【完結】オークのツガイになる方法

七咲陸

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  一週間とその翌日、つまり八日目にして僕はやっとこ一人で外を出歩くことを許可されました。

  オークの皆さんは、もう僕がゼタさんに一週間きっちり抱かれたことを理解しており、あからさまな敵意は見せてきません。ゼタさんが言った通り、母になる者にはとても寛容なようです。むしろ優しく話しかけてくれます。
  「身体は辛くない?大丈夫?」と女性オークに言われたり、「お前…大したやつだよ。ゼタの体力についていけるんだからな…」と男性オークには尊敬されました。

  どうして男性オークはゼタさんの体力を知っているのでしょうか。聞けば、ゼタさんは訓練や実践では鬼神のように戦い続けるそうです。そんな男が夜の方だけ静かになるわけがないと言っています。…間違ってないので何も否定できませんでした。
  僕が真っ赤になって俯くと、女性オークが「やめな。人間はこういう性に奔放な発言には慣れてないんだから」と僕を庇ってくれます。

  オークはとっても優しくて、素敵な人ばかりです。人間はもう少し考えを改めなくてはならないかも知れません。

  そんなことを考えながら、僕は外に出て一番にしたかったことをしに行きます。

「こんにちは、イーグさん」

  イーグさんのお宅にお邪魔しました。ゼタさんから場所は聞いていたので、あっさり到着することができました。ゼタさんのお宅は、何というか必要なものだけある印象のお宅ですが、イーグさんのお宅は奥さんがいるからなのか可愛らしいインテリアが施されていて、イーグさんの印象とは真逆のお宅でした。

「よお。久しぶりだな」

  交渉の場よりも気さくに声をかけてくれてホッとしました。睨まれたらどうしよう…とは少し思っていましたので。イーグさんのお宅に来た理由は、イーグさんのツガイさんに会いにきたからです。ツガイというのは奧さんという意味だそうです。

「どうでしょう、ツガイの方の具合は…?」

「まぁもうだいぶ良いよ。ただ、頬に傷があって、それだけが消えねぇ」

「それは…本当に申し訳ないです。見てもよろしいですか?」

  女性の顔に傷があるのはよろしくないです。いや、どこにあっても良くはないのですが、特に顔は良くないですよね。本当に悪いことをしました。人間だから人間だけの味方をするというのは良くないというのをこの八日間で反省しっぱなしです。

  僕の考えが少し特殊だということもわかってはいます。みんながみんな、オークの味方をするわけではありません。エマとゼリカも、今はまだ囚われている段階ですし、きっとオークの立場に立つことはできないでしょう。僕も完全にできているわけではないのですから。

  それでも、この八日間で色んなオークに優しくしてもらいました。
  それこそ故郷の村の人間たちよりもです。優しくなかったわけではないのですが、余所者の母と僕は距離を取られていたのです。

  イーグさんに案内してもらって、ツガイさんがいる寝室へ行きます。ツガイの方は、僕を見るなり少し怯えた表情をしました。

「ユエル。大丈夫だ。コイツはゼタのツガイだ。もうお前に危害は加えない」

「え、ツガイ…?僕ツガイなんですか?」

「は?身籠るんだから当たり前だろ」

  ビックリです。唖然としてしまいました。ゼタさんにもはっきり言われたわけではないので、本当にツガイなんでしょうか。
  むしろゼタさんは、子供を産んだ後は自由にしていいという言い方をしていました。ツガイになったのなら、離れてはいけないのではないでしょうか?ちゃんとゼタさんと話し合わなくてはならない気がしてきました。

  とりあえずその事は置いといて。今はイーグさんのツガイさん…ユエルさんのことです。

「えっと…ユエル、さん。僕たち三人が本当に申し訳ないことをしました。お詫びに治療させてもらっても構いませんでしょうか?」

  頭を下げて頼み込みます。こういうのは誠意が大切です。
  何となくですが、ユエルさんが戸惑っているのを感じます。声がかかるまで頭を上げてはならないと、母に教えてもらったことが今役に立っているでしょうか。

「ユエル。治療の間は変なことをしないか俺がちゃんと見張る。ユエルに傷があっても俺は気にしないが、ユエルは気にしているから外に出られないんだろ?頼む、また俺はユエルと一緒に外に出掛けたい」

  そう。実は治療を申し出たのは、イーグさんの方だったのです。ゼタさん経由で依頼されました。ユエルさんは顔に傷があるせいで塞ぎ込んでしまい、ベッドから出てこなくなってしまったそうなのです。他の傷はすっかり癒えて、歩けるのにです。
  僕は二つ返事で承諾しました。顔の傷は剣の跡なので、おそらくエマの剣が傷をつけたのでしょう。むしろこれだけで済んで本当に良かったとも思えます。

「…イーグが、居てくれるなら…」

「!本当か!ありがとうユエル!」

  ユエルさんが渋々と言った様子で了承すると、パッと花が開くような明るい声を出してイーグさんは喜びました。何だか本当に優しい風景です。僕は自分達が仕出かしたことに罪悪感でいっぱいになります。

