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二日後、ゼリカは獣人族へ向かうこととなりました。馬車の荷台にある格子に入れられたままでしたが、ゼリカはエマを毒殺しようとした時の狂気じみた表情はなく、穏やかに佇んでいます。
「…私も、ゼリカのこと一生許さないから」
エマはその格子に入ったゼリカを真っ直ぐ見つめています。ゼリカからはきっと見えないけど、ほんの少しエマの手が震えていました。
「殴ってやりたいし、引っ叩きたい。でもそれをしたら、きっとゼリカは満足するでしょう」
「…はい」
「だから私は一生ゼリカを殴らないし引っ叩かないし、殺さない。ゼリカは一生私とミシュメールの許しを願って生き続けるの」
「はい…」
「ゼリカの救いは、死ぬことじゃないわ。私とミシュメールの許しよ。分かった!?」
「…っ、はい…」
最後にエマが震える手を一瞬ゼリカに伸ばしかけますが、ぎゅっと握りしめて堪えています。ゼリカは牢屋の時と同様、ポロポロと涙を零し、微笑みました。
そんなゼリカを見て、エマも堪えきれずボロボロと泣き始めてしまいました。エマはゼリカに背中を向けて、僕にギュッと抱きつきました。
僕はエマの頭を撫でながら、ゼタさんに視線を送ります。ゼタさんは一つ頷き、御者のオークに出発するように声をかけます。格子に布が被せられ、ゼリカの姿は見えなくなってしまいました。
「あのゼリカって娘にしちゃ、まるで呪いだな。エマの言葉は」
「呪いだってなんだって構いません。僕とエマにとっての救いは、ゼリカが生き続けることなんですから」
僕がそう言うと、イーグさんは「そうか」と呟き、見張っていた他のオーク達のところに労いの言葉をかけにいきました。
エマはずっと僕の肩でグズグズと泣き続けています。しゃくり上げて、息がしずらそうです。
「エマ。僕はこれからゼタさんと一緒にいる。エマはどうしたい?」
頭を撫でながら、ゆっくりとエマに尋ねます。どんな答えだって、僕は受け入れようと決めていました。ゼタさんには怒られてしまうかもしれませんが、脱出したいと言うなら、手助けをしようとまで覚悟を決めていたのです。
けどきっと。エマなら。
「…何、言ってんのよ…!っぐず、アンタは、私が居ないと…!ダメなんだから…っ」
「うん…うん」
「アンタがここに居るなら!私もここに居る…っ」
「うん…、僕も、エマと一緒に居たい」
そうして僕は、しばらくの間泣き続けるエマの頭を優しく撫でていたのです
数ヶ月後、僕は村にある大きな台所でオークの女性陣と楽しく食事を作っていました。
「エマは本当に凄いわね」
ユエルさんに関心したように言われ、どうしてなのかわからず、首を傾げました。
すると周りの女性陣も、ウンウンと頷いています。
「エマが男性陣と狩猟に行くって言い出した時にはビックリしたわよ」
「あ、ああー…エマは動き回る方が性に合うらしいですから」
「なかなか男どもの狩猟について行くのって大変なのに、活躍が凄いってイーグが褒めてたわ」
エマもこの数ヶ月であっさりとオークを受け入れたようで、今では結婚に焦りを見せ始めました。どうやらオークの中では僕やエマの年齢は結婚適齢期だそうで、ここを逃すと本当に結婚が難しくなるそうです。
エマはユエルさんにその話を聞いた途端、「偏見の目を持ってる場合じゃない!」となったそうです。オークの社会では子孫を残すことを最優先にしているので子供を産む気がない女性は男性から変な目で見られることはないものの、アプローチは全くされなくなるそうです。
子を残せるなら必須ではない家事能力ですが、エマは本当に無いのです。冒険者だった時も、食事は僕とゼリカの仕事で、エマには狩猟や採取をお願いしていたのです。
そんなエマがどうしてなかなか恋人が出来ないのかと言いますと。
「…エマ、イケメン好きなのがなぁ」
そうなのです。エマは張り切って結婚相手を探すと決めたのですが、「カッコいいって思ったオークはゼタさんとイーグさんだった…」と落ち込んでしまいました。
