8 / 25
先読みの魔女、招かれる
しおりを挟む
「今回のことに関して、こちらをお招きしました」
セイラの言葉と同時に姿を見せたのは一人の女性だった。年の頃は侯爵夫人と同じくらいか、けれど病弱な彼女より更に痩せ細り血の気の薄い様子と、粗末な衣類や傷んだ髪・荒れた肌等から見ると貴族ではなく平民なのだろう。
「……は、はじめまして」
頭を下げる様子もおどおどと身の置き所もないように見える。
「セイラ嬢、こちらは?」
不審げに問う王太后にセイラは真顔で応じる。
「この方はニーナ様、隣国に生まれた先読みの『魔女』です」
「まあ!」
「ニーナ様、こちらの方はこの国の王太后でいらっしゃる『国母の魔女』であらせられます」
双方に紹介を済ませるとセイラは一礼して自分の席に座る。おろおろと視線をさまよわせていたニーナは、恐る恐るといった様子で頭を下げた。
「に、ニーナと申します」
「楽になさってくださいな、ニーナさん。……先読みの魔女でいらっしゃるとは、隣国で苦労なさったでしょうに」
「は、はあ……でもあの、先読みの力はもうあまり残っておりません」
促され、腰を下ろして彼女は申し訳無さそうに頭を振る。
『先読み』の魔女とは、簡単に言えば予知能力者だ。未来を見通す異能、ただしこの能力は他のものにも増して個人差が大きく同時に減衰も甚だしいという。
「……そしてニーナ様は。私の義妹でありますノリエッタ嬢の産みの親でもあります」
それに淡々とセイラが補足する。
要は彼女の先読みを知ったハーリット侯爵が、それを自分のために利用しようとした、それが全ての始まり。
「皆様ご承知の通り、隣国では『魔女』は差別されております。そのために処罰される訳ではございませんが、本来得られる保護や何かもありませんので……」
ニーナの先読みは強いものではなく、正確な天気予報程度の代物だった。しかし一度だけ、強烈な幻視を見、それを洩らしてしまったのが始まりだったという。
「それがその、私の産んだ娘が美しく育ち、身分ある多くの殿方に愛され、乞われて幸福に豊かな暮らしを送るというものでした」
言ってみれば日々抑圧された状態でみる夢想に近い。
だが彼女は『先読みの魔女』、ただの夢幻では終わらない。というか、それをどこでどうして聞きつけたのか、ハーリット侯爵の耳に入ってから事態は急転した。
当時彼は一介の貴族令息。跡取りでもない部屋住みの身でニーナを口説きにかかった。『魔女』故の差別に苦しい生活を余儀なくされていた彼女だが、彼の兄が友人と共に事故に遭って亡くなり、その友人の家に婿入りすることになったと言ってきた時には既に彼の愛人という立場にされていた。
「多分、私はもう先読みの力は失ったものと思います。……だって私の産んだ娘は、産んですぐ侯爵に連れて行かれたきり会ってもいませんし、もう既に『皆に愛されて幸福に暮らす』ことはできないようですから」
セイラの言葉と同時に姿を見せたのは一人の女性だった。年の頃は侯爵夫人と同じくらいか、けれど病弱な彼女より更に痩せ細り血の気の薄い様子と、粗末な衣類や傷んだ髪・荒れた肌等から見ると貴族ではなく平民なのだろう。
「……は、はじめまして」
頭を下げる様子もおどおどと身の置き所もないように見える。
「セイラ嬢、こちらは?」
不審げに問う王太后にセイラは真顔で応じる。
「この方はニーナ様、隣国に生まれた先読みの『魔女』です」
「まあ!」
「ニーナ様、こちらの方はこの国の王太后でいらっしゃる『国母の魔女』であらせられます」
双方に紹介を済ませるとセイラは一礼して自分の席に座る。おろおろと視線をさまよわせていたニーナは、恐る恐るといった様子で頭を下げた。
「に、ニーナと申します」
「楽になさってくださいな、ニーナさん。……先読みの魔女でいらっしゃるとは、隣国で苦労なさったでしょうに」
「は、はあ……でもあの、先読みの力はもうあまり残っておりません」
促され、腰を下ろして彼女は申し訳無さそうに頭を振る。
『先読み』の魔女とは、簡単に言えば予知能力者だ。未来を見通す異能、ただしこの能力は他のものにも増して個人差が大きく同時に減衰も甚だしいという。
「……そしてニーナ様は。私の義妹でありますノリエッタ嬢の産みの親でもあります」
それに淡々とセイラが補足する。
要は彼女の先読みを知ったハーリット侯爵が、それを自分のために利用しようとした、それが全ての始まり。
「皆様ご承知の通り、隣国では『魔女』は差別されております。そのために処罰される訳ではございませんが、本来得られる保護や何かもありませんので……」
ニーナの先読みは強いものではなく、正確な天気予報程度の代物だった。しかし一度だけ、強烈な幻視を見、それを洩らしてしまったのが始まりだったという。
「それがその、私の産んだ娘が美しく育ち、身分ある多くの殿方に愛され、乞われて幸福に豊かな暮らしを送るというものでした」
言ってみれば日々抑圧された状態でみる夢想に近い。
だが彼女は『先読みの魔女』、ただの夢幻では終わらない。というか、それをどこでどうして聞きつけたのか、ハーリット侯爵の耳に入ってから事態は急転した。
当時彼は一介の貴族令息。跡取りでもない部屋住みの身でニーナを口説きにかかった。『魔女』故の差別に苦しい生活を余儀なくされていた彼女だが、彼の兄が友人と共に事故に遭って亡くなり、その友人の家に婿入りすることになったと言ってきた時には既に彼の愛人という立場にされていた。
「多分、私はもう先読みの力は失ったものと思います。……だって私の産んだ娘は、産んですぐ侯爵に連れて行かれたきり会ってもいませんし、もう既に『皆に愛されて幸福に暮らす』ことはできないようですから」
26
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる