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悲しい事
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局内の喫煙所に入ろうとしたら入口のところで白部くんを見た。
床に落ちて散らばったプリントを拾い上げている、と思ったら小高プロデューサーが俺の前にいた。
「ひろこちゃん、元気ですか?」
小高は俺にニッコリ笑って言った。黒縁メガネから覗く作り笑いには何かをたくらんでいるのだろういやらしさが見える。
「元気ですよ」
うんうんと笑って相槌を打つ。
「遊井さん、うちの番組にひろこちゃん使わせてくださいよ」
一度断ったのに覚えているのかいないのか。覚えているけど言っている、のが正しいのか。
ひとまず外面で丁寧に挨拶をして俺は喫煙所に入ってタバコに火をつけた。すると白部くんが書類を抱いて入って来た。
新幹線で一度話した手前、白部くんも俺の顔を見て会釈した。
「タバコ、いる?」
「今日は持ってます」
そう言うと白部くんはタバコに火をつけた。
寝てないのだろう。目の下にはくっきりとクマがある。お風呂にも入れてないのだろうか。髪はボサボサだった。
なんだかかわいそうになってきて、俺はひろこの特集された女性誌を鞄から出して差し上げようとした。
「遊井さん、持ってます」
前回に引き続き俺はごめんごめんと笑った。
「白部くん今度飲もうよ」
俺は忙しいだろう彼に必然と誘っていた。
忙しそうな割には今日の22時には会社の近くなら飲めると言ったので秋元さんとよく行く六本木ヒルズ目の前の中国居酒屋へ誘った。
「転職、しようと思った事遊井さんはありますか?」
やっぱり。
白部くんは追い込まれているんだ。
昼間の床に落ちたプリントを拾わされていたであろうあの姿でなんとなく気付いていた。
「ないよ。全然」
「え!すごい。」
「白部くんはあるの?」
「毎日思ってますよ」
制作会社。夢を持って入社したにしても給料は安いだろう。雑用も任されひどいプロデューサーにあたればこき使われ。
それはあんな小高の下にいればなおさらだろう。
「俺も、ディレクター歴は長いので作りたいものはあるんですよ。あるんです。それをどう世に出せるか、それがまたハードルですよね。」
「白部くん。もう今は耐えて小高さんが異動するの待ったら?そしたらまたいろんなものが見えてくると思うよ」
「まぁ、異動はつきものですからね。」
白部くんは童顔のかわいらしい顔に似合わずSOULと同じくらい酒のピッチが早かった。
「遊井さんの仕事でゴールってどこですか?」
なかなか鋭い質問に俺は白部くんを見て答えた。
「自分のマネジメントしてる子を世に送り出して売れっ子にさせる事」
「あ、ひろこちゃん?もうすぐブレイクしそうですけどね」
白部くんは店員を呼んで既に3杯目を頼んでいた。
「じゃあ逆に悲しい事ってなんですか?結婚?引退?」
白部くんは絶対賢い。
ついてほしくないところを言う。
「結婚も引退も悲しいけど、親じゃないのに親にならなきゃいけない事」
「なんで?いいじゃないですか。ひろこちゃんの親的立ち位置なんてサイコーじゃないですか」
「人を扱う仕事だからさ。ひろこなんて俺がスカウトしてきた子だから余計思い入れもあって。親より親になっちゃうよ」
「悲しいですか?」
「悲しいよ。だって結婚したら泣くのは本当の親の方でしょ。実の親にはなれないんだから」
俺がひろこに思い入れがあるからそう思うだけだけど、ひろこと俺の関係はもしかしたら1番儚いのかもしれない。
親でも彼氏でもない。
ただの仕事上のうるさいおじさん。
でも開き直って考えるともうそれでよしとしている自分がいる。
「なんか暗くなっちゃったね。ごめんね。白部くんどんな番組作りたいの?教えてよ」
「自分はバラエティ志望なんですけど、なんて言うのかな。緩い笑いが好きなんです。芸人が好きって訳でもないんですけど。でもそうゆうのはもう深夜しかできませんけどね。」
目を落としてほろ酔い気味の白部くんは下を向いた。
翌日、事務所に俺宛でアートライズからの封書が届いた。
裏を見たらサインのごとく達筆な筆跡で「あきもと」と平仮名で書いてあった。
中を開けるとSOULのツアーの埼玉アリーナのチケットだった。しかもアリーナ前列10席目。
SOULのライブに行ける!
