。この街の外では発生していないのだろうか。
時間も場所もまちまち。共通点は、魔法使いが居る事? しかしシンでは魔法使いが大量にいた戦場ではなく、魔法使いが居ないはずの『人狼』の里に出たという話だ。
「君達はどうしてここに? ニーナのところで暮らすと聞いていたのだけど……」
ホークの声に、我に返った。
「あ、えっと……レヴィの新しい工房を見に来たんです。ここに近いところだから……」
「彼女も来ているのかい?」
「俺達だけ先に来ました。レヴィ達は今向かって来てるはずだから、じきに着くと思います」
「……達?」
「あっ、アイラスとアドルも一緒です。アドルは、誕生会で顔を合わせましたよね?」
「……そうだね。彼らが付いたら、レヴィとアイラスに美術室に来るように伝えてもらえるかい? 私は先に行って、準備をしているから」
頷いたけれど、何の用事なんだろう。レヴィとアイラスに共通する事と言えば、魔法使いである事と、絵描きである事。美術室なのだから、絵の方かもしれない。
それからしばらくして、保護区に来たレヴィとアイラスに伝言を伝え、ロムとザラム、アドルも一緒に美術室に向かった。
↑ホークです。誰? って思われそうなので。
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