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魔女令嬢と森の守護者 1
『魔女の森』は一見すると、単に緑濃いだけの森に見える。鬱蒼と茂る枝葉に陽光は遮られ、森の中は薄暗い。
けれどその茂みの影やちょっとした窪み等には、貴重な薬草がひっそり生い茂り、岩の合間にこんこんと沸く泉には薬効が染み込んでそれ自体が既に水薬となっている。
その分梢に舞う小鳥は異様に鋭い爪や嘴を持っていたり、叢の野うさぎや小枝の栗鼠といった小動物さえ他の土地の同じ種より遥かに強靭な肉体と知性に近いものを備えており、人は彼等を魔獣と呼ぶ。
「この森は、変わらないわね」
セイラはぽつりと呟いた。
彼女は『森の魔女』、生まれ落ちて気がついたらこの森にいた。侵入者に牙を剥く魔獣達も彼女に敵意を向けることはなく、中には彼女に触れるためすり寄ってくるものさえもおり、しかもそれらは揃って他の同族より賢く強い個体なのだ。中でも特徴的なのは。
「セイラ、森小屋は綺麗にしてあるから安心しろ」
偉そうに宣うのは長身の青年だ。
侯爵家の使用人達を落ち着かせたのと同じ人物、なのだが。果たしてそれと理解できる者はどの程度いるのだろうか。
確かに容姿は同じだが、地味なありふれた衣類の代わりに極めて上質な漆黒の執事服を纏っている。シャツと手袋のみ純白なのが互いを引き立て合い、その容姿を鮮やかに印象付ける。
本当に容姿自体は変わっていないのだが、その事実が信じ難いほど雰囲気が違う。長身の背筋は真っ直ぐに伸びて切れ長の目元には自信が漂い、見る者をはっとさせるような華が感じられる。深みを増したその瞳は濃い緑、鬱蒼とした森の色だ。
「……フォレスト、貴方一体いつそんなことをする暇があったの?ずっと私に仕えていたのではなくて?」
男の色香滴るような彼に対してもセイラは相変わらず淡々としたものだ。面白そうに含み笑って彼は芝居がかった仕種で辺りを示す。
「これは、異なことを。我は魔女の従者であるとともに、この森の守護者。この森の者は皆、貴女へ奉仕することが望みなのだから」
それに応えるように、木陰や何かから小さな生き物がちょろちょろ出てきてセイラにまとわりつく。兎や鼬は足元にまとわり、枝から降りた栗鼠や蜥蜴は彼女の肩に飛びついてはフォレストに払い落とされていた。
「フォレスト、小さな子達を苛めては駄目よ」
「何、こいつらも貴女に触れるためだけにじゃれてくるのだから。我が払った程度では堪えもせぬよ」
けれどその茂みの影やちょっとした窪み等には、貴重な薬草がひっそり生い茂り、岩の合間にこんこんと沸く泉には薬効が染み込んでそれ自体が既に水薬となっている。
その分梢に舞う小鳥は異様に鋭い爪や嘴を持っていたり、叢の野うさぎや小枝の栗鼠といった小動物さえ他の土地の同じ種より遥かに強靭な肉体と知性に近いものを備えており、人は彼等を魔獣と呼ぶ。
「この森は、変わらないわね」
セイラはぽつりと呟いた。
彼女は『森の魔女』、生まれ落ちて気がついたらこの森にいた。侵入者に牙を剥く魔獣達も彼女に敵意を向けることはなく、中には彼女に触れるためすり寄ってくるものさえもおり、しかもそれらは揃って他の同族より賢く強い個体なのだ。中でも特徴的なのは。
「セイラ、森小屋は綺麗にしてあるから安心しろ」
偉そうに宣うのは長身の青年だ。
侯爵家の使用人達を落ち着かせたのと同じ人物、なのだが。果たしてそれと理解できる者はどの程度いるのだろうか。
確かに容姿は同じだが、地味なありふれた衣類の代わりに極めて上質な漆黒の執事服を纏っている。シャツと手袋のみ純白なのが互いを引き立て合い、その容姿を鮮やかに印象付ける。
本当に容姿自体は変わっていないのだが、その事実が信じ難いほど雰囲気が違う。長身の背筋は真っ直ぐに伸びて切れ長の目元には自信が漂い、見る者をはっとさせるような華が感じられる。深みを増したその瞳は濃い緑、鬱蒼とした森の色だ。
「……フォレスト、貴方一体いつそんなことをする暇があったの?ずっと私に仕えていたのではなくて?」
男の色香滴るような彼に対してもセイラは相変わらず淡々としたものだ。面白そうに含み笑って彼は芝居がかった仕種で辺りを示す。
「これは、異なことを。我は魔女の従者であるとともに、この森の守護者。この森の者は皆、貴女へ奉仕することが望みなのだから」
それに応えるように、木陰や何かから小さな生き物がちょろちょろ出てきてセイラにまとわりつく。兎や鼬は足元にまとわり、枝から降りた栗鼠や蜥蜴は彼女の肩に飛びついてはフォレストに払い落とされていた。
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