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秘密
少年は忍び込んだ(絵有)
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翌朝、アイラスはレヴィに、ロムはニーナに、昨夜決めた事を頼みに行った。どちらも特に追及されるでもなく、許可が下りた。
後は、アイラスとレヴィが予定通りポスターを完成させてくれればいい。
ロムは午前中、またコナーに刀術を教え、昼食時に二人に進み具合を聞いてみた。
「大丈夫だヨ。レヴィの手、とってもはやいノ。やる事が少ない私の方が遅れてるくらい」
「アイラスも頑張ってるぞ。デザインもレイアウトも決まって、後は描き進めるだけだ。明日の午後には出来上がるだろ」
アドルと顔を見合わせ、つい頬が緩んでしまった。
「なんだ? 楽しそうだな?」
「えっ、うん。明日は久しぶりにトールと出かけるなと思って。ほら、ニーナの部屋にこもりきりで、あんまり一緒に居られないし」
「祭の時は散々出かけてただろ」
「祭って一週間前じゃん。子供にとって一週間は長いよ」
「わかったわかった」
追及されて焦ったけれど、怪しまれなかっただろうか。顔をうかがったけど、すでにアイラスと絵の話をしていて、こっちの事は気にしていないようだった。
「ロムもトール程じゃないけど、思ってることが顔に出ちゃうよね」
アドルがコソコソと話しかけてきた。アイラスにも同じ事を言われた。自覚がない事だから、なんとなくおもしろくない。
「なんだよ。別に、いいじゃん」
「悪いとは言ってないよ。可愛いなと思って」
思い切りむせてしまい、全員がロムの方を向いた。
「すみません……何でもないです……」
隣でアドルが笑いをこらえている。まるでホークに笑われているようだった。
彼が大人になると、ホークのように意地悪になるんじゃないかと思うと、不安しか感じなかった。
翌日の昼食前には、絵は完成していた。
「今、乾かしてるところだ。もう少し待ってくれ。そうだな……午後のお茶が終わってから、持って行ってくれ。薄暗くなっちまって悪いけどな」
レヴィは申し訳なさそうに言ったけれど、ロムにとっては好都合だった。今の時期、日没は4時半。暗い方が仕事がしやすい。
思わず仕事と考えてしまって、ロムは苦笑した。昔の仕事に比べたら警備はゆるいし、見つかっても殺されはしない。
「ロム?」
「ううん、何でもない。大丈夫。俺とトール、あとザラムも、暗くても平気だから」
「ああ、でも気をつけろよ」
「うん、わかってる」
午後のお茶の時間になり、リサが早朝に焼いてくれていたクッキーを食べ終わり、五人はすぐに出発した。
ニーナの館から出るまで、五人とも平静を装っていた。でも門を出てしまうと、誰からともなく笑い始め、最終的に全員で爆笑していた。
あのザラムですら、声を出して笑っていた。
みんな何も言わなかったけど、毎日守り守られ、気の抜けない生活に少し疲れ始めていたのかもしれない。
別に今、気を抜いているわけではない。
それでも、大人達を出し抜いて、子供だけで計画を立てて行動している事が、とても楽しかった。
いや、トールは子供のうちに入るのかな? まあ歳だけはくってるけど、彼の精神年齢はとても低いと思う。
見た目は子供だし、もう子供でいいや。口に出せば本人が怒りそうな事を考えながら、ロムは笑いが止まらなかった。
アイラスが、笑いすぎて出てきた涙を拭いていた。
「あーもー、ごめんネ。笑いごとじゃないのに。アドルにとっては大切な事なんだよネ」
「いいよ、僕も楽しいから。みんなと一緒なら、結果がどうであれ、僕……大丈夫だと思うから」
「そんなに大変な事なの?」
彼が話さないものだから、詳細は聞いていない。少し心配になってきた。
「うーん……どう、かな……僕が深く考えすぎなのかもしれないけど……」
言いよどんだアドルを気遣ってか、アイラスが話題を変えた。
「リンドも一緒に来れたらよかったのにネ」
「あやつは仕事が溜まっておるでな。もうしばらく休みはあるまい」
「毎日毎日、同じ部屋で仕事ばかりで、大変そうだネ」
「まあでも……毎日トールと一緒だから、意外と平気なんじゃないかな」
