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イーグさんと話し合い、エマとゼリカに会うのは翌日にしようということになりました。
今すぐにでも行きたかったのですが、ゼタさんと話し合ってからでないとダメなようです。イーグさんの一存では、僕はエマとゼリカに会ってはならないようなのです。
逃げ出したり、オークの方たちを攻撃する恐れがあると思われているのかもしれません。信用されないのは当たり前なので僕はきちんと許可をとることにしました。
そんな訳で、村のリーダーであるゼタさんに許可を貰うべく、僕はゼタさんのお家に帰りました。
イーグさんもお願いしてくれると仰いましたが、これは僕がお願いすることで、イーグさんがお願いすることではありません。イーグさんは賛成してくれているという事実だけで良いのです。
「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。どうだった?」
当たり前のように帰ってきた僕を縦抱きに軽々ひょいっと持ち上げるゼタさん。一週間で僕はだいぶ慣れました。
ゼタさんはスキンシップが好きなようで、隙あれば直ぐにキスを顔中に落としてきます。今だってチュッチュッと音を立てながら僕の頬っぺたにキスをしています。擽ったくて片目を瞑って小さく笑うと、ゼタさんも嬉しそうに笑ってくれます。
「僕じゃ完全に治してあげることが出来ませんでした…、大方薄くはなりましたが、やっぱりこういうのはゼリカじゃないと…っ!」
しょんぼり、と言った感じで俯きながら報告すると、突然ゼタさんの顔が僕の眼前に広がります。それと同時に少しだけカサついた感触が唇に当たって、僕はこの一週間で覚えさせられたこの感触にすぐに反応してうっとりとします。
「ん…、ぁ、んぅ…っふ……」
ゼタさんの大きな口から分厚く長い舌が僕の唇をトントンと優しくノックしてきます。僕はなんの抵抗もなく、唇を小さく開いてゼタさんの舌を招き入れました。
入った瞬間から、ゼタさんの分厚く長い舌は僕の口蓋を犯します。歯列や上顎をなぞり、僕の小さな舌とクチュクチュ音をわざと立てるように絡ませてきます。音が響いて僕の耳も犯されているようです。
僕はそっとゼタさんの首に腕を回します。
出会ってたった一週間程なのに、僕は産まれて初めてこんな濃い一週間を味わいました。自業自得とはいえ魔物であるオークに捕まって、そのオークに孕まされることになって。しかも僕はそれを嫌だと思ってないんです。
それってどうなんでしょうか。人同士、エルフ同士だって会ったばかりの人とセックスして好きになったりするものなのでしょうか…。いや、そういう人もいると思いますけど…僕とゼタさんは種族も違いますし、いやいや!子供を孕まされるからって絶対に好きにならなくちゃいけないというわけではないですよね!
僕がそんな風にごちゃごちゃと考えているのが伝わったのか、ジュッと少し強めに舌を吸われて唇が離れていきます。
「んぅっ」
「こら。キスをしている最中に他のことを考えるな」
僕は少しジンとする舌に、ボーッとする頭でコクリと頷いた。
そうです、とりあえず今は子供を孕むことだけ考えることです。一週間で身体を作り替えることはできたようですが、これからは孕むようにしなくてはなりません。そうじゃないと、エマとゼリカが助からないんですから。
「ゼタさん…お願いがあるんです。エマとゼリカに会わせて欲しくて」
「なんだと」
僕を見る優しげな瞳が、キツくなります。
「あ…ぅ、ごめんなさ…」
その瞳はまるであの時の戦闘を思い出されました。
僕たち三人がユエルさんを攻撃した直後のことです。ゼタさんとイーグさんはすぐに気づいて応援にやってきました。イーグさんは叫びながら怒っていましたが、僕たち三人の前にどっしりと山のように立ちはだかり、ズシリとした威圧をかけてきた冷静にキレているゼタさんがとっても怖かったのを思い出したのです。
あの時、ゼリカと僕はもちろんのこと、いつもは勇猛果敢に立ち向かう剣士のエマですら恐怖で足を竦ませていたのです。
三人ともすぐに思い知らされました。絶対にこのオークには勝てない、と。
僕が恐怖に身を竦め、身体をカタカタと震えさせるとゼタさんはハッと気づいて威圧するような瞳をやめてくれました。
「悪い。怒っているとかではないんだ」
