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57話 包囲されたエニウス
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その日の朝、エニウス本部は異様な緊張感に包まれていた。
「危険な化学物質が拡散した恐れがある」とのニュースが報じられ、近隣住民が避難を強いられたのだ。勿論これはブラダーレリックと政府が手を組んで行った作戦であり戦場からの人払いであった。
エニウス本部ではアラートが鳴り響き、けたたましくアナウンスが流れていた。
「一斉放送!敵の襲撃に備えてください!敵の襲撃に備えてください!」
「ゲートを封鎖しろ!防壁も閉じて時間を稼ぐんだ!」
エニウスの警備隊長は現場を駆け回り、迫りくるブラダーレリックに対抗するため奮闘していた。
その頃、ブラダーレリックのメンバーはエニウス本部をビルの窓から見下ろし、各々の出番を待っていた。そこはエニウス本部から数百メートル離れた場所にある商用ビルの一角だ。
端末を見つめながら作戦を指示していたデネブの元へ熊のような大男が訪れた。男の名はドゥーベ。ブラダーレリックと付き合いの長い傭兵部隊の隊長だ。
「敵基地周辺の包囲が完了した。逃亡者がいれば部隊かドローンで追跡できる。他に指示は?」
「十分だ。すぐに突入を開始する。持ち場に戻ってくれ」
「イエッサー」
ドゥーベは不敵な笑みを浮かべてその場を去って行った。デネブは金払いが良いし嘘を言わない。有能な人材と潤沢な装備で事にあたれる美味しい取引相手なのだ。ドゥーベはこのビジネスを他の誰にも譲るものかと意気込み、今回も万全の態勢で挑んでいた。
「これより突入を開始する」
デネブの一言でその場にいたシャウラとエルナトに熱が入る。
「いよいよ始まるのね!面白くなってきたわ」
「暴れたくてうずうずしてしてきたぜ!」
二人はテーブルに置かれた端末を見つめ、突入の瞬間を見逃すまいとしていた。
そんな二人とは対照的にミアは押し黙ったまま下を向いている。彼女は力を溜めていたのだ。恥辱を味わい、力を失った苦い経験を乗り越えて、やっと自分を解放できる舞台が訪れた。デネブが望む以上の功績を上げて存在価値を見せつけたい。その為に彼女はこっそりとオナニーをしながら淫力を高めていた。
デネブが合図を送ると、エニウス本部の入口に向かって車が次々と押し寄せブラダーレリックの先行部隊が突入を開始した。彼らはデネブを心酔し、己の身を顧みる事無く戦う特攻隊だ。後に訪れるデネブのために道を切り開く。その使命に忠実に動いている。
強固に閉じられたエニウスのゲートや通路の防壁が工具や爆発物により次々と破壊されていく。
「このシャッターを破られたら俺たちが食い止めるんだ。気合い入れてかかれ!」
シャッターから飛び散る火花を前にエニウスの警備隊長が檄を飛ばす。だが、隊員たちの不安はぬぐいきれなかった。グレートマザー教団の襲撃を受けた際、ヴァルキュリヤの異能によって男性隊員の半数以上が女体化したままとなっていた。そのため、腕力で抑え込むという戦いかたは見直しを余儀なくされていた。隊員達は不慣れな身体のまま戦闘を行わざるを得なかったのだ。
「明くん、メインゲートが突破されそうになってる……」
モニターを眺めていた育美は不安そうに明の手を握った。
「まだ大丈夫だよ。出来るだけ力を温存しておこう。僕たちは見つからないように隠れたまま相手を倒していくんだ」
明は彼女の手をグッと握り返しながら、絶対に守ってみせると心に誓う。そして次の瞬間、二人が見守るモニターの向こうで戦闘が開始された。
火花が消えた後、バンッ!とシャッターを蹴破り、男が一人転がり込む。
「来たぞ!応戦だ!」
警備隊長の声で、敵の近くにいた隊員二名が駆け寄り、立ち上がろうとしていた男をスタンガンで攻撃する。男はうめき声を上げ体勢を崩し、前のめりに倒れた。
「次、来るぞ!」
破られたシャッターの隙間から、次々と男たちがなだれ込んでくる。エニウスの警備隊は催涙スプレーやスタンガンで応戦したが彼らはかまわず突進してきた。そう、ブラダーレリック先行部隊の戦い方は相打ち狙いだったのだ。
彼らはあらかじめ手首に掛けた手錠を振り回し、標的の手足と繋がる事で自らを重しとしたのだ。彼らは手錠を外す鍵を持たずにこれを実行していた。
結果としてメインゲートを守っていたエニウスの警備隊は一時間ともたず、身動きを封じられてしまった。
「くそっ!こいつらどうかしてやがる!」
