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廉×碧
好き
しおりを挟む「うー……やっぱり帰ろうかな」
なんとなく落ち着かない。
筒香先生のことを考えると、家に帰る事が出来ず、病院の入口にあるベンチで座っていた。
足が落ち着かない。組んだり、直したり、投げ出したり。
筒香先生の事は、雰囲気に飲まれただけじゃなくて本当に好きなんだと思う。命の恩人で、生活すら助けてくれている優しい人。
患者という関係から始まって、雇い主、大家、そして恋人。いくらお互いの関係の名前が変わろうとも、筒香先生はずっと優しいまま変わらない。
まだ一週間だ。付き合って一週間。何かが変わる時間にしては早すぎるかもしれない。
「でも…あんなにモテる人だと、すぐに…」
飽きられたくない。捨てられたくない。置いてかれたくない。
両親は俺を捨てた訳じゃない。置いていきたかった訳じゃない。不慮の事故だった。ばあちゃんだって、病気に勝てなかっただけだ。今もじーちゃんが居てくれる。
「……けど、じーちゃんのとこには、戻りにくいな」
いつでも帰ってこい、そう言って俺を送り出してくれたじーちゃんの隣には、鴨志田さんという女性が立っていた。
甘えられる人がいるのは分かってる。捨てられたわけじゃないし、突き放された訳でもないのも分かってる。
「ほんとに、俺でいいのかな」
病気持ちの、俺で。
世の中にはそんな人達が沢山いるのも分かってる。その人達を侮辱してるつもりもない。
けど、わざわざ、病気持ちの男の俺じゃなくたって。そう思ってしまう。
恋人になりたい。
その言葉が、ただの優しさから出ているのではないかとそう思ってしまう。
「……碧?」
ハッとして顔を上げた。
呼び声は今まさに考えていた彼、筒香先生だった。
「ずっとここに居たの?なんで連絡しないの?」
「あ……ごめ…、考え事してたら」
「ちょっと待って。本当にずっとここに居たの?」
「う、うん」
何時間居たのだろうか。堂々巡りで俯いて悩んでいたら筒香先生の退勤時間になってしまっていた。
筒香先生の真剣な顔つきに思わず怖くなってベンチに座ったまま後ずさった。
「何も飲まず食わず?採血だったから朝も食べてないよね?」
「……あ」
「あ、じゃない!持効型だけ打ってるよね?!」
「っ、ぁ……ぅ…、うん」
「馬鹿か!!」
突然怒鳴られ、周囲の人たちも驚いてこちらを見てくる。俺もびっくりして固まり、動けなくなった。
石像のように固まる俺を軽々と抱え、筒香先生は走った。やがて病院に併設されたカフェに着くと、俺を席に座らせてカフェで頼んだ甘い飲み物と軽食が目の前に置かれた。
「食べなさい」
「え、で、でも注射……」
「食べてから打ちなさい」
「は、はい……」
俺は二種類の注射を打っている。長くゆっくり効くタイプと直ぐに効いてくるインスリンだ。長く効くタイプが持効型。それだけは昨日の夜に打ってるから徐々に血糖値が下がってるかもと筒香先生は心配してくれているのだ。
直ぐに効くタイプは毎食前に打たなくちゃいけないんだけど、どうしてか止められた。
「これ全部食べれたら打って」
注射って後からでも良い時もあるんだ。
こく、と頷いて飲み物を手に取る。飲み物はいつもお茶を飲むようにしてたから、久しぶりの甘い飲み物に驚く。美味しい。
「食欲はあるんだ。良かった…」
はー…と大きくため息を疲れながら、もそもそとサンドイッチを食べた。筒香先生の顔を見たらなんだか安心してお腹が空いた。
心底ホッとされ、かなり心配されたのだと気づく。というか、怒ったとこ初めて見た。ちょっと怖かった。怖かったけど、
「心配になるから食事はして……ご飯食べて…」
あの優しくてカッコよくて、何もかも完璧に見えるこの人が、俺の事でこんなに心を乱している。
「……筒香先生、って、俺の事、ほんとに……好きなの?」
ぽつりと呟く。
目を大きく見開いて見つめられ、直ぐに細められた。まるで、愛おしいというように。
「そうだよ。やっと気づいた?」
ぶわ、と全身が毛羽立つような感覚に襲われて、筒香先生が上手く見れなくなってしまう。
もそもそと、目の前のサンドイッチを口に含み、恥ずかしさを誤魔化した。けどサンドイッチはあんまり味がしなかった。
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