友達の彼女

みのりみの

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結婚

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「4日が事務所に新年の挨拶。その後関係者挨拶まわり。春はラジオの収録。優希が雑誌の取材。5日から新曲のレコーディング入るけど中抜けして聖司がひろこちゃんの番組収録、ここまで大丈夫ですか?あと、女性誌の取材が入るんで、」

正月はまだ3日。
聖司のマネージャー、澤本沢村2人に確認され聖司は快くOKを出していた。昨日に新潟を出て、スタジオに一度集まってまたこれからのハードなレコーディングに追われる前に軽く打合わせをした。

「おつかれ!」

アッキーに連れられて春が現れた。

「のんびりできたか?まだ誘拐中?」

俺が言うとキャップごしに笑顔でうなずいた。
きっとひろこは家に帰らせず春のマンションにいるのだろう。
正月だしこんな2人でのんびりできるいい機会はない。

「春お土産ー!人質のひろにもあげてよ」

優希がみんなで買って来たお土産を紙袋に詰めて春に渡した。

「ひろこちゃんの番組、俺と大ちゃんで特番の収録10日に行ってくるよ」
ソファーにどさっと座り聖司は笑って言った。


「明日、人質は奥さんになります」


その場にいた全員の動きが止まった。

「結婚?結婚すんのかよ?ひろこちゃんだぞ?」

「ひろ、春の奥さんになるの?」

「ひろこは?!事務所は?!」

「子供か?!子供ができたのか?!」

みんな次々と春に質問責めをしたが終始春はキャップの隙間から見える顔は笑顔だった。
しばらく信じられなくて、みんななかなか笑顔にならなかった。
何がどうなって結婚できるようになったのかさっぱり分からず俺も頭が真っ白になった。

「おめでとう。春」

聖司の一言で急に現実味がわいてきて、みんなで拍手をした。俺も拍手したけど、まだ信じられなかった。

「宴だ宴だ!」

そのまま宴だと大騒ぎでスタジオでビールを開けた。

「春おめでとう!明日入籍!」

「事務所は明日からだから、社長には明日朝一に自分から言うから。ひろことも約束したんだ。10時ぴったりに報告。」

「会見するのか?」

「それがひろこ、欲がなくてさ。春のイメージがつくから会見はしなくていい。FAXだけでって。結婚式もしなくていいって言うんだよ」

「それ、普通の女にしちゃずいぶん欲ないな。会見で指輪見せたりとか普通したいもんじゃないの?」

「まだ22なんだから夢見たっていいのにな。」

世間は売れっ子バンドのボーカルとアイドルまがいのタレント22歳。それはチャラい目で見るだろう。
俺はショック受ける云々の前にとにかく驚いた。分かってはいたけど、まさかこんなに急にくるとは思わなかった。

「相談もなく、突然ごめん。」

春は申し訳なさそうに少し下を向いて頭をさげた。

「そんな、気にするなよ。」
「おめでたい話だぞ。」
「今日から旦那って呼ばなきゃな!」

聖司も優希もマネージャー達も笑顔だった。でも春はやっぱり申し訳なさそうにしてたけど、顔をあげるとみんなの顔を見ていた。

「バッシングとかも覚悟してる。ファン離れも覚悟してる。けどそんな俺の結婚でファンが離れていくほどヤワな音楽をやってる訳じゃないよ。聖司の曲は人の心を掴める。ケンのギターには技術がある。優希のベースはセンスがある。俺もひろこも悪い事なんてしていない。ひろこが好きだから誰にも取られたくないから2人でいたいんだよ」

春の言葉に涙がでそうになった。

「ずっと、2人でいたいんだ」

春のキャップ越しの目は真剣だった。

そうなんだ。俺達なんてずっと一緒に音楽を作ってきて、世に送り出した曲にはどれもこれも魂を込めてリリースしてきた。手を抜いた事なんて一度たりともない。
真面目に音楽と向き合ってきたからだ。趣味から発展した仕事だけど俺達は音楽で繋がっている。
音楽と真剣に向き合い楽しんできたひとつの気持ちだけで続けてきたんだ。ブレるはずはない。絶対にないんだ。

