婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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魔女令嬢と元婚約者

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不貞腐れたままのノリエッタが何か言いかけた時、玄関の外で馬車の着いたらしい物音がした。王太后からの迎えがきたのだろう。下手に余計なことを言われるよりは、と素早くエドモンド達が指示して扉を開けさせる。
屋敷の前に停まったのはやはり一台の馬車だった。落ち着いた濃い緑に塗られ、アクセントに艶消しの金の金具を使ったそれは、さほど大きなものではないが風格を感じさせる重厚な品だ。
「お待たせ致しました、エレーヌ様ニーナ様」
降りて声を掛けてきたのは、エレーヌ夫人のもう一人の義娘であるセイラだった。濃い色合いの長いローブを羽織り、その下に着ているのもすっきりしたワンピースだ。けれど一瞥でわかる程に上質なものである。
身体に沿う滑らかな質感は最高級の絹、斑のない濃緑は染めの技術も素材も見事であることを教えている。もちろん縫い目の見えない程巧みな縫製・裁断の技術は言うまでもない。
本来令嬢としては幾らかでも髪を結うのが正式なスタイルだが、真っ直ぐ背に下ろされた漆黒の髪は艶々と手入れがこれまで以上に行き届き、その青い瞳も何処か神秘的な光を放つようだ。それは言葉にせずとも、令嬢ではなく魔女としてあることを選んだと宣言しているような印象を与えた。
「まあセイラ、貴女が迎えに来てくださったの?」
「ええ。王太后殿下が、少しお話するのも良かろうと気を使ってくださって」
驚いたように声をかけたエレーヌ夫人に、セイラは真顔で頷く。続けて巡らされた彼女の視線に、夫人の後ろに控えていたニーナは深々と頭を下げた。
「ニーナ様も落ち着かれたようで何よりです」
「有り難いお言葉です、セイラ様。……本当に、貴女にお会い出来なかったらどうなっていたことか……」
「お気になさらないで。それに、貴女の処遇は王太后殿下のご高配あってのことです、よろしくお仕えください」
感極まる様子のニーナに対し、セイラは淡々としたものだ。
しかし思い返してみれば彼女は常にそうだった。貴族は感情を表に出すのはあまり誉められたことではないという、その中でも彼女は常に極めつけに冷静で感情を露にすることがまずなかった。それは時に婚約者であるフィリシウスの苛立ちを誘ったものだが。
「……セイラ嬢」
エドモンドにつつかれてあげたフィリシウスの声は僅かに上ずっていた。けれどそれに彼を振り返ったセイラの眼はやはり冷静で穏やかなもの。
「これは、フィリシウス殿下。……いえ、失礼致しました、侯爵閣下」

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