「…い、いえ…僕も、お願い事なんて…図々しいことを言って、すみません」
そうだ。僕はここのオークの人たちみんなが優しいから、忘れてしまっていた。
僕たち三人とも、オークの人たちにとったら罪人であり、許される立場ではなく、いつ殺されてもおかしくありません。むしろ、殺さないでいてくれるだけで感謝しなくてはならないのに、さらに食事や寝床まで与えてくれているのです。
エマとゼリカは、最初の三日間は差し出された食事も、オークが準備したものに何が入っているか分からないから、と言って何も食べなかったようです。けれど、四日目あたりから飲まず食わずで我慢できなくなって、恐る恐るですが食べてくれるようになったとイーグさんが教えてくれました。
今は牢に入っているけれど、僕の出方次第でエマとゼリカを牢から出すことは許すかもしれないと。
オークたちからしてみれば、エマとゼリカをこの村から出して復讐しに来られては溜まったものではありません。だから僕たち三人とも、牢から出られたとしても、一生この村から出してはもらえないでしょうが、それでも生きていれば良いことだってきっとあります。
ゼタさんとのこの先だって、村にいることはできても、子供ができたらきっとこの家から追い出されてしまいます。
ツガイだとかイーグさんは言っていますが、僕はやっぱり罪人ですし、あり得ないことだと思い直しました。
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて」
何かゼタさんが言いかけた時です。突然家のドアがドンドンドンと強く切羽詰まったように叩かれました。
何事かと、ゼタさんは僕を抱き上げたままドアを開けました。開けた先には、さっき別れたばかりのイーグさんがいました。イーグさんは焦った様子で息を切らして走ってきたようです。
「ゼタ!それとミシュメール!まずいことになった!」
「どうしたイーグ。何があった」
「詳しい話は後だ!ミシュメールも来い!」
イーグさんのただならぬ様子に、ゼタさんに抱えられたままイーグさんの後を追います。
イーグさんが向かった先は、石造りで出来ている小屋のような場所でした。窓も小さく、扉も厳重です。僕は直感しました。これがエマとゼリカがいる牢屋なんだと。
周囲には見張りをしていたのであろう武装しているオークの他に、優しく声をかけてくれていた女性のオークたちも囲むようにしていました。
「おい!道を開けろ!」
イーグさんが声をかけると、道ができるかのようにぱっかりと開きます。石造りの小屋の扉は開いていて、中を見ることができます。中には鉄格子があり、そこに罪人が入れられているのだと分かります。エマとゼリカはその鉄格子の向こうにいました。
「エマ、ゼリカ!一体何が…」
僕はエマとゼリカの姿を見て絶句しました。
「え…ま…?」
エマが血と一緒に泡を吹いて倒れていました。エマは顔面蒼白で、呼吸も小さいです。僕はゼタさんから無理矢理降りて鉄格子を掴みます。ガシャン、と冷たい金属音がしますが、もちろん開くはずもありません。扉には大きな南京錠のようなものが掛けられています。
「エマ!なんで!ゼリカ!エマは!どうして!」
ゼリカはそんなエマを見て、薄く嗤っています。嗤いながら、ブツブツと何か言っているようです。小さな声でよく聞こえません。でもゼリカならエマを治療できるはずなのです。それなのに、ゼリカはふふふふと奇妙に微笑んでいます。
ゼリカに声が届かないなら、僕がなんとかするしかないと思い、僕はゼタさんの方に振り返ります。
「ゼタさん!お願いです!僕をこの中に入れてください!」
「…ダメだ」
「ど、どうして…!エマが死んでしまいます!出してくれとは言いません!僕を入れてください!」
しかし、ゼタさんは首を横に振りました。
ガシャン、と大きな金属音をさせますが、そんなことで開く鉄格子の扉ではありません。どうして開けてくれないのかわからなくて、僕はゼタさんに詰め寄ります。
「エマは僕の大切な幼馴染です!早く助けないと死んじゃいます!お願いです!開けてください!」
ゼタさんの服を掴んで必死に懇願します。そんな僕を見て、ゼタさんは心苦しそうにしますが、それでも首を横に振りました。
そして、重々しくゆっくりとゼタさんは口を開きます。
「…あのエマという娘は、明らかに毒を飲まされている。俺たちは毒なんか使わない。持ってもない。ということはだ」