「なぜそうなるのじゃ?」
まだ気づいてないのかよと、内心突っ込んだ。アイラスもアドルも呆れていたが、何も言わなかった。トールとザラムだけ、意味がわからないという顔をしていた。
「それでも余裕ができたら、リンドも誘って出かけたいよネ。今回みたいな極秘任務じゃなくてネ」
アイラスの言葉に同意し、保護区への道を急いだ。
保護区について、打合せ通り二手に分かれた。
アドルとアイラスはポスターを届けにホークのところへ。残りの三人は資料室へ。
トールは目立たないよう猫の姿になっていた。当初、彼は来る予定ではなかったのだけど、アイラス達と連携を取りやすいので、来てもらってよかったと思う。
資料室のある建物には、玄関側に小部屋がある。常に人が居て、玄関を通る人を確認しているので、そこを通るわけにはいかなかった。
二年前は、建物東側のベランダに大きな木の枝が張り出していて、そこから入った。
普段来ないところなので、最近は確認したことがなかった。どうなってるか心配だったけど、前例があるのに木は撤去されていなかった。当時ホークに追及されて、あそこから入った事は白状したはずなのだけど。
セキュリティ的にどうなのと思わなくもないけど、あの木が無いと潜入の難易度が上がっていたのだから、今は感謝しておこう。
木を伝って建物に入り、資料室に向かった。
そこにかけられた鍵も二年前と同じで、ピッキングですぐ開けることができた。
外に見張りとしてザラムを残し、トールと共に資料室に入った。
中も二年前と変わっていなかった。片側の壁が一面引き出しになっており、窓際には机が一つあった。求める資料は壁の引き出しのどこかに入っているはずだ。
ロムは、人の姿に戻ったトールに話しかけた。
「あんまり覚えてないんだけど、名前順に並べられてたはずなんだ。トールはそっちからお願い。俺はこっちから調べるから」
言いながら、ロムは床を見た。ほこりがほとんど落ちていない。頻繁に人の出入りがある証拠だ。作業は迅速に行わなければならなかった。
だが、入居者情報は綺麗に分類されていて、すぐに目的のものは見つかった。
見つけたのは、トールの方だった。
「あったぞ……じゃが……」
「どうしたの? 何か問題?」
「何も書いておらぬ……」
トールが差し出した書類を見ると、ホークの入居前情報は空欄だった。入居に関してわかるのは、その日付だけだった。
後は、アイラスとレヴィが予定通りポスターを完成させてくれればいい。
ロムは午前中、またコナーに刀術を教え、昼食時に二人に進み具合を聞いてみた。
「大丈夫だヨ。レヴィの手、とってもはやいノ。やる事が少ない私の方が遅れてるくらい」
「アイラスも頑張ってるぞ。デザインもレイアウトも決まって、後は描き進めるだけだ。明日の午後には出来上がるだろ」
アドルと顔を見合わせ、つい頬が緩んでしまった。
「なんだ? 楽しそうだな?」
「えっ、うん。明日は久しぶりにトールと出かけるなと思って。ほら、ニーナの部屋にこもりきりで、あんまり一緒に居られないし」
「祭の時は散々出かけてただろ」
「祭って一週間前じゃん。子供にとって一週間は長いよ」
「わかったわかった」
追及されて焦ったけれど、怪しまれなかっただろうか。顔をうかがったけど、すでにアイラスと絵の話をしていて、こっちの事は気にしていないようだった。
「ロムもトール程じゃないけど、思ってることが顔に出ちゃうよね」
アドルがコソコソと話しかけてきた。アイラスにも同じ事を言われた。自覚がない事だから、なんとなくおもしろくない。
「なんだよ。別に、いいじゃん」
「悪いとは言ってないよ。可愛いなと思って」
思い切りむせてしまい、全員がロムの方を向いた。
「すみません……何でもないです……」
隣でアドルが笑いをこらえている。まるでホークに笑われているようだった。
彼が大人になると、ホークのように意地悪になるんじゃないかと思うと、不安しか感じなかった。
翌日の昼食前には、絵は完成していた。
「今、乾かしてるところだ。もう少し待ってくれ。そうだな……午後のお茶が終わってから、持って行ってくれ。薄暗くなっちまって悪いけどな」
レヴィは申し訳なさそうに言ったけれど、ロムにとっては好都合だった。今の時期、日没は4時半。暗い方が仕事がしやすい。