両手両脚を手錠で繋がれ、悪態をつくことしかできなくなった警備隊長をまたぐようにして、ブラダーレリック先行部隊はエニウスのさらに内部へと侵攻していった。
「ミア、そろそろ出るぞ」
先行部隊の全てがエニウス本部に入り込んだのを見計らいデネブが立ちあがる。
「……は?はい!」
オナニーに没頭しすぎていたミアは反応が一呼吸遅れたものの、すぐに返事をして立ち上がった。
「わたしとミアで敵の司令部を性圧する。シャウラ、エルトナは捜索部隊と共にターゲットを追え」
「敵の異能者を見つけ出してナノマシンを注入。逆らえないようにする。でいいんだったよな?」
エルナトはわざとシャウラに確認する素振りを見せる。
「あんたね、それくらい覚えてるわよ。それより油断してやられたりしないでよね」
「敵の本拠地だろ。さすがに油断はないって」
大きな戦いに興奮し、じゃれ合っている二人を残したまま、デネブとミアはエニウス本部へと向かって行った。
「日下部司令、聞こえますか?」
「うむ、明くんじゃな」
「はい。状況はどうなっていますか?」
「全区画の三割程度が侵入されておる。モニターで見ている通り手錠でつながったまま抵抗しておってな。こちらの動ける人員も削られておるわい」
「僕たちはこれからどう動けばいいでしょう?」
「待機のままじゃよ。わしら異能者が狙われておるんじゃ。いずれ向こうから近付いてくる。それまでは待機じゃ」
「わかりました」
一緒に通信を聞いていた育美もこくりと頷いた。それからしばらく後、明は大きな淫力を持つ者の接近を感じ取る。それはエニウスに侵入してきたデネブの気配だった。
明と育美がメインゲートのモニターを見ていると、白い手袋をはめた軍服姿の男と少女が入ってくるのが映った。
「明くん、あの女の子」
「うん、知ってる顔だね。それと一緒に居る男。かなり強い力を持ってる」
画面越しでさえも伝わってくるデネブの存在感に二人は緊張を覚える。
「大丈夫……だよね?」
「相手の異能者はまだ二人。こっちには日下部司令や金城博士、他にも戦える人がいるって聞いてるし、きっと何とかなるよ。頑張ろう!」
不安に飲み込まれそうになる育美を勇気づけながら、明は自分自身にも同じことを言い聞かせようとしていた。デネブの淫力はまるで冷たいヘビが足元から這い上がってくるかの様な恐怖をはらんでいた。明にはモニターに映る彼の瞳がすでに自分たちを捉えているのではと思えてならなかった。
「危険な化学物質が拡散した恐れがある」とのニュースが報じられ、近隣住民が避難を強いられたのだ。勿論これはブラダーレリックと政府が手を組んで行った作戦であり戦場からの人払いであった。
エニウス本部ではアラートが鳴り響き、けたたましくアナウンスが流れていた。
「一斉放送!敵の襲撃に備えてください!敵の襲撃に備えてください!」
「ゲートを封鎖しろ!防壁も閉じて時間を稼ぐんだ!」
エニウスの警備隊長は現場を駆け回り、迫りくるブラダーレリックに対抗するため奮闘していた。
その頃、ブラダーレリックのメンバーはエニウス本部をビルの窓から見下ろし、各々の出番を待っていた。そこはエニウス本部から数百メートル離れた場所にある商用ビルの一角だ。
端末を見つめながら作戦を指示していたデネブの元へ熊のような大男が訪れた。男の名はドゥーベ。ブラダーレリックと付き合いの長い傭兵部隊の隊長だ。
「敵基地周辺の包囲が完了した。逃亡者がいれば部隊かドローンで追跡できる。他に指示は?」
「十分だ。すぐに突入を開始する。持ち場に戻ってくれ」
「イエッサー」
ドゥーベは不敵な笑みを浮かべてその場を去って行った。デネブは金払いが良いし嘘を言わない。有能な人材と潤沢な装備で事にあたれる美味しい取引相手なのだ。ドゥーベはこのビジネスを他の誰にも譲るものかと意気込み、今回も万全の態勢で挑んでいた。
「これより突入を開始する」
デネブの一言でその場にいたシャウラとエルナトに熱が入る。
「いよいよ始まるのね!面白くなってきたわ」
「暴れたくてうずうずしてしてきたぜ!」
二人はテーブルに置かれた端末を見つめ、突入の瞬間を見逃すまいとしていた。
そんな二人とは対照的にミアは押し黙ったまま下を向いている。彼女は力を溜めていたのだ。恥辱を味わい、力を失った苦い経験を乗り越えて、やっと自分を解放できる舞台が訪れた。デネブが望む以上の功績を上げて存在価値を見せつけたい。その為に彼女はこっそりとオナニーをしながら淫力を高めていた。
デネブが合図を送ると、エニウス本部の入口に向かって車が次々と押し寄せブラダーレリックの先行部隊が突入を開始した。彼らはデネブを心酔し、己の身を顧みる事無く戦う特攻隊だ。後に訪れるデネブのために道を切り開く。その使命に忠実に動いている。
