スル気はないけどスキなんです

ricky

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 本馬くんのお祖父さんとお祖母さんは元々こっちで本馬くんと暮らしてて、お祖母さんは愛理あいりさんのお母さんの臨月からずっと愛理あいりさんと暮らしてる。

 お祖父さんはお店の定休日である水曜日に弟くんの遊び相手になりに行っている。今週は特別に土曜日も行くから、その車に私も乗せてもらうことになった。
 お店は青木くんが助っ人に入る。筋肉を育てるために料理を始めたのに、今はそっちの方が本業になってる。ぶっちゃけ本馬くんよりずっとうまい。

 お祖父さんはイタリアで修業していたせいかメッチャ紳士。家まで迎えに来てくれて後部座席のドアを開けてくれた。

 後部座席なのは私がうるさいから隣は嫌なのかと思ったら、挨拶するために一緒に外で待ってたお母さんが感動した。

「そんなレディ扱いしなくても~」
 そういえばこんな場面を本で読んだ。押し倒さないから安心してねって意味で助手席じゃなく後ろに座らせるの。

 私の声がお祖父さんに聞こえるのは当たり前として、運転席で前を見て話すお祖父さんの声がよく聞こえるのは意外。特別大きくはないけどなんて言ってるかはっきり分かる。

「一族みんな優雅ですよね。普通に考えたら利章としあきくんが普通なのに、やたら元気な気がしてきます」

 お祖父さんが優雅に笑う。
「ものは言いようだね。うちは引っ込み思案のマイペースが多いんだよ。利章としあきも高校生くらいって目で見れば普通かな?
 愛理あいりは特に内気だから、安達さんみたいな元気な子が引っ張ってくれるとありがたいよ」

「お父さんには逆を言われました。『愛理あいりさんの落ち着きを分けてもらいなさい』って」
 つまり私は落ち着きが足りないと言われてるって話をしてるのに、愛理あいりさんの家に着くまで私は喋りっぱなしだった。これも車を降りてから気付くんだよね。この話をした時点で自分を戒めるべきだったのに。

 愛理あいりさんの家の中から出迎えてくれたお祖母さんはお祖父さんとハグをした。自然な流れの短くソフトなハグ。えちえちなことは何もしてないのにラブラブな空気に満ちている。
 私も愛理あいりさんをこんな風にしたいけど私の方が小っちゃいんだよね。

 お祖父さんと利章としあきくんは掃除、お祖母さんと二女の花織ちゃんで双子の世話、愛理あいりさんと私で洗濯と料理をするって分担になった。

 まずは洗濯機を回してから双子のミルク作り。哺乳瓶を振る安定感がやっぱりインナーマッスル結構あるよねって改めて思う。温度を確かめる肌のキメ細かさと柔らかさとのギャップがたまらん。
 温度を確かめる手つきは慣れてるのに表情はいい加減じゃなくて、双子への愛情を感じる。

 ただ赤ちゃん部屋へ持ってくんじゃなくて、お祖母さんと花織ちゃんへの飲み物も持ってって、まだ園児なのにお姉ちゃんしてる花織ちゃんをちょっとの間妹モードにしてあげてから部屋を出る。

 愛理あいりさんは『理想のお姉さん総選挙』があったとしたらかなり上位に入ると思う。それなのにお姉さんらしい場面を見るほどに、私は妹になりたいじゃなく妹のように甘える愛理あいりさんを見たいって気持ちの方がなぜか大きくなっていく。

 次はお昼の準備。台所でも効率よく、かつ思いやりをもって動く愛理あいりさん。
「『愛理あいりさんの落ち着きを分けてもらってきなさい』ってお父さんに言われたんだけど、ムリっぽい」

 凄すぎるって憧れから出た言葉に愛理あいりさんは苦笑いした。
「まるでおばさんでしょ?
 大所帯だとどうしてもね。この見た目だし」

「見た目?」
 推定160センチ。ぱっと見の体重は55キロくらいだけど筋肉量を考えると60はあるかな?

 愛理あいりさんが続ける。
「せめて体重は大雅たいがより軽くなりたいとも思うけど、60ちょっとある時が一番調子良くて」
 愛理あいりさんが自分の頬に手を添えた。

 そっか。ハーフで女顔、180センチ60キロの本馬くんと2歳違いの従姉いとこだもんね。同じ血筋として比べられたら辛いよね。

「でも私、本馬くんの隣にいるとメッチャ緊張する時もあったけど今は慣れてなんとも思わないし、愛理あいりさんを見てる方がドキドキする。
 笑顔を向けられると嬉しくなるし、今の顔見てるとハグしたくなるし、私の突進も受け止めてくれそうな体幹の良さも好き」

 やば。言葉にしたら具体的な妄想が頭の中で始まってしまった。一気に勝手に体温が上がる。
「深刻に悩んでるところ申し訳ないのですが、いま私は愛理あいりさんの両手首を掴んで壁ドンしたい衝動にかられております。優しく抱きしめたいというキュンキュンした気持ちと、私の好きな人をたとえ本人でもかわいくないみたいに言われるのは真っ向から否定したいというか、腹立たしいというか、二つの気持ちが同時にあってどうしたらいいのか分かりません」

 そこまで一息に言って気付いた。好き?そうだ。私って愛理あいりさんのこと好きなんだ。しかもどうしたらいいのか分からないとか言っといて、とっくに妄想通り壁ドンしてる。
 私に手首をゆだねながらも丹田たんでんにしれっと力が入っていていつでもどうとでも動けそうな愛理あいりさんはやっぱり凄い。

 そんなことをやってのけながらも戸惑っているようなかわいい表情に愛しさが増して興奮するけど頑張って愛理あいりさんの言葉を待つ。
「す、好き?
 好きって‥‥‥」
「シたいとは思ってないけど他には色々妄想してます」
「……妄想って、どんな?」

「砂糖やミルクの量まで把握してコーヒーを作り合えたり、後ろに立ってじゃなくて正面から両腕を首に回して髪をほどいたりかし合ったり、リップ塗り合ったり、お互いの家にお互いのお泊りセットがあったり、一緒に買い物行った時に相手の家のなのに『シャンプーそろそろ買っとく?』なんて言えちゃったり。
 なので、あの、男と付き合いたいとか付き合ってるならするでしょっていうのが普通なのは承知しているので、そうでなくても私みたいな落ち着きのないのはゴメンならばこの手を振り払って下さい」

 愛理あいりさんはポカンとした顔のあとで少し拗ねてるみたいに言った。
「私も、元気な小夏ちゃんが好きなのに『落ち着きが無い』なんて言い方をされるのは嫌だな」

 それから少し恥ずかしそうな、照れてるような表情になってソワソワした空気になる。
「あとね、私も妄想してたよ。小夏ちゃんが私を『愛理あいり』って呼ぶのを。
 恋人には名前を呼び捨てにされたいって思ってたから」

 それって、つまり……。
「恋人認定!!!」
 愛理あいりさんは突進した私をものともせずにそっと壁から背中を離した。手首から手を離さなくていいよって空気で腕を下ろして壁と背中の隙間に入れて私が愛理あいりさんを抱きしめてる体勢になる。そこで初めて手をほどく動きをされて、お互いの両手同士で恋人つなぎをした。
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