この村でエマより強いのがゼタさんとイーグさんだったようなのです。カッコよくて自分より強いオークが良いと言い張ります。
「エマが幼馴染で大切だろうとゼタさんだけは絶対ダメ!」と僕はつい叫んでしまいました。
近くで聞いていたゼタさんが、真面目そうな表情を崩してニヤけてるのをイーグさんが気持ち悪そうに見ていたりしました。
「ミシュメールも無事に子供が出来たみたいだし、良かったわね」
「はい…」
ユエルさんに優しく微笑まれ、僕はゆっくりとお腹を摩りました。そうなのです。僕が狩猟の方に行かないのはまぁそういう事でして。
独身の女性陣からは羨ましそうな目線を向けられます。
「イイなぁミシュメール…ゼタのツガイなんて、最高じゃない」
「私もゼタ狙ってたのにぃ」
「ほんと! ミシュメールがとびきり可愛いから仕方ないけどぉ」
女性陣に「確かに」と深く頷かれるのですが、僕はなんとなく恥ずかしくて目を逸らしました。
「……これで良かったのかしら」
すると、ボソリとユエルさんに苦しげな表情で呟きました。優しく、穏やかな瞳が少しだけ痛々しいです。
「喜んでください。後悔なんて、僕はしてないです」
そんなユエルさんに微笑んで応えると、ユエルさんも少しだけ「…そうね」と笑ってくれました。
「さ! 男共ももうじき帰ってくるし、急がないと!」
ユエルさんが切り替えたように声を上げると、女性陣はみんな「はーい」と元気に言います。
村は今、とても平和です。それというのも、人間の村から冒険者がやって来なくなりました。
僕は『村の供物として捧げられた』体にして、襲わないことを約束したのです。
いやオークたちは元々村を襲うつもりなんかなかったのですが。
もちろん最初は人間たちは信用しませんでしたが、その代わりゼタさんは狩った獲物を一部を村に納めることを交渉しました。
最初は渋々と言った形で納得していましたが、今では狩るのが難しい大型の獣を渡すだけで大喜びされるようになった様です。
「ミシュメール」
低く、穏やかな声が耳に心地よく響いて届いてきます。
僕を優しく呼ぶその声に、嬉しくなって振り返ってつい走り出してしまいました。
「ゼタさん!」
ガバッと飛びつくように抱きつけば、ゼタさんは僕を危なげなくキャッチしてくれます。
「こら。危ないだろう」
「本当!危なっかしいんだから…!」
「う、ごめんなさい…」
ゼタさんとエマに嗜められてしまい、落ち込みますがキャッチしてくれたゼタさんは僕を抱き上げてくれます。
多分普段の僕なら怒られないでしょうが、お腹にゼタさんの赤ちゃんがいるので怒られてしまいました。
「ゼタのツガイ、可愛すぎるな」
「羨ましい…」
「ツガイはある程度逞しい方がいいと思ってたけど、いやこんな風に狩りの帰りを労ってくれる方がいいよなぁ…」
何やら帰ってきたオークの方々が話していますが、あんまり聞こえてきません。エマはそれを聞いてなんだかため息をついているようです。
「本当。ミシュメールはどこに行ってもモテるわね」
「僕?別に誰かと付き合ったこととかないよ?」
「そういうことじゃないわよ。全く」
僕が首を捻ると、エマはまたため息をついて呆れたように僕を見ます。
ゼタさんもなんだか苦笑しています。
「エマの苦労が見て取れるな」
「ゼタさんも思うでしょう?こうやって無自覚に振り撒くものだから勘違いするやつばっかよ。…ゼリカとよく変なやつが寄ってこないようにカバーしたものよ」
「ゼタの子供を産んだミシュメールを冒険者たちが見たら卒倒するんじゃないか?」
イーグさんの言葉にエマと他のオークの方達がうんうんと頷いています。
そんなに僕が子供を産むのがビックリさせてしまうのでしょうか?まあ男の僕が産んだとなれば卒倒してしまうかもしれません。
「…産んだらいつか、母と父に見せに行きたいです」
お腹を摩りながら僕がいうと、エマは真剣な表情になりました。
「心臓麻痺起こすかもしれないから、その時はまず手紙を送らなきゃダメよ」