俺は目が輝いたけど日付は広瀬七海のイベントで行けなかった。
「返品も大変なので、遊井さんのお友達に差し上げてください。また送りますよ」
秋元さんがそう言うので俺は誰かにあげようと考えていたらふと、白部くんにあげたくなって携帯に連絡をした。
白部くんは予想外に喜んだ。
「行きます行きます!仕事、休んでも行きます!」
「きっと、白部くんSOULのファンになるよ。カッコいいんだから」
俺が念を押すと白部くんはあ、となった。
「ひろこちゃん、SOULのHARUさんと付き合ってるってウワサありますよね。本当ですか?」
「・・・」
俺は思いっきり濁して電話を切ったと思う。
分かってはいたがネット上の掲示板に『SOULのHARUと安藤ひろこはつきあっている』というスレッドが立った。
同じ時期に2人で日焼けをしている。ハワイで2人を見た。つけてる時計がお揃い。
ひろこが雑誌上で好きな人のタイプは?の答えに「好きになった人がタイプ」と答えたと思ったら春くんもラジオで好きになった人がタイプですと意気揚々と言う。
これで決定づけられたらしい。
大阪で初共演した時の春くんが執拗にひろこを目で追う動画もアップされていた。
「コアなファンはもう2人の事も知ってますからね」
秋元さんも俺には言っていた。
床に落ちて散らばったプリントを拾い上げている、と思ったら小高プロデューサーが俺の前にいた。
「ひろこちゃん、元気ですか?」
小高は俺にニッコリ笑って言った。黒縁メガネから覗く作り笑いには何かをたくらんでいるのだろういやらしさが見える。
「元気ですよ」
うんうんと笑って相槌を打つ。
「遊井さん、うちの番組にひろこちゃん使わせてくださいよ」
一度断ったのに覚えているのかいないのか。覚えているけど言っている、のが正しいのか。
ひとまず外面で丁寧に挨拶をして俺は喫煙所に入ってタバコに火をつけた。すると白部くんが書類を抱いて入って来た。
新幹線で一度話した手前、白部くんも俺の顔を見て会釈した。
「タバコ、いる?」
「今日は持ってます」
そう言うと白部くんはタバコに火をつけた。
寝てないのだろう。目の下にはくっきりとクマがある。お風呂にも入れてないのだろうか。髪はボサボサだった。
なんだかかわいそうになってきて、俺はひろこの特集された女性誌を鞄から出して差し上げようとした。
「遊井さん、持ってます」
前回に引き続き俺はごめんごめんと笑った。
「白部くん今度飲もうよ」
俺は忙しいだろう彼に必然と誘っていた。
忙しそうな割には今日の22時には会社の近くなら飲めると言ったので秋元さんとよく行く六本木ヒルズ目の前の中国居酒屋へ誘った。
「転職、しようと思った事遊井さんはありますか?」
やっぱり。
白部くんは追い込まれているんだ。
昼間の床に落ちたプリントを拾わされていたであろうあの姿でなんとなく気付いていた。
「ないよ。全然」
「え!すごい。」
「白部くんはあるの?」
「毎日思ってますよ」
制作会社。夢を持って入社したにしても給料は安いだろう。雑用も任されひどいプロデューサーにあたればこき使われ。
それはあんな小高の下にいればなおさらだろう。
「俺も、ディレクター歴は長いので作りたいものはあるんですよ。あるんです。それをどう世に出せるか、それがまたハードルですよね。」
「白部くん。もう今は耐えて小高さんが異動するの待ったら?そしたらまたいろんなものが見えてくると思うよ」
「まぁ、異動はつきものですからね。」
白部くんは童顔のかわいらしい顔に似合わずSOULと同じくらい酒のピッチが早かった。
「遊井さんの仕事でゴールってどこですか?」
なかなか鋭い質問に俺は白部くんを見て答えた。
「自分のマネジメントしてる子を世に送り出して売れっ子にさせる事」
「あ、ひろこちゃん?もうすぐブレイクしそうですけどね」
白部くんは店員を呼んで既に3杯目を頼んでいた。
「じゃあ逆に悲しい事ってなんですか?結婚?引退?」
白部くんは絶対賢い。
ついてほしくないところを言う。
「結婚も引退も悲しいけど、親じゃないのに親にならなきゃいけない事」
「なんで?いいじゃないですか。ひろこちゃんの親的立ち位置なんてサイコーじゃないですか」
「人を扱う仕事だからさ。ひろこなんて俺がスカウトしてきた子だから余計思い入れもあって。親より親になっちゃうよ」
「悲しいですか?」
「悲しいよ。だって結婚したら泣くのは本当の親の方でしょ。実の親にはなれないんだから」
俺がひろこに思い入れがあるからそう思うだけだけど、ひろこと俺の関係はもしかしたら1番儚いのかもしれない。
親でも彼氏でもない。
ただの仕事上のうるさいおじさん。
でも開き直って考えるともうそれでよしとしている自分がいる。
「なんか暗くなっちゃったね。ごめんね。白部くんどんな番組作りたいの?教えてよ」
「自分はバラエティ志望なんですけど、なんて言うのかな。緩い笑いが好きなんです。芸人が好きって訳でもないんですけど。でもそうゆうのはもう深夜しかできませんけどね。」
目を落としてほろ酔い気味の白部くんは下を向いた。
翌日、事務所に俺宛でアートライズからの封書が届いた。
裏を見たらサインのごとく達筆な筆跡で「あきもと」と平仮名で書いてあった。
中を開けるとSOULのツアーの埼玉アリーナのチケットだった。しかもアリーナ前列10席目。
SOULのライブに行ける!
俺は目が輝いたけど日付は広瀬七海のイベントで行けなかった。
「返品も大変なので、遊井さんのお友達に差し上げてください。また送りますよ」
秋元さんがそう言うので俺は誰かにあげようと考えていたらふと、白部くんにあげたくなって携帯に連絡をした。
白部くんは予想外に喜んだ。
「行きます行きます!仕事、休んでも行きます!」
「きっと、白部くんSOULのファンになるよ。カッコいいんだから」
俺が念を押すと白部くんはあ、となった。
「ひろこちゃん、SOULのHARUさんと付き合ってるってウワサありますよね。本当ですか?」
「・・・」
俺は思いっきり濁して電話を切ったと思う。
分かってはいたがネット上の掲示板に『SOULのHARUと安藤ひろこはつきあっている』というスレッドが立った。
同じ時期に2人で日焼けをしている。ハワイで2人を見た。つけてる時計がお揃い。
ひろこが雑誌上で好きな人のタイプは?の答えに「好きになった人がタイプ」と答えたと思ったら春くんもラジオで好きになった人がタイプですと意気揚々と言う。
これで決定づけられたらしい。
大阪で初共演した時の春くんが執拗にひろこを目で追う動画もアップされていた。
「コアなファンはもう2人の事も知ってますからね」
秋元さんも俺には言っていた。
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