強固に閉じられたエニウスのゲートや通路の防壁が工具や爆発物により次々と破壊されていく。
「このシャッターを破られたら俺たちが食い止めるんだ。気合い入れてかかれ!」
シャッターから飛び散る火花を前にエニウスの警備隊長が檄を飛ばす。だが、隊員たちの不安はぬぐいきれなかった。グレートマザー教団の襲撃を受けた際、ヴァルキュリヤの異能によって男性隊員の半数以上が女体化したままとなっていた。そのため、腕力で抑え込むという戦いかたは見直しを余儀なくされていた。隊員達は不慣れな身体のまま戦闘を行わざるを得なかったのだ。
「明くん、メインゲートが突破されそうになってる……」
モニターを眺めていた育美は不安そうに明の手を握った。
「まだ大丈夫だよ。出来るだけ力を温存しておこう。僕たちは見つからないように隠れたまま相手を倒していくんだ」
明は彼女の手をグッと握り返しながら、絶対に守ってみせると心に誓う。そして次の瞬間、二人が見守るモニターの向こうで戦闘が開始された。
火花が消えた後、バンッ!とシャッターを蹴破り、男が一人転がり込む。
「来たぞ!応戦だ!」
警備隊長の声で、敵の近くにいた隊員二名が駆け寄り、立ち上がろうとしていた男をスタンガンで攻撃する。男はうめき声を上げ体勢を崩し、前のめりに倒れた。
「次、来るぞ!」
破られたシャッターの隙間から、次々と男たちがなだれ込んでくる。エニウスの警備隊は催涙スプレーやスタンガンで応戦したが彼らはかまわず突進してきた。そう、ブラダーレリック先行部隊の戦い方は相打ち狙いだったのだ。
彼らはあらかじめ手首に掛けた手錠を振り回し、標的の手足と繋がる事で自らを重しとしたのだ。彼らは手錠を外す鍵を持たずにこれを実行していた。
結果としてメインゲートを守っていたエニウスの警備隊は一時間ともたず、身動きを封じられてしまった。
「くそっ!こいつらどうかしてやがる!」
両手両脚を手錠で繋がれ、悪態をつくことしかできなくなった警備隊長をまたぐようにして、ブラダーレリック先行部隊はエニウスのさらに内部へと侵攻していった。
「ミア、そろそろ出るぞ」
先行部隊の全てがエニウス本部に入り込んだのを見計らいデネブが立ちあがる。
「……は?はい!」
オナニーに没頭しすぎていたミアは反応が一呼吸遅れたものの、すぐに返事をして立ち上がった。
「わたしとミアで敵の司令部を性圧する。シャウラ、エルトナは捜索部隊と共にターゲットを追え」
「敵の異能者を見つけ出してナノマシンを注入。逆らえないようにする。でいいんだったよな?」
エルナトはわざとシャウラに確認する素振りを見せる。
「あんたね、それくらい覚えてるわよ。それより油断してやられたりしないでよね」
「敵の本拠地だろ。さすがに油断はないって」
大きな戦いに興奮し、じゃれ合っている二人を残したまま、デネブとミアはエニウス本部へと向かって行った。
「日下部司令、聞こえますか?」
「うむ、明くんじゃな」
「はい。状況はどうなっていますか?」
「全区画の三割程度が侵入されておる。モニターで見ている通り手錠でつながったまま抵抗しておってな。こちらの動ける人員も削られておるわい」
「僕たちはこれからどう動けばいいでしょう?」
「待機のままじゃよ。わしら異能者が狙われておるんじゃ。いずれ向こうから近付いてくる。それまでは待機じゃ」
「わかりました」
一緒に通信を聞いていた育美もこくりと頷いた。それからしばらく後、明は大きな淫力を持つ者の接近を感じ取る。それはエニウスに侵入してきたデネブの気配だった。
明と育美がメインゲートのモニターを見ていると、白い手袋をはめた軍服姿の男と少女が入ってくるのが映った。
「明くん、あの女の子」
「うん、知ってる顔だね。それと一緒に居る男。かなり強い力を持ってる」
画面越しでさえも伝わってくるデネブの存在感に二人は緊張を覚える。
「大丈夫……だよね?」
「相手の異能者はまだ二人。こっちには日下部司令や金城博士、他にも戦える人がいるって聞いてるし、きっと何とかなるよ。頑張ろう!」
不安に飲み込まれそうになる育美を勇気づけながら、明は自分自身にも同じことを言い聞かせようとしていた。デネブの淫力はまるで冷たいヘビが足元から這い上がってくるかの様な恐怖をはらんでいた。明にはモニターに映る彼の瞳がすでに自分たちを捉えているのではと思えてならなかった。
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