婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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魔女令嬢と元婚約者・3

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「っ、それは……」
「あ、ありがとうございます……っ!」
侯爵家の財政を支えていたセイラの水薬ポーションが扱えなくなるのは大きな痛手だ。それに代わる手段もなく、これは最大の懸案事項だったのだ。
「お気になさいませぬよう。領民が迷惑を被るのは可哀想ですもの。……貴族としての義務ですわ」
あっさり言い切ってセイラはエレーヌ夫人を見た。彼女は喜ばしそうに頬を緩めて頷いている。
本来『魔女』は他者の存在を気にかけないものだ。だが貴族としてあるなら自身を養う領民の存在を気遣うべき、としばしば言葉を尽くして説いた彼女の教育をセイラは理解している、その証だから。
とりあえずその場で簡単な打合せのみ済ませ、詳細はまた後日正式な契約を交わすことにした。セイラとしても、無駄にフィリシウス達を甘やかすつもりではない。彼女が卸したものが今までの購入者に購入できるようあまり利益は乗せないとか、決めることは多くそう容易くまとめ切れる話でもない。
「本当に助かる。ありがとう、セイラ嬢」
「……でしたら、閣下。私の名を呼ばないで頂けますか。私どもは既に婚約関係ではございませんし、不適切かと」
感涙に咽ばんばかりのフィリシウスに、セイラの言葉は淡々としたものだ、いつもの通りに。
「私のことは、どうぞ『森の魔女』とお呼びいただければ幸いです」
それは彼女にとって誇りでもある名前。自信と誇りに満ちた表情は、今までフィリシウスが見たことのない……或いは見ようとしなかったもの。
「……わ、わかった……ありがとう、『森の魔女』殿。……貴女のお気遣いに、心より感謝する。領民の分も含めて礼を言わせてもらう」
気圧されながらも、フィリシウスは何とか言葉を継いだ。
彼にとって長い間、セイラは『押し付けられた婚約者』であり、『無愛想な可愛げのない女』だった。時には言葉も交わすが、大概は苦言を呈され駄目出し嫌さに極力彼女を避けていたのだ。
だからこんな風に、落ち着き払って誇りに満ちた、魅力的な表情等見たことがない。己の力を信じ自分の足でしっかりと立つ自立した存在。
それは今のフィリシウスにはひどく眩しい。
今回の騒ぎで、彼が信じていた価値観だの人間関係だのは徹底的に粉砕された。信頼していたハーリット侯爵は糾弾の上左遷され、彼がそれまでにフィリシウスの周囲に干渉して、本来彼を正しく導くはずの人材を勝手に追い出していたことも確認された。あちこちに賄賂をばらまいていたらしい。それもハーリット家の負債の一因だったが、収賄側も問題があるとして返された金もそこそこある。
そしてフィリシウスの回りにいたのは、エドモンド等極少数を除けば権力のおこぼれ目当ての連中ばかりだったのだ。良き友人であり臣下であると信じきっていたフィリシウスには衝撃ショックが大きかった。

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