彼に囲われるまでの一部始終

七咲陸

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士郎×雪夜

おまけ③

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  士郎の母であり、僕の義母でもある玲香に、『雪夜さん。今、お家?テレビつけられるかしら?』と電話があった。

  一体なんだろうと思い、玲香の言う通りテレビをつけてみると突然夫が出てきた。

「えっ、士郎さん?」
『そうなの。最近はみんな健康志向でしょう? だから医療系のテレビが多くて。心臓外科医としてあの子が特集されたのよ』
「僕、全然聞いてないです……」

  今朝も士郎は普通に出勤して行った。その時に僕は何も言われてない。このテレビは生放送じゃなくて収録のようだし、僕に言うタイミングはいつでもあったはずなのに。

『恥ずかしかったのね。本当は、私も士郎さんに口止めされてるの…でも、私も夫も、親族みんな知ってるのになんだか雪夜さんだけ除け者にしてるみたいで嫌だったから』

  もう家族なんだから、除け者は良くないわ。という玲香に目頭がジンとする。

  玲香とはあの一件以降、良好な関係を築いている。誰かの話を聞くのは苦ではないし、女の子の友達が多いせいか、ショッピングもカフェへのお出掛けも楽しい。
  玲香は「……あの子は全然、こういうの好きじゃなかったわ。雪夜さんが息子になってくれて本当に嬉しいし、凄く楽しい。今度また美味しそうなカフェを探しておきます」と士郎を思い出して溜息をつき、僕にそう言ってくれた。息子と色んなところにお出かけしたかった夢を、僕に叶えてもらって心の底から嬉しいらしい。

「教えて下さってありがとうございます。士郎さんには内緒ですね」
『別にいいわ、私がバラしたって伝えても。どうせ会いにこないんだもの。会わない人間から何言われたって怖くありませんから』

  士郎はあれ以降、本当に玲香と会っていない。最初の内は玲香も「士郎さんに会って謝りたい」と取り次ぎを僕に頼んできたが、頑固で根に持つタイプだった士郎は未だに玲香を許しておらず、謝られても腹が立つだけだ、の一点張りである。

  玲香の言葉に苦笑した。この件の渦中である僕はもう気にしていないのだから、早く仲直りして欲しいなぁ、なんて思う。

『少し長い内容だから、ゆっくり見て頂戴』
「はい、ありがとうございます」

  そう言って電話を切って、テレビを見る。

  手術中の士郎はなんか青い服に覆われてよく分からないけれど、真剣そのものだ。どうやら凄い手術をしているらしく、ナレーションや映像で時たま手術の解説が入る。
  士郎が凄い人だという事は知っていた。雑誌の取材や学会、本の出版依頼までくるのだ。

  それだけではない、親族からも罵りと一緒に言われた。

「貴方が士郎の恋人? 本当に男だとはな。本家のお坊っちゃんにも困ったものだ」
「ほんとほんと。信じられない。女性ならまだしも、男なんて」
「君職業は?……は?最近までバイト?何考えてんだ士郎。フリーターだったやつと付き合って養子縁組だなんて」
「士郎は医者としての才能が俺たちの中で一番あるんだよ。その才能を次世代に継がないなんて人類の損失だ…」
「せめてまださー、政治家とか官僚とかなら利用価値があるのに」
「士郎の手は神の手とも言われている。どんな症例も士郎の手にかかれば成功率が跳ね上がるんだ。君分かってる?どれだけみんな士郎に失望したか」

  士郎の親族に囲まれ、僕は口を挟む余地なく口々に言われた。親族もみな医者らしい。親族に会う前から士郎には「親族は俺を神かなにかと思ってる節がある。気持ち悪いし、この世で一番信頼できない」とまで言い切った。

  うん、なんか、納得。

「僕が何か色々言われても仕方ないと思ってます。でも僕は、士郎さんに別れたいって言われない限り別れるつもりはありません。別れさせたいなら士郎さんに直接言ってください」

  そうにっこり微笑むと親族はギャーギャーと騒ぎ出し、僕を罵り始めた。そんなに騒いだら、ここは士郎の実家で士郎も居るのだから士郎に気づかれてしまうのに。そうぼんやり考えていたら案の定、士郎は過去最高に怒ってやってきた。

  士郎は本当にブチ切れて、僕と士郎のお父さんで必死に宥めたなぁ。なんて思い出す。

「士郎さん、カッコイイ……」

  テレビに集中すると、僕の夫が手術を終えてスタッフに指示出ししている。すると、士郎の生い立ちが語られ始めた。
  その映像を見てピンとした。

「……士郎さん、だから僕に言いたくなかったんだ…」

  やっぱり僕の夫はカッコイイのに可愛くて仕方ない。




「おかえりなさい!士郎さん」
「ただいま雪夜」

  玄関までスリッパでパタパタと出迎えに行くと、士郎のカバンを受け取って頬にキスをした。士郎は嬉しそうに僕の腰に手を回して唇へのキスを強請るように顔を寄せてくる。それに答えるように触れるだけのキスをして頬を擦り寄せた。

  士郎は養子縁組…僕たちにとったら結婚というものなのかもしれないけれど、それをしてからさらに甘くなったように感じる。

「士郎さん。見ました! テレビ!」
「?! 雪夜どうして知ってるんだ!?」

  慌てたように僕の両肩を掴んで目を見開いている。
  キスを中止してまでそんなに驚かなくても。クスクス笑って士郎を見上げると、片手で顔を覆って恥ずかしそうにしている。

「…見たのか」
「士郎さんの子供の頃の写真…可愛かった」
「あーーー…っ 」

  士郎が言いたくなかった理由はただ一つ。士郎曰く『クソガキ時代の俺は死んでも見られたくない』ということだ。

「母さんだな。絶対に教えるなと連絡したのに、あの人は」
「あ、だめです。玲香さんを怒ったら僕が士郎さんに怒っちゃいますよ」
「……だから雪夜と母さんを会わせたくなかったんだ」

  はぁ、と額に手を当ててため息をつく。悩ましいそんな姿もカッコイイ。

  僕は玲香の味方になることがしばしばある。話を聞いていると玲香の子供に対する愛情のかけ方は異常であったけれど、士郎の素っ気なさも大概だ。どっちもどっち。士郎としてはそんな僕が面白くないみたい。

  クスクスと笑う僕を見て士郎は頭を抱えていた。

「あまり、母さんの味方ばかりしないでくれ」
「ふふふ。僕は二人とも大好きですよ…っわ、ふふっ、くすぐったいです」

  いつの間にか抱き上げられ、顔中にキスを降らせてきた。思わずくすくす笑うと士郎の機嫌は途端に戻ったようだった。首筋を強く吸われ、くすぐったさだけでは無い身体の疼きが感じられた。

「んっ…、お風呂、一緒に入りますか……?」

  ちょっぴり恥ずかしいけれど聞いてみる。
  士郎は基本表情を動かさないが、積極的になると嬉しそうに微笑んでくれるのだ。

ああ、好きだなって思う。

「もちろん」

士郎の足が風呂場へ向かって歩き出し、その背中に手を回してこれからの甘い時間にドキドキした。
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