ヒュ、と僕は息を呑みます。血と泡を吹いて倒れ、外傷はどこにも見られない。となれば、ゼリカができることは一つです。
僕にはエルフの父から教わった薬草の知識があります。そして、ゼリカは僕の薬草集めや薬作りを手伝ってくれることがありました。その時に、毒は薬にもなることを説明したのを思い出しました。
サーっと血の気が引いていくのが自分でも分かります。
「あのゼリカという娘が飲ませたのは間違いない。そんな中に、俺の子を宿しているかもしれないミシュメールを入れることは出来ない」
「で…で、でも!ゼリカは戦闘職じゃありません!僕と同じでサポートしかできません!」
「忘れたのか」
ゼタさんは僕の手を掴んで、僕の目をまっすぐ見つめて、出来るだけ威圧しないように、それでもはっきりと伝えてきます。
「ゼリカという娘がナイフを持って自死しかけただろう。何をするか分からない奴に近づけさせられないと言っているんだ」
ゼタさんに言われ、僕は交渉の場で死のうとしたゼリカを思い出します。
自死するほど思い詰めていた敬虔なシスターのゼリカが、魔物とされているオークから施しを受けることをどう思っていたのでしょうか。
「…ゼタさん」
でも。それでも。
「僕だけが入っちゃいけないなら。ゼタさんも、いえ、何人でも構いません。一緒に入って下さい。最悪ゼリカを殴ってでも構いません」
僕は、僕を外の世界に連れ出してくれた、大切な幼馴染を無くしたりしたくないです。
「ゼタさん、お願いです…!子供なら何人だって産みます…!だから!エマを助けて!」
ボロボロと泣きながら、ゼタさんに懇願します。涙で前が上手く見えません。
必死にゼタさんの服を掴んで「お願いです…お願い…」と懇願しました。
ゼタさんはそれでも、良しとは言ってくれません。
すると、隣にいたイーグさんが、牢の扉に向かっていきます。
「イーグ!」
ゼタさんがイーグさんを静止しようと声を上げます。しかしイーグさんはゼタさんの声にも止まらず、持っていた鍵を牢の扉にある南京錠に合わせ、ガチャン、と解錠させる音と共にゆっくりと扉を開けました。
「おい、入るんだろ。早くしろ」
涙でぐちゃぐちゃの顔をした僕の方を見て、イーグさんは牢の中を親指で差してくれます。
ゼタさんの服を掴んでいた手を離し、僕は走り出しました。
「ミシュメール!」
「ゼタ。お前も手伝え。ゼリカって女を別の牢に移せばいいだろ」
エマの側で症状を見ていると、未だ狂ったように薄笑いを浮かべているゼリカは、ため息をついたゼタさんとイーグさんの手によってどこかに連れ出されていくのが分かりましたが、僕には構っている時間がありません。
ゼリカが知っている知識は、と同じはず。ということは、僕はその解毒だって出来るはずです。
冷たくなったエマの体に触れながら、必死に毒の特徴を思い出し、解毒薬を考えました。
あまり猶予はなさそうで、焦り始めて手が震えている僕の肩に誰かの手がポンと置かれます。まるで落ち着いて、と言っているように。
「ミシュメール。大丈夫よ、まだこの子の息はある。何が必要?」
振り返ると、そこにいたのは先ほど僕が治療したユエルさんでした。僕は涙をゴシゴシと拭って、ようやく手の震えが止まりました。
イーグさんが作ってくれたチャンスを無駄にしちゃいけません。
瞳に力を戻し、僕はユエルさんに伝えます。
「僕の荷物を…!僕の荷物に薬が入ってます!」
するとユエルさんは優しく、そして力強く頷いて、すぐに外にいる人に僕の荷物を持ってくるように指示してくれました。
外にいたオークさんたちがドタドタと外へ駆け出して行きます。
「ごめんなさいね。ゼタを恨まないであげて」
「…いえ、恨むなんてできません…本当なら、僕たちはもう殺されてたっておかしくないんです…」
「…そう、そうね。でも、この子を助けたら貴方は私とイーグのお家にいらっしゃい。こういう時は男をすぐに許しちゃダメなのよ」
ユエルさんは、この緊迫した空気の中、僕が少しでも落ち着くように声をかけてくれます。 そうしてふわり、と優しく微笑むユエルさんを見て、僕は何度かパチパチと瞬きさせます。
「ゼタを困らせましょう?貴方の気持ちを知ってもらわないと、ね?」
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