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番外編
五年目の愛②※
ヴァレリの家に帰宅すると、玄関でピタリと動きを止めたアドルフに振り返った。
アドルフは下を向いて顔が良く見えない。けれど、下に降りている手は握り拳が作られていて、震えていた。
次の瞬間、堪らないと言った様子で飛び付くようにヴァレリに抱き着いてきた。
背中に回された腕に少しキツイほど締め付けられている。ヴァレリの服をギュッと握り締め、皺を作る。
「……ごめん、ヴァレリ」
ポツリと呟くように落とされた言葉に、ヴァレリは自然と頬が緩んでしまいそうになる。
「なんでアドルフが謝るんだよ」
「父さんがあそこまでわからず屋だとは思わなかった」
「むしろすぐに受け入れられる方が気持ち悪くないか?」
ヴァレリはその体験がある。
ヴァレリの父親は、ヴァレリが同性愛者だといち早く察した。そういう店を経営していたせいだろう。
そしてそんな跡継ぎの息子を非難するでもなく、親戚を養子にして『お前の後はコイツに継がせれば後は好きにしろ』とまで言ってのけた。
それはそれでありがたいのは勿論だが、少しだけ気持ち悪いとも思ってしまった。
どちらかと言うと、世間一般ではアドルフの父親、ルドルフのような反応が普通なのではないかと思う。
「でもま、ルドルフさん以外は味方みたいだしな。大丈夫だって」
ポンポン、とアドルフの背中を優しく叩く。
「ルドルフさんも。アドルフが心配なだけだろ」
「なんの心配だよ」
「商人ってのは信用第一だが、実の所一番信用されてないからな」
「……父さんは、俺が騙されてると思ってんのかよ」
ムッとした顔が見上げてくる。父親そっくりな態度に思わず笑いそうになる。
父親はただ心配なだけだ。周囲の人間を良く観察する癖があるのだが、父親はアドルフが心配で、ヴァレリをワザと挑発していたように思えた。
「そういうことだな」
「父さんは俺がまだガキだと思ってやがる」
「そういうなって」
挑発していると分かってわざと乗っかるつもりは無い。今となっては多少乗っかった方が良かったかもしれない。
ああいうタイプは会話をするしか分かり合える性格ではない。会話するなら、もう少し挑発に乗って話させる方が良かったはず。
そう思うと、少し事を急いたのか、とも思ってしまう。
「……また機会はあるだろ。きっと」
「ヴァレリ…」
もう一度ギュ、と背に回る手に力が籠るのを感じる。ヴァレリは、ふ、と少しだけ微笑んだ。
「それになぁ。俺は最初から上手くいくようなのは面白くねぇんだよな」
「…それ、悪い癖だからな」
ジト…とアドルフに見上げられる。
アドルフは思い出しているのだ。自分が三年も逃げ回ったせいで、むしろ燃えてきたヴァレリに追いかけ回されたことを。
ヴァレリがこんな逆境の状況でニヤと笑っていると、恋人はそんなヴァレリの様子に呆れたようにため息をつく。
「ヴァレリがそんな感じだから、父さんも最後には『俺は認めねぇからな!』なんて言うんだよ…」
「状況的には息子さんを下さい的な感じだったもんなぁ。いやー俺の父親とはタイプが真逆で面白ぇよ」
あの後、アドルフの父親、ルドルフは気を取り直して『俺は絶対に認めねぇ!男なのも商人なのも全部だ!二度と来るな!』と叫んだ。母のミランダと姉スーテラは大きくため息をついていた。
ミランダには『私がちゃんとしなかったせいで申し訳ない…ヴァレリさん。今日は旦那の頭に血が昇ってるから、また日を改めてくれないかい?』と言われ、姉のスーテラには『親父は職人気質で頭が硬いんだ。悪いね、ヴァレリさん。悪い親父じゃないんだけど…なんなら私に乗り換える?』と言ってきた。スーテラの抜け目ないところは誰に似たのか。
スーテラがヴァレリに伸ばしかけてきた手を、アドルフがバシッと勢いよく叩いて家を出ることになった。
「…俺より姉さんの方が良いとか、思った?」
「はぁ?お前どの口が言ってんだ?あ?この口か?」
「いひゃいいひゃい!」
ふざけたことを抜かした頬っぺたを両手で引っ張る。びよんと伸びた頬っぺたは柔らかくて伸びが良い。
すぐに離すと、アドルフはヒリヒリするのか両手で頬を押さえている。痛かったようで少し涙を溜めている。
「俺がお前と付き合うのが面倒ってんなら、五年前から追っかけたりしてねぇよ。分かったら二度とそんなふざけた事言うなよ」
「う…、ごめん…」
「あー、傷つきました。ヴァレリさんは今日一番傷つきました」
大袈裟に真剣な顔をして言うと、アドルフは焦ったように見上げてくる。
