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stage2 城下
018 美女でした
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いくらなんでも、そこまでおばあさんの好意に甘えてもいいものだろうか?
なんて迷ったのは一瞬だった。
勇んでやって来たものの、私はこの世界のことを何も知らないし、先立つもの……早い話がお金も持っていない。
一文なしであてもなくフラフラするより、まずは落ち着ける場所を確保した方がいいに決まっていた。
「すり傷程度だし、まあ、こんなもんだろう」
私の足に湿布代わりの薬草を貼って、エルマさんが言った。
「さて、早速で悪いけんど、ここにいるなら、二階の掃除をしなくちゃなんねえ。私は階段を上がれないから、あんたに自分でやってもらわなくちゃ」
「それはもちろんです!」
エルマさんは居間の隅に立て掛けてあった箒とチリトリ、それから手縫いのエプロンと頭巾を渡してくれた。
「じゃあ、これでやっとくれ。二階は一部屋しかないからね。入ってすぐ脇に古布箱があるから、それを雑巾にしたらええ。たぶん、バケツもある。水は台所の甕のやつを使いない」
「わかりました!」
箒とチリトリを手に頷く私を、エルマさんはふとしげしげ眺めた。
「まあまあ、そういやあその綺麗なドレスで掃除ってのもねえ……。そうだ、二階の箪笥に使ってない服があるから、好きなものを着るとええ。頼まれたっきり、誰も受け取りに来なかったやつだから、遠慮はいらんよ」
「あ、そういうこともあるんですね……」
クリーニング店でも、依頼した客がいつまで経っても取りに来なくて困ることがある、と聞く。この世界でも、そういうことがあるのだ。
なんというか、とてもリアルだな、と思う。
絵本の挿絵でしか知らなかったおとぎ話の世界にも、地に足の着いた生活があった。
それを知っていくことが、怖いような、楽しみのような不思議な気分だった。
「何から何までありがとうございます……!じゃあ、早速掃除を始めますね!」
階段は長年使っていないせいか不気味に軋んだけれど、壊れるような気配はなかった。
埃を立てないように静かに上がっていくと、突き当たりは壁で、左側にドアがあった。
押し開けると、中は暗かった。
窓にしっかり鎧戸がしてあるのだ。
まずは換気を、と、私は表通りに面した方の窓を開けた。
眩い光が差し込んで、部屋の全体が明らかになった。
部屋は、かつては寝室として使われていたものらしかった。
ベッドが二つあり、片方は壁際に寄せられ、片方は解体されて床に積んであった。
大きな衣裳箪笥が一つあり、その横におばあさんが使っていたのであろう鏡台が付いていた。
「すごい、ニトリには絶対売ってなさそう!」
たぶん、この世界の家具類はみんな職人の手作りだ。工場で作った量産品とは見た目の雰囲気も造りも全く違う。
「なんかすごく、アンティーク!」
乏しい語彙力で褒めたたえつつ、私は鏡台に近づいていき、ごく自然な流れで、鏡面を覆っていたパッチワークのカバーをまくり上げた。
そして静止した。
「……え?鏡じゃなくて、絵?」
鏡と思っていた長方形の中には、金髪の女性が描かれていた。
これがもう、目を見張るほどの美女なのだ。
混じりけの無いブロンドを結い上げて、ブルーのドレスを纏った美女。
肌は陶器のように滑らかで、抜けるように白く、扇形の睫毛に縁取られた瞳は鮮やかなエメラルド色をしていた。
年の頃は十代後半から二十そこそこといったところだろうか。
「ハリウッド女優もビックリね」
呆然と呟くと、絵の中の美女の唇も、同じように動いた。
「えっ?動いた!?」
まさか心霊的なシロモノ!?