男なのに子供産んでしかもその子供がオークとの間に出来たなんて、泡吹いて倒れるわ。と言われ、確かに…と思ってしまうのでした。
「…私も、ゼリカのこと一生許さないから」
エマはその格子に入ったゼリカを真っ直ぐ見つめています。ゼリカからはきっと見えないけど、ほんの少しエマの手が震えていました。
「殴ってやりたいし、引っ叩きたい。でもそれをしたら、きっとゼリカは満足するでしょう」
「…はい」
「だから私は一生ゼリカを殴らないし引っ叩かないし、殺さない。ゼリカは一生私とミシュメールの許しを願って生き続けるの」
「はい…」
「ゼリカの救いは、死ぬことじゃないわ。私とミシュメールの許しよ。分かった!?」
「…っ、はい…」
最後にエマが震える手を一瞬ゼリカに伸ばしかけますが、ぎゅっと握りしめて堪えています。ゼリカは牢屋の時と同様、ポロポロと涙を零し、微笑みました。
そんなゼリカを見て、エマも堪えきれずボロボロと泣き始めてしまいました。エマはゼリカに背中を向けて、僕にギュッと抱きつきました。
僕はエマの頭を撫でながら、ゼタさんに視線を送ります。ゼタさんは一つ頷き、御者のオークに出発するように声をかけます。格子に布が被せられ、ゼリカの姿は見えなくなってしまいました。
「あのゼリカって娘にしちゃ、まるで呪いだな。エマの言葉は」
「呪いだってなんだって構いません。僕とエマにとっての救いは、ゼリカが生き続けることなんですから」
僕がそう言うと、イーグさんは「そうか」と呟き、見張っていた他のオーク達のところに労いの言葉をかけにいきました。
エマはずっと僕の肩でグズグズと泣き続けています。しゃくり上げて、息がしずらそうです。
「エマ。僕はこれからゼタさんと一緒にいる。エマはどうしたい?」
頭を撫でながら、ゆっくりとエマに尋ねます。どんな答えだって、僕は受け入れようと決めていました。ゼタさんには怒られてしまうかもしれませんが、脱出したいと言うなら、手助けをしようとまで覚悟を決めていたのです。
けどきっと。エマなら。
「…何、言ってんのよ…!っぐず、アンタは、私が居ないと…!ダメなんだから…っ」
「うん…うん」
「アンタがここに居るなら!私もここに居る…っ」
「うん…、僕も、エマと一緒に居たい」
そうして僕は、しばらくの間泣き続けるエマの頭を優しく撫でていたのです
数ヶ月後、僕は村にある大きな台所でオークの女性陣と楽しく食事を作っていました。
「エマは本当に凄いわね」
ユエルさんに関心したように言われ、どうしてなのかわからず、首を傾げました。
すると周りの女性陣も、ウンウンと頷いています。
「エマが男性陣と狩猟に行くって言い出した時にはビックリしたわよ」
「あ、ああー…エマは動き回る方が性に合うらしいですから」
「なかなか男どもの狩猟について行くのって大変なのに、活躍が凄いってイーグが褒めてたわ」
エマもこの数ヶ月であっさりとオークを受け入れたようで、今では結婚に焦りを見せ始めました。どうやらオークの中では僕やエマの年齢は結婚適齢期だそうで、ここを逃すと本当に結婚が難しくなるそうです。
エマはユエルさんにその話を聞いた途端、「偏見の目を持ってる場合じゃない!」となったそうです。オークの社会では子孫を残すことを最優先にしているので子供を産む気がない女性は男性から変な目で見られることはないものの、アプローチは全くされなくなるそうです。
子を残せるなら必須ではない家事能力ですが、エマは本当に無いのです。冒険者だった時も、食事は僕とゼリカの仕事で、エマには狩猟や採取をお願いしていたのです。
そんなエマがどうしてなかなか恋人が出来ないのかと言いますと。
「…エマ、イケメン好きなのがなぁ」
そうなのです。エマは張り切って結婚相手を探すと決めたのですが、「カッコいいって思ったオークはゼタさんとイーグさんだった…」と落ち込んでしまいました。
この村でエマより強いのがゼタさんとイーグさんだったようなのです。カッコよくて自分より強いオークが良いと言い張ります。