さっきまで信用されていたと思っていたのに、なぜ振り出しに戻ったのか謎すぎる。ネガティブ思考になるのはたまになら可愛いが、今この瞬間になられたって正直ムカつくし、本当に傷つく。
「これはもう慰めてもらわないと復活できません」
「え、お、おい…」
「可愛い恋人に慰めてもらわないと、ヴァレリさんは仕事もしたくないです」
「ちょ…」
「はー、どこかの可愛い恋人が、ヴァレリさんを慰めてくれないですかねー?」
ちら、と下を向くと、アドルフは何を想像したのか、真っ赤になって目を逸らした。
童貞を食いまくっていた男とは思えないほどのウブな姿に、つい絆されかける。いや、自分は信用を疑われて、本当に傷ついたのだ。少しは甘えても良いはずだ。
「ううう……、わ、分かった……」
恥ずかしそうに頬を染めて返事をする恋人。
言質はとった。
「ん、もぅ、やぁ……っ!」
「こらこら、逃げるな。慰めてくれるんだろ?」
座っているヴァレリの上に乗せたアドルフの腰を掴んで無理矢理落とす。ぐち、と繋がっている部分から卑猥な音が聞こえてくる。
アドルフは首をゆるゆると横に振って、涙目になってヴァレリの方を見下ろしてくる。対面座位だと少しだけアドルフの方がヴァレリより高い位置から見ることになる。いつもと違う目線に新鮮さを感じつつも、ヴァレリは下からガンガン突き上げるのをやめなかった。
「無理、もうむりぃ…!」
「イキ過ぎて怖くなった?最近は手加減してたからな」
もうすでにアドルフは、ヴァレリが数えている限りは五回ほど達している。もう既にアドルフの中心からは精液が出てくることはなく、完全に中イキするようになっていた。イキ過ぎでグズグズに泣いている。
童貞食いしていた頃のアドルフは、あまり中でイクことがなかったらしく、この五年でヴァレリが癖をつけさせた。それを思えば、グン、と自身が一回り大きくなってアドルフの中の肉壁を更に圧迫させた。
「んやぁ! な、んで!」
「悪い。ちょっと興奮した」
「んん、ぁ、あん!ま、って、あ、ひ…イク、イクッ!」
ガンッと思い切り突き上げると、快感に飲まれたアドルフ。抱きついている腕の力がギュッと強まり、中の締め付けも同様に強くなる。ヒクヒクと中が蠢いてヴァレリの中心を追い立てようとする。
唇を噛み締めて堪えると、アドルフはピクピクと体を震わせていた。はふはふと一生懸命息を整えようとしている。
「あー、気持ちーな。アドルフ?」
「は、ふ。もう、無理…ッきゃう!」
アドルフの返事がヴァレリの期待したものではなく、まだヒクつく中に挿れっぱなしの肉棒を突き立てた。
イイ声で鳴くアドルフに、思わず舌なめずりしてしまう。
「アドルフ」
「ん、んぅ…ん、んっ!」
腰を掴んでいた手をアドルフの後頭部に持っていき、優しく押さえつけてキスをする。口で呼吸していたアドルフの唇は無防備に開いているからすぐに舌を入れ込ませて、ヴァレリの舌を口内で暴れさせる。
ちゅ、と音をさせて離れると、離れ難いとでも言うように銀糸が二人の口を繋いでいた。
「気持ちい?」
「気持ち、イイ…っ、ヴァレリぃ…っん、んん…っ」
ボロボロと快感に流された身体が反射で涙を流している。頬に流れる生理的な涙を吸うようにキスをすれば、それにすら感じるのか声が上がる。
可愛くて仕方がない。
アドルフは華奢で小柄な方ではあるが、女のような可愛さでは無い。美人という訳では無い。少年のような可愛さだ。
ふ、と微笑むと、それに気づいたアドルフが自分から唇を合わせてくる。舌を絡ませ、くちゅくちゅと卑猥な音が口内から鼓膜を揺さぶる。アドルフのくぐもった声が共に聞こえてきて、ヴァレリを高揚させてくる。唇が離れると、ヴァレリの頬や額、首元にちゅっちゅっとキスを落とされた。
「かわいー事してくれるじゃん」
「……慰めろ、って…ヴァレリが言ったんだろ」
散々恥ずかしいことをしたのに、今が一番恥ずかしいとばかりにモゴモゴと言う恋人の姿を見て、世界が数秒止まった。
「…………はああああぁああ……」
「な、なに……?」
大きく息を吐くようにため息をついた。びく、とアドルフの肩が震える。
「…アドルフ」
「なんだよ……」
「俺、まだイってないから。付き合えよ」
「え゛」
ギラ、と瞳を向ければ、サッと顔色が青くなる可愛い恋人。
そんな可愛い恋人を沢山泣かせたのは言うまでもない。
--------------
まだ続くのですが、この場を借りて少しだけ。
全てにお答えできるか分かりませんが、読みたい話があれば教えて下さると嬉しいです。このシリーズ以外でも大丈夫です。
今少し忙しくてなかなか遅筆ですが…
よろしくお願いします。
七咲陸
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