仰天して後ずさると、絵の中の金髪美女も、愛らしく目を見開いて後ろに下がった。
「あれ?え?コレって、まさか……」
おそるおそる鏡を覗き込んでいくと、金髪美女も戸惑い顔で近づいてくる。その困り顔がまた美しい。
「えええええええぇッ!?」
それでようやく理解した。
「これ、私ぃいいーー!?」
平々凡々な女子高生は、異世界でとんでもないブロンド美女になっていました。
なんて迷ったのは一瞬だった。
勇んでやって来たものの、私はこの世界のことを何も知らないし、先立つもの……早い話がお金も持っていない。
一文なしであてもなくフラフラするより、まずは落ち着ける場所を確保した方がいいに決まっていた。
「すり傷程度だし、まあ、こんなもんだろう」
私の足に湿布代わりの薬草を貼って、エルマさんが言った。
「さて、早速で悪いけんど、ここにいるなら、二階の掃除をしなくちゃなんねえ。私は階段を上がれないから、あんたに自分でやってもらわなくちゃ」
「それはもちろんです!」
エルマさんは居間の隅に立て掛けてあった箒とチリトリ、それから手縫いのエプロンと頭巾を渡してくれた。
「じゃあ、これでやっとくれ。二階は一部屋しかないからね。入ってすぐ脇に古布箱があるから、それを雑巾にしたらええ。たぶん、バケツもある。水は台所の甕のやつを使いない」
「わかりました!」
箒とチリトリを手に頷く私を、エルマさんはふとしげしげ眺めた。
「まあまあ、そういやあその綺麗なドレスで掃除ってのもねえ……。そうだ、二階の箪笥に使ってない服があるから、好きなものを着るとええ。頼まれたっきり、誰も受け取りに来なかったやつだから、遠慮はいらんよ」
「あ、そういうこともあるんですね……」
クリーニング店でも、依頼した客がいつまで経っても取りに来なくて困ることがある、と聞く。この世界でも、そういうことがあるのだ。
なんというか、とてもリアルだな、と思う。
絵本の挿絵でしか知らなかったおとぎ話の世界にも、地に足の着いた生活があった。
それを知っていくことが、怖いような、楽しみのような不思議な気分だった。
「何から何までありがとうございます……!じゃあ、早速掃除を始めますね!」
階段は長年使っていないせいか不気味に軋んだけれど、壊れるような気配はなかった。
埃を立てないように静かに上がっていくと、突き当たりは壁で、左側にドアがあった。
押し開けると、中は暗かった。
窓にしっかり鎧戸がしてあるのだ。
まずは換気を、と、私は表通りに面した方の窓を開けた。
眩い光が差し込んで、部屋の全体が明らかになった。
部屋は、かつては寝室として使われていたものらしかった。
ベッドが二つあり、片方は壁際に寄せられ、片方は解体されて床に積んであった。
大きな衣裳箪笥が一つあり、その横におばあさんが使っていたのであろう鏡台が付いていた。
「すごい、ニトリには絶対売ってなさそう!」
たぶん、この世界の家具類はみんな職人の手作りだ。工場で作った量産品とは見た目の雰囲気も造りも全く違う。
「なんかすごく、アンティーク!」
乏しい語彙力で褒めたたえつつ、私は鏡台に近づいていき、ごく自然な流れで、鏡面を覆っていたパッチワークのカバーをまくり上げた。
そして静止した。
「……え?鏡じゃなくて、絵?」
鏡と思っていた長方形の中には、金髪の女性が描かれていた。
これがもう、目を見張るほどの美女なのだ。
混じりけの無いブロンドを結い上げて、ブルーのドレスを纏った美女。
肌は陶器のように滑らかで、抜けるように白く、扇形の睫毛に縁取られた瞳は鮮やかなエメラルド色をしていた。
年の頃は十代後半から二十そこそこといったところだろうか。
「ハリウッド女優もビックリね」
呆然と呟くと、絵の中の美女の唇も、同じように動いた。
「えっ?動いた!?」
まさか心霊的なシロモノ!?
仰天して後ずさると、絵の中の金髪美女も、愛らしく目を見開いて後ろに下がった。
「あれ?え?コレって、まさか……」
おそるおそる鏡を覗き込んでいくと、金髪美女も戸惑い顔で近づいてくる。その困り顔がまた美しい。
「えええええええぇッ!?」
それでようやく理解した。
「これ、私ぃいいーー!?」
平々凡々な女子高生は、異世界でとんでもないブロンド美女になっていました。
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