「エマが幼馴染で大切だろうとゼタさんだけは絶対ダメ!」と僕はつい叫んでしまいました。
近くで聞いていたゼタさんが、真面目そうな表情を崩してニヤけてるのをイーグさんが気持ち悪そうに見ていたりしました。
「ミシュメールも無事に子供が出来たみたいだし、良かったわね」
「はい…」
ユエルさんに優しく微笑まれ、僕はゆっくりとお腹を摩りました。そうなのです。僕が狩猟の方に行かないのはまぁそういう事でして。
独身の女性陣からは羨ましそうな目線を向けられます。
「イイなぁミシュメール…ゼタのツガイなんて、最高じゃない」
「私もゼタ狙ってたのにぃ」
「ほんと! ミシュメールがとびきり可愛いから仕方ないけどぉ」
女性陣に「確かに」と深く頷かれるのですが、僕はなんとなく恥ずかしくて目を逸らしました。
「……これで良かったのかしら」
すると、ボソリとユエルさんに苦しげな表情で呟きました。優しく、穏やかな瞳が少しだけ痛々しいです。
「喜んでください。後悔なんて、僕はしてないです」
そんなユエルさんに微笑んで応えると、ユエルさんも少しだけ「…そうね」と笑ってくれました。
「さ! 男共ももうじき帰ってくるし、急がないと!」
ユエルさんが切り替えたように声を上げると、女性陣はみんな「はーい」と元気に言います。
村は今、とても平和です。それというのも、人間の村から冒険者がやって来なくなりました。
僕は『村の供物として捧げられた』体にして、襲わないことを約束したのです。
いやオークたちは元々村を襲うつもりなんかなかったのですが。
もちろん最初は人間たちは信用しませんでしたが、その代わりゼタさんは狩った獲物を一部を村に納めることを交渉しました。
最初は渋々と言った形で納得していましたが、今では狩るのが難しい大型の獣を渡すだけで大喜びされるようになった様です。
「ミシュメール」
低く、穏やかな声が耳に心地よく響いて届いてきます。
僕を優しく呼ぶその声に、嬉しくなって振り返ってつい走り出してしまいました。
「ゼタさん!」
ガバッと飛びつくように抱きつけば、ゼタさんは僕を危なげなくキャッチしてくれます。
「こら。危ないだろう」
「本当!危なっかしいんだから…!」
「う、ごめんなさい…」
ゼタさんとエマに嗜められてしまい、落ち込みますがキャッチしてくれたゼタさんは僕を抱き上げてくれます。
多分普段の僕なら怒られないでしょうが、お腹にゼタさんの赤ちゃんがいるので怒られてしまいました。
「ゼタのツガイ、可愛すぎるな」
「羨ましい…」
「ツガイはある程度逞しい方がいいと思ってたけど、いやこんな風に狩りの帰りを労ってくれる方がいいよなぁ…」
何やら帰ってきたオークの方々が話していますが、あんまり聞こえてきません。エマはそれを聞いてなんだかため息をついているようです。
「本当。ミシュメールはどこに行ってもモテるわね」
「僕?別に誰かと付き合ったこととかないよ?」
「そういうことじゃないわよ。全く」
僕が首を捻ると、エマはまたため息をついて呆れたように僕を見ます。
ゼタさんもなんだか苦笑しています。
「エマの苦労が見て取れるな」
「ゼタさんも思うでしょう?こうやって無自覚に振り撒くものだから勘違いするやつばっかよ。…ゼリカとよく変なやつが寄ってこないようにカバーしたものよ」
「ゼタの子供を産んだミシュメールを冒険者たちが見たら卒倒するんじゃないか?」
イーグさんの言葉にエマと他のオークの方達がうんうんと頷いています。
そんなに僕が子供を産むのがビックリさせてしまうのでしょうか?まあ男の僕が産んだとなれば卒倒してしまうかもしれません。
「…産んだらいつか、母と父に見せに行きたいです」
お腹を摩りながら僕がいうと、エマは真剣な表情になりました。
「心臓麻痺起こすかもしれないから、その時はまず手紙を送らなきゃダメよ」
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