「ミシュメール。早速やってくれ」

「は、はい。…えっと…ごめんなさい。触っても大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫よ」

  ユエルさんはベッドから身体を起こし、それを支えるようにイーグさんが背中に手を回します。僕は身を屈めて、ユエルさんの頬にそっと手を置きました。

「っ」

「ご、ごめんなさいっ、ちょっとだけ、我慢してください…」

  痛そうにというよりは、怯えるようにユエルさんは頬を引き攣らせます。了承したとは言え、やっぱり怖いですよね。僕だってエマに剣を向けられたら恐怖で足がすくんでしまうと思います。

  僕は掌に魔力を込めて、丁寧に祈ります。ゼリカほどではありませんが、僕も少し回復魔法が使えるのです。ホワ、と薄い青の光が手に宿り、傷をみるみる小さくしていきます。ゆっくりと徐々にですが、小さくなっていく傷を見て、イーグさんが喜んでいるのが伝わります。だいぶ薄くなったところで、それ以上は消えなくなってしまいました。

「…ご、ごめんなさい…僕にはこれが限界のようです」

「どうなったの…?」

「ちょっと待ってろ」

  そう言ってイーグさんはベッドサイドにある机の引き出しから手鏡を取り出しました。え、このオークの村、鏡もあるんですか?そんな貴重な品、僕の村にも滅多に持ってる人はいませんでした。すごくないですか…?

  イーグさんが手鏡をかざして、ユエルさんに見えるようにしてあげました。ユエルさんはそれを見て、頬に手を当てて感心していました。

「あ…凄い。だいぶ小さく、薄くなってる」

「でも完全に消してあげられませんでした…すみません。ゼリカの方がこういうのは得意なので…」

「いいえ。ありがとう。とっても嬉しいわ…」

  もっと回復魔法の練習をしていれば良かったと今更思います。ゼリカに頼り切っていた事を実感してしまいます。
  ゼリカは「ミシュメールさんは万能すぎるので、回復はそれなりにしてくださると嬉しいです。私の役目が取られてしまいます」と言っていましたが。

「あの…ゼリカに頼んでみましょうか?」

「あ?ダメに決まってるだろ。あの女が俺たちオークを治してくれるとはとても思えねぇな」

  僕の提案はイーグさんに一瞬で却下されてしまいました。そりゃそうですよね。僕だって、自分を襲ってきた人間たちに治療してほしいとは思えません。僕が治療させてもらえたのは、ゼタさんという後ろ盾のようなものがあるからなのですし。

「ミシュメール…だったかしら。ありがとう。気持ちだけもらっておくわ。これだけ薄いなら、少し勇気も出てきそう」

「…どうやったら消せるか、ゼリカに聞いてみます。また僕にチャンスをくれませんか?」

  すると、ユエルさんは少し驚いたように目を見開きます。イーグさんも少し驚いているようです。

「…もっと消してくれるの?」

「あ、いえ、その。絶対消せるかどうかは、約束できないのですが…ど、努力はします」

  ゼリカのように上手く丁寧に、繊細に回復をかけられれば良いのですが、どうやってあの繊細に魔法を使っているのか僕にはまだ分かりません。

「それなら…お願いしたいわ。もうだいぶ薄いけど、完全に消えるなら、消えてほしいの」

「俺からも頼む。ミシュメール」

「ひぇっ!イーグさん!やめてください!頭を下げないでください!」

  ユエルさんの隣で、イーグさんに頭を下げられてしまい、僕は慌ててしまいます。お願いするのはこちらの方です。何度も言いますが、僕らがユエルさんを傷つけてしまったのですから。
  僕がアタフタする姿を見て、ユエルさんはクスクスと笑っています。

「不思議な人ね。とても私たちを殺しにきたとは思えないわ」

「あ、えっと…今更言っても遅いと思うのですが…僕らは殺しに来たというよりは…もう少し人間の村から離れたところに行ってほしいと思って攻撃したんです」

「攻撃したのなら、殺すか殺されるかの覚悟があるってことだ。お前、そんなことも考えずに来たのかよ」

「う。…エマは、どうやったら逃げてくれるのか考えて…オークのみなさんに怯えてもらおうという意見になったんです…」

  僕たちも、こんな大勢のオークを三人で相手にできるとは思ってませんでした。だから補助魔法である幻惑を使ったり、エマが威嚇したりしたのですが。

「…だからあの剣士の女の子は、私に剣が当たった時に驚いてたのね。そんなに優しくて、冒険者が務まるのかしら」

「うぐ…」

  そうです。僕たち三人はいっつもそんな感じなので、あんまり依頼も上手く達成できなくて路頭に迷いかけていました。ゼリカも本当に優しくて、怪我している魔物に回復をかけてしまうくらいなのです。
  僕らが冒険者らしくないと言われているようで、ズーンと落ち込みます。

  すると、イーグさんは突然大きな口を開けて、大きな声で笑い出しました。僕はびっくりして身体を強張らせます。

「ハハハ! 面白ぇな!お前!よし、ユエルの頬の傷を治療してくれた礼に、あの二人の女に会わせてやるよ!まあ監視付きだがな」

  僕は一瞬キョトンとしましたが、イーグさんの言った言葉を理解したと同時に僕は嬉しくて笑いながらイーグさんにお礼を言いました。
  僕は舞い上がりました。八日ぶりに、彼女たちにようやく会うことができるのですから。
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