思わず仕事と考えてしまって、ロムは苦笑した。昔の仕事に比べたら警備はゆるいし、見つかっても殺されはしない。
「ロム?」
「ううん、何でもない。大丈夫。俺とトール、あとザラムも、暗くても平気だから」
「ああ、でも気をつけろよ」
「うん、わかってる」
午後のお茶の時間になり、リサが早朝に焼いてくれていたクッキーを食べ終わり、五人はすぐに出発した。
ニーナの館から出るまで、五人とも平静を装っていた。でも門を出てしまうと、誰からともなく笑い始め、最終的に全員で爆笑していた。
あのザラムですら、声を出して笑っていた。
みんな何も言わなかったけど、毎日守り守られ、気の抜けない生活に少し疲れ始めていたのかもしれない。
別に今、気を抜いているわけではない。
それでも、大人達を出し抜いて、子供だけで計画を立てて行動している事が、とても楽しかった。
いや、トールは子供のうちに入るのかな? まあ歳だけはくってるけど、彼の精神年齢はとても低いと思う。
見た目は子供だし、もう子供でいいや。口に出せば本人が怒りそうな事を考えながら、ロムは笑いが止まらなかった。
アイラスが、笑いすぎて出てきた涙を拭いていた。
「あーもー、ごめんネ。笑いごとじゃないのに。アドルにとっては大切な事なんだよネ」
「いいよ、僕も楽しいから。みんなと一緒なら、結果がどうであれ、僕……大丈夫だと思うから」
「そんなに大変な事なの?」
彼が話さないものだから、詳細は聞いていない。少し心配になってきた。
「うーん……どう、かな……僕が深く考えすぎなのかもしれないけど……」
言いよどんだアドルを気遣ってか、アイラスが話題を変えた。
「リンドも一緒に来れたらよかったのにネ」
「あやつは仕事が溜まっておるでな。もうしばらく休みはあるまい」
「毎日毎日、同じ部屋で仕事ばかりで、大変そうだネ」
「まあでも……毎日トールと一緒だから、意外と平気なんじゃないかな」
「なぜそうなるのじゃ?」
まだ気づいてないのかよと、内心突っ込んだ。アイラスもアドルも呆れていたが、何も言わなかった。トールとザラムだけ、意味がわからないという顔をしていた。
「それでも余裕ができたら、リンドも誘って出かけたいよネ。今回みたいな極秘任務じゃなくてネ」
アイラスの言葉に同意し、保護区への道を急いだ。
保護区について、打合せ通り二手に分かれた。
アドルとアイラスはポスターを届けにホークのところへ。残りの三人は資料室へ。
トールは目立たないよう猫の姿になっていた。当初、彼は来る予定ではなかったのだけど、アイラス達と連携を取りやすいので、来てもらってよかったと思う。
資料室のある建物には、玄関側に小部屋がある。常に人が居て、玄関を通る人を確認しているので、そこを通るわけにはいかなかった。
二年前は、建物東側のベランダに大きな木の枝が張り出していて、そこから入った。
普段来ないところなので、最近は確認したことがなかった。どうなってるか心配だったけど、前例があるのに木は撤去されていなかった。当時ホークに追及されて、あそこから入った事は白状したはずなのだけど。
セキュリティ的にどうなのと思わなくもないけど、あの木が無いと潜入の難易度が上がっていたのだから、今は感謝しておこう。
木を伝って建物に入り、資料室に向かった。
そこにかけられた鍵も二年前と同じで、ピッキングですぐ開けることができた。
外に見張りとしてザラムを残し、トールと共に資料室に入った。
中も二年前と変わっていなかった。片側の壁が一面引き出しになっており、窓際には机が一つあった。求める資料は壁の引き出しのどこかに入っているはずだ。
ロムは、人の姿に戻ったトールに話しかけた。
「あんまり覚えてないんだけど、名前順に並べられてたはずなんだ。トールはそっちからお願い。俺はこっちから調べるから」
言いながら、ロムは床を見た。ほこりがほとんど落ちていない。頻繁に人の出入りがある証拠だ。作業は迅速に行わなければならなかった。
だが、入居者情報は綺麗に分類されていて、すぐに目的のものは見つかった。
見つけたのは、トールの方だった。
「あったぞ……じゃが……」
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