春とひろこもそうだ。春が一目惚れしてひろこと付き合い、一度ひろこを手放した春はひろこの必要性を思い知ったんだ。ひろこもひろこで春が必要だと分かったから泣いた。ふたりは悪い事なんかしていない。必要なもの同士ふたりで生きていくんだ。 


「俺、今日これで早退します」

山ちゃんは青白い顔で帰って行った。

「明日、報道されたら世の男たちは生きる気力なくなるかもな」

春の独身最終日という事で場所を変えて聖司の家に異動した。そこで新曲の音をなんとなく鳴らしながら4人だけで飲んだ。

まさに4人だけで飲むのは数年ぶりだった事に気づいたけど、今は4人がなんだか心地よかった。

「知ってる?ひろこちゃんって深夜番組の女王って言われてんの。」

「そうなの?」

春はビールを飲みながら聞き返した。

「人気に拍車がかかっても未だ昼間やゴールデン帯にはでてこない。深夜の世の男が疲れを癒す時間に現れる食後のアイスクリームみたいなんだと。週刊誌に書いてあった」

「そおなんだ。遊井さんの戦略かな?」

春は聖司の言葉にクスクスと笑った。

「ひろこは今日は春の家か?」

「今日は地元の新年会なんだって。今日の昼間にうちに引っ越しは済んだよ。だから今朝5時起き」

やる事が早すぎる。

俺らは春のスピードについていけなかった。1日でも早くひろこを繋ぎ止めたい、そんな気持ちが分かった。

「独身最後かぁ。ひろこ本当に新年会か?」

「女って独身最後の日、昔好きだった男と会うとかいわない?春ーこわいな!今日ひろこちゃん帰ってくんのかよ!」

「今日から俺の家でふたりの生活のスタートなんだ。初日だから帰ってくるよ」

俺らで春を焦らせてみたけど、春は笑顔のままだった。その笑顔はどこか余裕があった。すると春が左右にキョロキョロとしだした。

「ケンの、じゃなくて聖司のギターちょっといい?」

聖司からギターを受け取って少し音を出した。

「聞く?」

春が作ってきた曲、というのにものすごく興味があった。
デビュー前、まだインディーズの頃に1曲だけ作ってきたけどメロディに無理矢理思ってもない歌詞を取り付けたような曲で世に出る事もなく早々と聖司と優希に却下されたものだった。
だから春が自らギターを持って披露してくれるなんて思いもよらなかったからだ。

俺も聖司も優希も、春のギターの前で聴く体勢を整えたのが分かった。

「イルカの歌。カッコ仮ね。」

豪快に弾き出すと、春の気持ちそのものの歌詞が生きていた。

「結婚 結婚 したいな 絶対 結婚 結婚 するよね 絶対 結婚 絶対 」

俺は自然とリズムに乗っていた。すごく集中していたと思う。
春の作ってきた曲は、本当に春そのものだった。

「僕のすべて 君にあげる 永遠の愛を誓ってくれるなら この枯れ果てた声でずっと歌いつづけるから」

ひろこの事を想って作った曲だった。多分、春はこの曲に自分の想いをぶつけていたんだと思う。
それがひしひしと伝わってきて、無駄にしたくないと思った。

終わると、たくさんやりたい事ばかりで俺は拍手を忘れた。でも聖司も優希も拍手もせず考えた顔をしていた。

俺達の仕事であり趣味なんだ。

「これ、EDM感合わさると良さげじゃない?やってみるか」
「任せて任せて。こうでしょ。」
「ケン、ちょっとキーあげてみて。」
「ちょっとぶっとんでるかんじは?」

春の曲で酒を飲みながら、俺たちはこの曲に真剣に音を合わせた。











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