人魚姫の結末に腹を立てて転生したら、私がライバル役でした。

ビジ

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stage1 海辺

013 さよならパンプス

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 ドレスの裾を両手でたくし上げて駆けだした私の後ろでは、大変な騒ぎが起きていた。

 それはそうだろう。

 王子様がいつ難破して海に放り出されたのかはわからないが、行方不明になって以来、きっと城中の人たちが捜索に血眼になっていたはずだ。
 皆が心配し、なかには最悪の想像をする人もいただろう。

 そこへ突然、気絶してボロボロ(ボロボロになったのは主に私のせいだけど)になってはいるものの、生きた姿で王子様が送り届けられたのだ。

 騒然とならないわけがない。

「王子様、よくぞご無事で……!みんな、出て来てごらん!王子様がお戻りになられたんだ!」

「王子様が!?」
「確か、嵐で船から投げ出されたはずじゃあ!?一体、どうやって城まで」

 厨房から次々に飛び出してきた使用人たちが、王子様を取り囲む中、おばちゃんがひときわ野太い声を張り上げた。

「あの娘さんだよ!あの子が王子様をここまで連れてきてくれたんだ!」

 い、言わなくてもいいのにーー!!

 脳内で絶叫しながらも私は振り返らず走り続けた。
 けれど振り返らなくても、視線が痛いほど背中に刺さりまくっているのがわかる。

「そりゃあ、王子様の大恩人じゃないか!見ろ、行ってしまうぞ!追いかけなくちゃ!」

 と誰かが叫んだのを皮切りに、そうだそうだ、追いかけて連れ戻してお礼だ!晩餐会だ!の大合唱が起きた。

「そんなのいいから見逃してよーー!!」

 思わず悲鳴をもらした私の背後で、最初に目が合ったおばちゃんが「よし来た私が!」と請け負うのが聞こえた。
 そしてドスドスドスドス!!と重厚な音を立てて追いかけてくる。

「がんばれクレアさん!」
 と背後から応援がかかる。

 どうやら彼女はクレアおばさんというらしい。

 なんてどうでもいい情報!

 追いかけて来なくていいから台所でクリームシチューでも作っていてほしい。

 意外な俊足で『逃走中』のハンターばりに追跡してくるおばさんから必死で逃げていると、思わぬ不幸が起きた。

 石畳の継ぎ目に踵を取られて、パンプスが片方、ポーンと脱げてしまったのだ。

 つんのめりながら一瞬迷ったが、ここで戻ったら確実にクレアおばさんに捕獲される!と思い、私は靴を置き去りにした。

 可愛かったのになあ、白いパンプス。

 なんて別れに浸る余裕もなく、私とクレアおばさんの追いかけっこは、日が沈み、私が奇跡的に城下の喧騒へと逃げ込むまで続いたのだった。

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